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父の友人

 全身丸焼けのルグナーは、頭部を半ば潰された状態で洞窟のあった場所に出来上がった小さなクレーターの斜面までの十数メートルを吹き飛ばされ、力無く倒れ伏した。


 一撃で完全に気を失ったのか、遠目にルグナーが動かなくなったのを確認したリチャードは倒れている娘の元に駆け寄ると、抱き起こして拙い回復魔法を娘に使用して介抱する。


「大丈夫か?」


「ん。大丈夫、大丈夫だよパパ」


「凄まじい一撃だったな。トールスやリンネみたいだったよ」


「見てたの?」


「あー、嫌。直接見た訳ではないんだがね。ただ放出された魔力波形はシエラの物だったから、シエラがやったというのは分かったよ」


 疲れ果てたシエラが大好きな父親に褒められたのが嬉しくて満面の笑みを浮かべた。

 先程リグスが見た後ろ暗い感情からくる嫌らしい笑みでは無い、子供らしく可愛い笑顔だった。


「先生、シエラちゃん大丈夫ですか?」


 シエラから少し離れていた場所に両膝を付いてへたり込んでいたマリネスが、杖を持つ事も忘れて一目散に掛けてきてシエラの傍に座り込む。


 綺麗な白いローブは土埃で見る影もない程汚れ、髪や顔も土にまみれているが、マリネス含めてリグスやナースリーも爆心地近くにいたにしては奇跡的に無傷だった。


「シエラは無事だ。魔力が枯渇したのと疲労で倒れただけみたいだ。大丈夫、直ぐに動けるようになる。君達こそ大丈夫か?」


「先生達に鍛えられてたおかげで無事っす」


「マリネスちゃんの防壁魔法もあったしねえ」


 ナースリーに支えられてリグスもシエラの近くに来てリチャードにそう言って笑って見せたが、顔には疲労の色が見てとれる。

 ナースリーも体力、魔力共に限界が近いのか疲労困憊ひろうこんぱいの様子。そんなナースリーにマリネスは首を傾げた。


「え? あの防壁魔法はナースリーちゃんが発動したんじゃないの?」


「ううん。違うよ? じゃあもしかしてシエラちゃんが防壁張ってくれたって事?」


「ごめん。あの時はアイツを倒す事しか考えてなかったから、防壁魔法を使う事は考えてなかった」


「じゃあ誰が」


 シエラの魔力による斬撃爆破の際、マリネスとリグス、ナースリーを守るように顕現した防壁魔法の使用者が誰か分からず首を傾げる子供達。

 魔法が苦手なリチャードでも無いため、リチャードも子供達と同じように困惑するが、考えても仕方ない為「とりあえず帰ろう」という事になり、リグス達を先にクレーターから出すとポーチからロケット花火のような信号弾を取り出した。

 信号弾に火を付け、上空に発射、近場の村で待機している馬車の御者に合図を送り、シエラを抱えてクレーターを出ようとするリチャードの胸にシエラが顔を埋める。


 そんな2人に、業火が迫った。


「逃がすかよ勇者ぁあ! 貴様は! 貴様だけは道連れにしてやるぞ!」


 ルグナーだった。


 回復し切れていないボロボロの身体。顔面も半分は潰れ、背中の羽根はもげ落ち、腕も片腕は完全に焼失して下半身も炭化している。

 それでもルグナーはシエラを殺す為に回復より攻撃に魔力のリソースを割いて魔法を発動した。


 しかし、親子を狙った業火は標的に辿り着くより遥か前に現れた防壁魔法により消え去る事になる。


「無粋無粋。ずっと視てたけど、君はなんていうか、つまんないねえ」


 防壁魔法が出現した上空に、金の装飾が施されたフード付きの黒いローブを着た青年が杖を携え浮いていた。

 フードを目深に被ったその青年がおもむろに指を鳴らす。

 すると、ルグナーの頭上に黒い球体が現れた。

 ルグナーが剣を取り出していた黒い穴と良く似ているが、何かを排出するで無く、その球体はルグナーとルグナーの周囲を吸い込み始める。


「ま、マイクロブラックホール⁉︎ 重力魔法の最上位だと⁉︎ 神代の魔法だぞ、何故使える? 貴様何者、いや待て! コレを止めろ!」


「いやあ友達の敵は僕の敵だし。何より君魔族でしょ? 待たないし助けないよ。じゃ、そういう事で」


「ま、待て! 止めろ! たすけ」


 黒い拳程の球体はルグナーとルグナーの立っていた地面の一部を抉るようにを吸い込むと音も無く消えた。

 そして、現れた青年は上空からリチャード達の元へと降りてくるとフードを脱ぎ「やあ、久しぶりだねえ。リチャード」と笑顔を向けた。

 リンネと似た漆黒の髪、闇のような黒い瞳、やや垂れ目で優しそうな顔。左目尻の下には泣きぼくろがある。年齢は二十代半ばといったところか、シエラから見ればトールスやリンネと同じ年頃に見えた。


「お前、まさかアルギスか?」

 

「お、ちゃんと覚えててくれたんだ。久しぶりだから忘れられてるかと思ったよ。最後に会ったのが8年前とかだもんねえ」


「ハハハ! お前、今までどこで何してたんだ! 急にいなくなりやがって!」


 抱きかかえられているシエラが驚いて目を丸くしてリチャードを見た。

 父親がここまで砕けて話す様子を今まで一度も見た事が無かったからだ。


「パパ。この人誰?」


「ああ、コイツはパパの友達だよ。リンネの魔法の師匠でもある」


「友達? でもこの人、人間じゃないよ?」


「へえ。君分かるの? 凄いじゃん。リチャード、この子君の何? パパって言ってたけどまさか子供? 8年前、君に子供なんかいなかったよね」


「何から話せば良いか、まあ待て、せっかくの再会だ。ゆっくり話そう」


 こうしてリチャードは久方ぶりに再会した友人にシエラとの出会いからこれまでの事を森を歩きながら話し、迎えにきた馬車の荷台に乗っている最中に話し、街に帰り、ギルドへ向かう途中も話して聞かせた。


「へえ〜。僕が世界一周してる間に色々あったんだねえ。いや、しかし君とアイリスのお嬢ちゃんがちゃんとくっつくとは。長生きしてても予想出来ない事が起こるってのはやっぱり新鮮で楽しいもんだねえ」


「それも全てシエラのおかげさ。ちょっと待っててくれ。今回の件をギルドマスターに報告してくる。それまで娘と話してやってくれ」


 こうしてリチャードは疲れ果てているシエラと友人のアルギスを食事処に残し、リグス、ナースリー、マリネスを連れてギルドの2階へ向かって行った。

 用心深い父が自分を任せるあたり信頼できる人物のようだ、とシエラは警戒を解き、しかし気になる事があってアルギスをジロジロ眺めた。


「熱い視線だねえ。僕の身体の事が気になるかい?」


「ん。ちょっと気になる。貴方からは人間の匂いよりもどっちかと言うと」


「良い鼻だ。確かに僕は人間じゃないよ。どちらかと言えば魔物に近いかな。僕は魔法使いでね、魔石を取り込んだりして自分の体で色々実験してたら不老になっちゃったんだ」


「魔法使いならいっぱいいるけど」


「ああ違う違う。職業としての魔法使いでは無くて、僕はこの世界で唯一種族としての魔法使いになった、進化した人間なんだ。定義としてはね」


「えっと?」


「細かい事は気にしなくて大丈夫だよ。間違いなく言えるのは僕は君達の、人間の味方って事さ。君と同じで特級加護持ちだしね」


 言いながらアルギスは自分の黒い髪を引っ張りながらポカンとしているシエラに笑みを浮かべると、近くを通ったウェイトレスに「あ、オーク肉の串焼きと果汁酒一つ」と言って機嫌よさそうに肘を付き顎を手に乗せる。


「君のパパとは君のパパが君の歳くらいの頃に出会ってねえ。懐かしいなあ。リチャードの少年時代」


 シエラを置き去りにして昔話を始めるアルギス。

 しかし、アルギスの昔話は「シエラちゃん大丈夫?」という現在のギルドマスター、ミリアの声で中断する事になった。

 リチャード達の報告を聞いて、シエラを心配して執務室からリチャード達と様子を見に来てくれたのだ。


「ごめんなさいシエラちゃん。まさかギルドに過激派の魔族が潜り込んでいたなんて」


「ミリア姉ちゃんが謝る事じゃないよ」


「ありがとう、でもそうはいかないの。お詫びはするわ。何か欲しいものとか、食べたい物はない?」


「お肉いっぱい食べたい」


「分かった。今日はお姉さんがご馳走しちゃうわ」


「やったー」


「ああ、じゃあ僕も頼むね」


 喜ぶシエラの目の前で、ミリアにヒラヒラ手を振るアルギス。

 そのアルギスを見てミリアはモノクルを掛け直すと驚いているのか、目を丸くして「め、メテオール?」と口から絞り出す様に言った。


「そうそう、アルギス・メテオール。魔法使いのお兄さんだよ?」


「いつ帰ってきたの?」


「さっき」


「お、お帰りなさい」


「うん。ただいま。さあさあ今日はシエラちゃん達の昇格任務だったんでしょ? もちろん合格だよね? じゃあ、お祝いしようよみんなで」


「ふむ。そうだな。しかし家に帰ってアイリスとも祝いたいから程々にな」


 こうしてシエラ達の昇格任務は終わり、4人はめでたくCランク冒険者、見習いではなく一人前の冒険者となった。

 そしてリチャードの友人、アルギスの提案通り、居合わせた冒険者全てを巻き込み祝勝会をする事になる。

 

 とはいえ子供達は疲労困憊だ。

 夜遅くなる前にシエラ達は帰路につく事になった。

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