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Sランク冒険者に育てられた少女は勇者を目指す  作者: リズ
寒冷期事変

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冬の夜

 雪かきをした日の夜。

 夕食も早々に食べ終えた家族はリビングの暖炉にて暖をとりながら団欒だんらんしていた。


 パチパチと鳴る暖炉の火の音以外に聞こえてくる音といえば、マリネスが小説のページを捲る音やシエラが読んでいる魔物図鑑のページを捲る音。

 母アイリスが編み物をしているので、時折、編み棒同士がコツンと当たる音が鳴る。


 そのアイリスの横でリチャードに抱かれているセレネの「あー、うー」という可愛らしい声と、そのセレネを構っているリチャードの「おお。よしよし」という優しい声がアイリスとシエラには心地良かった。


 絨毯の上にリチャードの書いた魔物の特徴を示した図鑑を広げ、見下ろしているシエラに体を寄せて、ロジナは体を丸めて眠っている。

 たまに尻尾や耳がピクっと動き、その度にシエラが図鑑から視線を外してロジナを撫でた。


 もう何度も読んで内容も覚えてしまっているが、シエラはリチャードが書いた図鑑が好きだった。

 父がどんな魔物とどういう風に戦ってきたかという想像をするのが、シエラにとっては小説を読むよりも楽しかったのだ。


 1冊図鑑を読み終わり、シエラがリチャードの書斎から持ち出してきた古い図鑑を読み始める。


 この時、シエラは図鑑の違和感を持った。

 絵のタッチや書き込まれている文字がリチャードの物とは少し違うと感じたのだ。


「あれ?」


 図鑑を持ち上げ、シエラは表紙の裏や背表紙の裏を確認する。

 すると、シエラは思っていた通り、背表紙の裏に図鑑の著者の名前が書かれているのを見つけた。


「ウィリアム・シュタイナー」


「ああ。それは私の父の名だよ。シエラとセレネのお爺ちゃんだ。随分と古い図鑑を見つけたんだな。無くしたと思っていたよ」


 呟いたシエラの疑問に答えた父は、シエラの持つ図鑑の表紙を見て寂しそうに微笑んだ。

 懐かしく、愛しい物だが、もう二度とは手に入らない宝物。

 そんな代物を分厚い硝子がらす越しに見つけたような、そんな寂しげな微笑みだった。


「お爺ちゃんってどんな人だったの?」


 微笑んでいる筈なのに泣き出しそうなリチャードに聞くと、シエラは図鑑を絨毯の上に開いて置き、1ページ目から読んでいく。

 暖炉の火の光に照らされオレンジ色に染まる図鑑の1ページ。

 

 リチャードは天井を仰ぎ、目を閉じて一息置くと「私の父は学者だったんだ」と父親の話を始めた。


「父は体格に恵まれなくてね、冒険者にはなれなかったらしいんだが、それでも冒険者という職業への憧れは捨てきれなくてギルドの職員を目指したらしい。詳しく聞く事は無かったが、父は冒険者ギルドの職員から現地に赴く魔物の生態を調べる学者になった。たぶんだが、現場に出て冒険者達と肩を並べたかったのかも知れないな」


 セレネをあやしながら、リチャードは父ウィリアムとの思い出をシエラに話して聞かせた。

 絵の描き方や、調査してきた魔物の特徴を、シエラとセレネの祖父ウィリアムは幼いリチャードに嬉しそうに、そして楽しそうに語ったそうだ。


「優しい人だったよ。私を愛してくれてたし、母をなによりも誰よりも愛していた。私もいつか父のような大人に、凡才だろうとも父のようになりたいと、強く思っていたよ」


「お爺ちゃん、事故で死んじゃったってお父さん言ってたね」


「事故。そうだな。話だけ聞けば調査中に魔物に襲われて死んだという物だったがね。私は……違うと思っているよ」


 セレネの頬を撫でながら、此方を向くシエラの目を見てリチャードは話す。

 母が亡くなってから明らかに病んでいた父ウィリアムとの最後の会話をリチャードは今も忘れられないでいた。


『リック。お母さんの事、すまなかった。私がまともに働けていれば、リックと一緒に冒険者として金を稼げていたなら。エリクサーが買えたかもしれないのに』


 リチャードが二十歳を迎えた直後、病死した難病だった母。

 その母を見送った数日後、仕事に向かうリチャードにウィリアムはそう言うと自分は自分で魔物の調査の為に仕事に出て、そして死んだ。


「父さんは魔物に襲われて、たぶん全部諦めたんだ。母が死んで気を病んでいたんだろうな。だから、あの日は事故ではなく、父さんは"自殺"したんだと今でも思っている。逃げようと思えば逃げる事は出来たんじゃないだろうか。最後の瞬間、調査していた魔物、確か竜科のワイバーン種だったかに一飲みにされる瞬間、寂しそうに笑っていたと、当時同行していた冒険者の方に聞いたよ」


 思い出話が予想していたよりも遥かに重くなってしまった為、シエラがリアクションに困り果てていると、リチャードの横で座って編み物をしていたアイリスがリチャードに頭突きをして話を中断させた。


「ぐお。アイリス、こめかみに頭突きはいかんぞ」

 

「はいはい。昔話はお終い、じゃあ私達はお義父様やお義母様の分まで幸せにならないとねって話でしょ? シエラちゃん、はいこれ巻いてみて」


「わ、マフラーだ。ありがとうお母さん。お母さんって意外に器用だよね」


「意外にって。まあ、確かに良く言われるけど」


 全くけなしたつもりのないシエラはアイリスから編まれた真っ赤なマフラーを受け取り、首に巻く。

 その温かさを実感するように、シエラはマフラーに顔を埋めると、父であるリチャードと母であるアイリスに「お父さんとお母さんはいつまでも元気でいてね」と呟き絨毯に座り直すと、祖父の作った魔物図鑑を大事そうにゆっくり読むのだった。

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