地下空洞での戦い
ルグナーがエドラの冒険者ギルドに現れたのは丁度シエラとリチャードが神隠しに遭った直後だった。
王都からの派遣職員という肩書きだったらしいがどうやら偽造だったらしい。
魔王から青い髪の少女を探して殺せと命令され、魔界から各国、各地に散った勇者暗殺部隊の1人であるルグナーはシエラと出会った当初顔にこそ出さなかったが歓喜した。
予想よりも幼く、与し易いと感じ、これなら楽に仕事が終わりそうだと考えたからだ。
しかし現実はそうでは無かった。
青い髪の冒険者見習いの少女は既に人外じみた力を振るい始め、ルグナーを追い詰めようとしていた。
「君達ゴブリン達の相手したばっかりだろ? 疲れてないのかい?」
「敵の心配? 余裕だね」
「そうでも無いよ」
シエラが魔銃剣を振り上げ、ルグナーの剣を弾き上げる。
そこに、リグスが飛び込み盾の縁で腹を狙って殴り掛かった。
その一撃を魔力の壁を作って間一髪受けるが、直後ルグナーはマリネスが地面から出現させた岩の杭、ロックステークを受ける。
「驚いたよ。陛下の言ってた通りだ。勇者のパーティは成長が著しい、倒すなら幼いうちに。ってね」
「効いてないの?」
「なら今度は私がやるよ!」
マリネスのロックステークに足や胴体を貫かれているはずのルグナーが不敵に笑う。そんなルグナーに向かって今度はナースリーが魔法を使った。
雷属性の魔法の中で最も初期に覚える攻撃魔法。杖から雷撃を放つ雷の槍【ライトニングランス】をルグナーの胸目掛けて放ったのだ。
「なんだかんだ言いながら、敵と見做せば容赦ないね君達」
余裕の笑みを浮かべたままのルグナーを、ナースリーの雷撃魔法が撃ち貫き、ロックステークにより地面に縫い付けられたルグナーは胸を貫かれ、項垂れた。
力無く項垂れるルグナーに4人は近付こうともしない。
代わりにシエラがダメ押しにと言わんばかりに魔銃剣にてルグナーの頭を狙い撃つ。
しかし、首を垂れていたはずのルグナーは体を持ち上げると腕を振り、シエラの放った魔力の弾丸を斬り払った。
マリネスのロックステークも剣撃により破壊するとルグナーは「ハッハッハ! いやあ大したものだまさかここまで動けるとは」と高らかに笑うと手で口元を覆う。
そんなルグナーの傷。先程マリネスのロックステークが貫いた足や腹、ナースリーの雷撃が貫通せしめた胸の穴がジュルジュルと嫌な音を鳴らしながら塞がっていくのが薄暗い洞窟の中でも4人からははっきりと見えた。
「効いてないのかよ」
「いやいや。ダメージはあるとも。回復速度が異常なだけでね」
冷や汗を流すリグスにルグナーは嫌な笑みを浮かべて言った。
その表情は確かに笑っているが、今までの優しい受付けのお兄さんのような物ではなく、リグスやナースリー、マリネスにはその顔が獲物が弱っていく眺めている捕食者を思わせ、3人を戦慄させる。
だが、シエラはそんな事お構いなしに再びルグナーに距離を詰め、魔銃剣を振った。
「君は本当に面倒な奴だな。ちょっとは怖がってくれよ、楽しめないじゃないか」
「アナタなんか怖くないよ」
帰郷の途中で待ち伏せしていた父の師匠の亡霊の方がよっぽど怖かったな、と思いながらシエラはルグナーと斬り結ぶ。
父であるリチャードと比べると、遥かに劣るルグナーの剣の腕。
だが、まだまだシエラも未熟だ。双方傷を増やしていく。
問題はルグナーの異常な回復力だ。
傷を付けても直ぐに回復してしまうので、側から見ればシエラの傷だけが増えていった。
「どうした勇者ちゃん。そんな物かい?」
「いや。まだだよ」
「ホント、可愛げないなあ。どうせここで死ぬんだからさ。せめて泣き喚いて見せてよ」
「黙って。私は敵の前では、泣かない」
「ふーん。じゃあちょっと余興といこうか」
背中の鞘から聖剣を抜き、肩に担いで構えたシエラから距離を取ると、ルグナーはゴブリンの死体が転がる地下空洞の中央辺りへ向かう。
そして何匹かのゴブリンの魔石を死体ごと身体に吸収。
魔力を回復させる為に取り込むと、足元に魔法陣を展開した。
迂闊に近付くのは危険と感じたシエラ達だったが、その間もシエラ達は魔法で攻撃するがルグナーは意に介さない。
「酷いなあ家族に攻撃するなんて」
聞き覚えのない、知らない声だった。
シエラ達の魔法の余波で舞い上がった土煙。
その土煙が晴れた時、魔法陣の中央に立っていたのはルグナーでは無く、知らないが何故か見覚えがある様な気がする女性。
シエラにはそう見えた。
「な、なんで母ちゃんがここに」
「お父さん? なんで」
だが、その女性の姿はリグスには自分の母親に、ナースリーには自分の父親に見えているようだった。
マリネスも「お父様?」と困惑の表情を浮かべている。
どうやら4人はルグナーを別々の人間と認識している、認識させられているようだった。




