冬のドタバタ
「診療所には僕とリンネで連れて行くよ」
「分かった。そっちは頼む」
アイリスが金髪の女性を着替えさせた後、アルギスがリンネに女性を背負わせてからそう言ったので、リチャードはそれを承諾。
アルギスとリンネを見送った後、リチャードはシエラを伴って二階の掃除を始めた。
「嵐でも来たみたいだったね」
「ああ、本当にな。なんだったんだろうな。快復すれば良いが」
「綺麗な人だったけど、お父さんから見てどうだった?」
「ははは。私はお母さん以外には興味ないよ」
「ご馳走様?」
「やめなさい。はあ、しかし困ったな。すまないシエラ、屋根の修理を頼みに行くから留守番を頼むよ」
「ん。分かった」
屋根の穴を見上げてやれやれと首を横に振り、肩を落とすと、リチャードは手早く掃除と片付けを終え、シエラを家に残して商業ギルドへと向かっていった。
家にはシエラと母アイリス、妹のセレネ、マリネスの4人が残っている。
暇を持て余したシエラは、セレネをあやす母、アイリスが待つリビングへ向かった。
「シエラちゃん。お父さんは?」
「屋根の修理を頼みに行ったよ」
「あら。そうなのね。晩御飯どうしようかしら。シエラちゃん、セレネを見ててくれる?」
アイリスに言われ、シエラは頷くと、セレネを抱っこしようとするが、それまで機嫌良さそうにしていたセレネが泣き出しそうになったので、両手を上げてシエラは後退る。
「あらら。セレネェ、お姉ちゃんに抱っこしてもらわないの?」
困ったようにセレネの背中をポンポンと撫でながらアイリスはソファから立ち上がり、リビングをぐるぐると歩き始めた。
そして、セレネの機嫌が良くなったのを見計らい、再びセレネをシエラに抱かせようとする。
すると、今度はセレネは泣かずにシエラに抱かれ、姉の肘に頭を預けたセレネは機嫌良さそうに笑った。
「よし。じゃあ久々にお母さん頑張っちゃうぞー」
腰に手を当て、ない胸を張り、やる気に満ち満ちたアイリスは寝巻きのままキッチンに向かう。
しかし、母が離れた事を感じてか、セレネが再び泣き出しそうになった為、シエラもキッチンへ向かい、セレネと共にアイリスが晩御飯を作っている様子を見守っていた。
その後、マリネスが母を手伝い、晩御飯が完成。
丁度その時リチャードが「ただいま」と帰ってきた為、母とマリネスは配膳の為にキッチンとダイニングを往復。
シエラはセレネを抱えたままリチャードを迎えに玄関へと向かった。
「お父さんお帰り」
「ただいまシエラ。お、セレネぇ。お姉ちゃんに抱っこしてもらってるのかあ。良かったなあ」
寒い外から帰ってきたリチャードが微笑みながらシエラの頭を撫で、セレネの頬をつつく。
その指を、セレネがぎゅっと掴み笑った。
「あったかいなあ」
「お父さん大丈夫?」
「ああ大丈夫だよ。おいで2人とも」
セレネから指を離してもらい、リチャードはセレネを抱えたシエラを抱き寄せた。
冷えた体に子供の体温がじんわり暖かい。
リチャードは昔、寒い日に家に帰った際に母親に抱き締められた時の事を思い出していた。
(母さんはどんな気持ちで私を抱き締めてくれたんだろうなあ)
「リック? シエラちゃん? ご飯出来たわよ? 何してるの? あ、もう。私も混ぜなさいよー」
なかなかダイニングにやって来ない2人の様子を見に、アイリスが寝巻きにエプロンを着けたままの姿で玄関へとやって来た。
そのアイリスが身を寄せ合うリチャードとシエラを見て、自分もと2人を包むように手を回して抱き締めるとニコッと笑った。
「お帰りリック。外寒かったんじゃない?」
「ああ、予想以上に冷える。修理は明日以降になるから今日は応急でなんとか穴を塞がないと家が保冷庫になりかねん」
「魔法で塞ぐ? 氷魔法とかで」
「そうだな、穴を蓋げるように板を何枚か貰ってきたからそれを氷魔法で固定しようか」
作戦会議もそこそこに親子は立ち上がるとダイニングの出入り口で心配そうにこちらを見やるマリネスの方へと歩き出す。
そして夕食を終えた後、リチャードはシエラと共に屋根に上がり、とりあえず穴を塞いで本日のドタバタに終止符を打ったのだった。




