シエラ達の元に現れたのは
ゴブリン15体を12歳の少年少女4人だけで殲滅する。
そんな御伽話を誰が信じるだろうか。
「ああ〜疲れた〜」
「お疲れ様リグス。2人を守ってくれてありがとう」
「別に俺だけの成果じゃねえよ。セルグとナズの援護が無けりゃやられてた。お前にも助けられたしな」
リグスがシエラの労いの言葉に苦笑しながら答えた。
シエラのパーティ、アステールの4人はゴブリン軍団を殲滅し、討伐の証拠として倒したゴブリンの耳を切り取り、袋に詰めていた。
ゴブリンの青い血が手に付着するのも気にせずリグスが率先して耳を切り取っているが、それは女性陣の手を汚したくないという、ちょっとしたリグスの想いからだ。
しかし、遂にリグスは体に付着したゴブリンの血の匂いに参ってしまったのか、ゴブリンからの剥ぎ取りを中断するとシエラの近くまで歩いて行った。
「シュタイナー、すまん水頼む」
「ん。おっけー」
リグスの要望に答え、シエラはリグスの頭上に魔法で水の球を造り出し、少しずつ水球から水を流していく。
その水をリグスはシャワー代わりに頭や顔を洗い、ゴブリンの返り血を流していった。
そんな時だった。
入ってきた坂の上の方でズズズッと何か重量物が引きずられる様な音が聞こえてきた。
4人からしてみれば付き添いのリチャードが罠を解除し、出入り口を塞いでいた岩を移動してくれたのだろうと考え、リチャードが姿を現すのを待った。
しかし、そこに現れたのはリチャードでは無かった。
「わあ。コレは凄いね。まさかゴブリンの集団を子供だけで全滅させるなんて」
現れたのはシエラ達のパーティ4人に優しく接し、仲良くしてくれているギルドの受付けの男性。ルグナーだった。
「ルグナーさん?」
「なんでここに」
付き添いのリチャードでは無く、ルグナーが現れた事に首を傾げるリグスとナースリーは本当にルグナー本人か確認する為に坂の方へと歩いて行く。
そんな2人の疑問に答えるようにルグナーは坂をゆっくり歩いて下りながら「様子を見に来たんだ」と言うと掛けている眼鏡を外して投げ捨てた。
「それにしても見事だ。流石は勇者御一行。子供4人程度ならゴブリン達だけでどうにでもなると思ったんだけどなあ。まさかこんなにも成長が早いなんてねえ」
「リグス! ナズ! ソイツから離れて!」
普段大声を出さないシエラが叫び、腰に納めていた魔銃剣を抜きながら駆け出し、リグスとナースリーの前に佇むルグナーの眼前に割り込んだ。
その瞬間、ガキンと音をたてる魔銃剣。
リグスとナースリーが見たのは、何も無い空間に作り出した黒い穴から剣を取り出したルグナーと鍔迫り合いの状態になったシエラの後ろ姿だった。
「あらら仕留め損なっちゃったか。全く邪魔をしてくれるねえ。でもまあ。勘の良い子供は嫌いじゃないよ」
「アナタ、誰?」
「誰とはつれないなあ。良く知ってるだろ? ルグナー本人だよ」
「そういう事を聞いてるんじゃないよ」
「ああ。じゃあ改めて自己紹介しようかな」
言いながら、ルグナーは力任せに剣を振る。
その剣にシエラは魔銃剣を弾かれ、体勢を崩すが、横に跳んで追撃は回避した。
「っち。ダメか。どんな反応速度してるんだか。まあ良いか。時間はたっぷりあるし。では改めて、僕は魔王軍の勇者暗殺部隊所属のルグナー。分かりやすい部隊名でしょ? 君達が街から離れてくれるのを待ってたんだ、良く来てくれたねえ」
「な、なんの冗談なんですかルグナーさん」
「冗談、では無いよマリネス・ツー・セルグ。セルグ家の末妹ちゃん。はあ。それにしても、全く僕は運が良い。潜伏していた街が勇者の故郷だったんだからね。幼いとは言え勇者は勇者。勇者パーティを全滅させて帰れば僕の魔王軍での立場は盤石、大出世も間違いなし。だからさ、殺すね?」
受付けに座っている時と同じ笑顔でルグナーは殺気を垂れ流す。
その様子にリグスは盾と剣を構えてナースリーの前に移動し、ジリジリ後ろに退がっていく。
それを見てナースリーも杖を構えながらジリジリ後ろに後退してマリネスの方へとリグスと共に退がっていった。
「なあルグナーさん。本気で俺たちを殺すつもりなのか?」
「ああ本気だとも。将来魔王軍に害をなす存在である勇者とそのパーティなんて生かしてはおけないからね。全ては魔族の為、魔王様の御心のままに」
「そんな……」
「そっか。じゃあアナタは、敵だね」
冷や汗を流すリグスの問いに、余裕の笑みを浮かべながら答えたルグナーに、シエラが身体強化の魔法を発動して突撃した。
その突進力たるや猪型の魔物も真っ青な程だった。
魔銃剣を袈裟に振ったシエラの一撃をルグナーは剣で防ぎはしたが、体は後ろに吹き飛ばされ、持っていた剣は折れて、いや斬れてしまった。
「ははは! なんの冗談だよ。子供の身体強化の出力じゃ無いでしょコレ。これが勇者の力か。陛下が恐るわけだ。しかも僕の自慢の剣を斬るなんてねえ。魔界の名工の剣なんだけどなあ。なんなんだいその剣。まさかアルティニウム製だとでも言うんじゃないだろうね?」
「だったら何?」
「ええ〜。本当にアルティニウム製なの? 物騒な物持たせるなあ君の親は」
後ろに吹き飛ばされ、壁に叩き付けられたはずのルグナーだったが、ダメージは見受けられない。
しかし全くのノーダメージというわけでは無いらしい。
ルグナーは口から流れ出た魔物と同じ青い血を地面にぺっと吐くと斬られた剣を捨て、再び黒い穴を造り出し中から同じ剣を取り出して構えた。
「じゃあ今度は僕の番だ。出来れば抵抗しないでほしいな」
ルグナーの目、強膜が黒く染まり背に黒い蝙蝠のような翼が現れる。これだけで、ルグナーが魔族というのは一目瞭然だった。
そんなルグナーを目の前にしても、仲良くしてくれた気の良い兄の様な存在だった彼が敵だと信じたくないリグスとナースリー。
しかし、シエラが敵と定め、そんなシエラを信じて援護を始めたマリネスを見て、リグスは「くそ! なんでだよ! なんで!」と叫び、それでもシエラに続く為に身体強化魔法を発動し、ルグナーに、敵である魔族に向かって駆け出した。




