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Sランク冒険者に育てられた少女は勇者を目指す  作者: リズ
後日談から始まる物語
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ギルドでの出来事

 次の日。シエラとリチャード、アイリスは3人揃って家を出た。今日はロジナは留守番だ。3人が家を出る際、ロジナは玄関で背筋を正すようにお座りして「お留守の間、御自宅の警備はお任せ下さい」とシエラとリチャードに言って吠えた。


 そして、家を出たシエラとリチャードは共に街のほぼ中央に位置する冒険者ギルドへと向かい、アイリスとは自宅近くの診療所への分かれ道で分かれる。


 街を歩いていると、度々リチャードが顔見知りの住人などに「シュタイナーさん⁉︎ 帰ってきたのかい⁈ 行方不明って聞いて心配したんだよ」と呼び止められる事が多々あった。


 街の住人達と挨拶を交わし、足を止めて話をしながらだった為、ギルドに到着したのは昼前になってしまう。

  

「ふう。すっかり話し込んでしまった」

 

「皆、パパの事好きなんだね」


「そうだと嬉しいが。まあ行方不明者が帰還したなら皆話し掛けもするだろう?」


「どうだろ。なんとも思ってない人には話しかけない気がする」


 シエラとリチャードはそんな話をしながらギルドの扉を開く。

 丁度その時だった。

 扉を開けた時、中にいた冒険者パーティが数名何やら揉めており不機嫌そうに眉をしかめる剣士の若者が弓を背負った若者に掴み掛かって「俺の獲物を横取りしやがって!」と怒号を放った。


 本来なら他所様のパーティの問題に首を突っ込むべきでは無いのだが、何せフロアの真ん中で喧嘩が始まりそうなうえにシエラの冒険者登録にはそのフロアを横切らなければならず。

 こういう事態を仲裁するべきギルドマスターであるアイリスが不在な為、リチャードはシエラに「すまない、少し話を聞いてくるよ」とシエラを待たせて揉めているパーティの方へと向かった。


「いっつも、いっつも横から獲物を掻っ攫いやがって! 気に食わねえんだよ、お前は死に掛けの魔物しか相手に出来ねぇのか⁉︎」


「いや、それはいつも君が仕留め損ってるからだろ! 仕留めとかないと後ろから何されるか分からないじゃないか!」


「死に掛けの魔物に何が出来るってんだよ、ああ? そんな奴後で止めを刺せば良いんだよ! 死に掛けの魔物ばっかり倒すお前と命張って魔物と対峙してる俺達の報酬が均等なわけねぇよなあ? むしろテメェみたいな奴要らねぇんだよ! 今日でこのパーティから出ていけ‼︎」


 弓使いの胸ぐらを掴む剣士がそう言いながら弓使いを突き飛ばそうと腕に力を込める。

 しかしそんな剣士の手を、リチャードが掴んで止めた。


「パーティを出て行けは言い過ぎだ。横槍を入れて済まないが、聞く限り弓使いの彼の言い分が正しいよ」


「あ? なんだオッさ、え? もしかして、リ、リチャードさんですか?」


「おや、君のような若者にまで名が知れているとは。はじめまして、ではないんだろうな。すれ違った事くらいはあるのかな? まあ今はそんな事より、揉めていたようだったので話を聞いてしまったが。さっきも言った通り弓使い君の判断は正しいよ」


「で、でもコイツいっつも死に掛けの奴しか倒さないんですよ?」


「ホーンラットも窮地においてはイービルキャットの胸を穿つという言葉を知らないかい? 弱者も追い詰められた時には強者に牙を剥くという事なんだが、魔物にはしっかり止めを刺すのが定石だ、養成所で習わなかったかい?」


 街でちょっとした有名人であるSランク冒険者の介入により、若い剣士は弓使いから手を離し、急に手を離された弓使いの若者は後退る。

 リチャードは剣士から手を離すと、弓使いと剣士の間に立って話を続けた。


「魔物との戦いで油断は禁物、確殺していない魔物を残せば仲間や自分にいらぬ被害が及ぶ時がある。

 それはそれとして、君達はパーティなんだ、ちゃんと話をしなさい。一方的に理不尽な言葉をぶつけ、暴力で仲間を排除すればいつか痛いしっぺ返しを喰らう事になる。

 そういうパーティを私はたくさん見てきた。せっかく多くの冒険者の中で君達はそれぞれ出会い、共に戦っているんだ。

 もう一度パーティ皆で話し合ってみなさい、そしてお互いの事を良く知るんだ。そうすれば君達はもっと活躍出来るパーティになる」


 リチャードの言葉に納得したのか、はたまた納得していないのか、それは剣士の若者にしかわからないが、少なくとも怒りは鎮まったようだ。


 剣士の若者はリチャードの言葉に小さな声で「はい」と言うと弓使いの若者に「さっきは掴み掛かってごめん」と頭こそ下げなかったが謝罪の言葉を述べ、パーティ皆でリチャードに頭を下げると食事処へと向かって行った。


「聞き分けの良い若者で良かった。さあシエラ、待たせてしまったが、いよいよ冒険者登録だ、受付に行こうか」


「ん。行く。ねえパパ、さっきの人達大丈夫かな」


「大丈夫さ。あそこで私の言葉を突っぱねて仲間を追放すれば残ったパーティの間でも軋轢が生まれて、結果パーティ解散となっただろうけどね。しかも悪い噂には尾鰭ももれなくついてくる。

 追放した側はろくな目に合わない。だけど彼等は歩み寄る事を選んだ。若い彼等には伸び代しかない。

 おそらく強く成長するだろう。もしかしたら将来的にはSランクパーティになるかも知れないな」


「私も負けない」


「ああ、そうだな。応援してるよ」


「パパも頑張ってね」


「ははは。そうだな、私も頑張らないとな」


 こうして一つ、アイリスの代わりというわけでは無いが、ギルド内での冒険者パーティの問題を解決し、リチャードはシエラと手を繋いで受付に向かう。

 そして滞りなくシエラは冒険者登録を終え、冒険者見習いを示す白いギルドカードを手に入れるのだった。

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