【アステール】VS ゴブリン軍団
盾とショートソードを構え、リグスが坂を下ろうとしたのをシエラが肩を掴んで止めた。
幼馴染を笑われて怒り心頭のリグスは不機嫌そうに「なんだよ」とシエラに振り返る事無く言うが、その瞬間、シエラの手刀がリグスの頭部を叩いた。
「イッテェなあ。何すんだよ」
「熱くなるのは分かるけど先走らないで」
「……分かった」
師であるリチャードやトールスの「戦時ほど熱く、且つ冷静であれ」と言う言葉を思い出し、リグスは駆け出したい気持ちを抑え、シエラに従い足を止めた。
退路を塞ぎ、数的有利なゴブリン達は獲物がビクビク怯えながら坂から降りてくるのを待っている。獲物である人間が恐怖から取り乱して狂乱する様を見て笑うつもりなのだ。
しかし、今日この場にやって来た人間の子供四人は様子が違った。
「マリィとナズはこの坂の上から奥にいるゴブリンアーチャーとメイジの処理を優先して。その後は私達の援護をお願い。リグスは坂を背にして戦ってゴブリン達を絶対マリィとナズに近付けないで」
「わ、分かったよシエラちゃん」
「お前はどうすんだよ」
「私はまあ。暴れるだけ、かな?」
リグスの問いに答えながら、シエラは左手に持つ魔銃剣の魔石に魔力を込めていきながら、背中に担いでいた聖剣を抜き、坂道を下り始めた。
「まあいつも通りか。シュタイナー、怪我すんなよ?」
「ん。分かってる。みんなも気を付けて。じゃあ行こうか」
リグスとシエラはマリネスとナースリーを坂の途中に置いて下に下りると身体強化魔法を発動。
それと同時にシエラは最も近くに佇むゴブリンへと駆け出すと左手の魔銃剣を突き出した。
不意の一撃に棍棒を振り上げようとするゴブリンだったが、シエラの突きはゴブリンの顔面を貫通。シエラはそのまま魔銃剣から魔力で編んだ弾丸を発射。
殺したゴブリンの背後に潜んでいたゴブリンの眉間に穴を穿ち絶命させた。
「ん。とりあえず2体」
シエラの強襲に、ゴブリン達はもちろん激怒した。
シエラ達4人より小さな小鬼達は2つの部隊に分かれ、片方はシエラの元へ、もう片方の部隊はリグス達の方へと向かって行った。
その遥か後方。
壁の近くの柱の影から奪った物か、作った物かは定かではないが弓を構えたゴブリンがシエラを狙って弓を引く。
だが弓から矢が放たれる事は無かった。
シエラが最初に言った通り、ナースリーがゴブリンアーチャーの足元から岩の杭を生やす魔法【ロックステーク】を発動してゴブリンを下から串刺しにしたのだ。
仲間のゴブリンアーチャーが殺され、ゴブリンの中で唯一魔法を使えるゴブリンメイジが憤り、魔力の矢【マジックアロー】を3本同時にナースリーに目掛けて放つ。
「これくらい、私が!」
ゴブリンメイジが放った3本の魔力矢に対して、マリネスが魔力で壁を作り防御。
ゴブリンメイジの矢を掻き消す。
焦るゴブリンメイジは再びマジックアローを放とうと手に持った杖を構えるが、それよりも早くナースリーが氷の杭を出現させる魔法である【フリーズステーク】をゴブリンメイジの周囲を囲む様に発動させると、四方八方からゴブリンメイジを貫いた。
「遠距離攻撃出来るゴブリンは倒したよシエラちゃん! リグス!」
ナースリーの声に「おっけー」と答え、目の前のゴブリンの棍棒を避け、首を刎ねたシエラと「やるじゃんナズ!」と答え、盾の淵でゴブリンの顔面を殴り飛ばしたリグス。
Sランク冒険者を師匠にもつシエラやリグスにとって、剣術や格闘術を使えないゴブリンの相手は前衛を務める2人には予想以上に戦い易い敵だった。
だがやはり数はゴブリン達の方が多い。
シエラは常に走り回りながら囲まれない様に立ち回り、着実にゴブリンの数を減らしていくが、防衛に徹しているリグスは背後以外を囲まれつつあった。
盾で棍棒を防ぎ、横から古ぼけた剣を振りかぶってきたゴブリンを剣で防ぐリグス。
「まだまだあ!」
力を振り絞り、ゴブリンを弾き飛ばすリグス。
そんなリグスのすぐ眼前に折れた槍を逆手に持ち、振りかぶったゴブリンが迫る。
両手を広げてしまったリグスは隙だらけだ。
「げ、やば!」
焦って後ろに跳ぼうとするリグス。
そんなリグスの目の前で、ゴブリンのこめかみを横から何かが貫通し、直後、ゴブリンが内側から弾け飛んだ。
シエラが走りながら魔銃剣から弾丸を放ち、ほぼ同時にナースリーが風の魔法で相手を内部から破壊する【ウインドボム】を発動。リグスを助ける為に攻撃した結果、リグスはゴブリンの血に塗れる事になってしまった。
「オエぇくっさあ! しかも汚ねえ!」
鼻を摘みたくなる衝動を必死に抑え、リグスは向かって来たゴブリンに剣を突き立て、盾で殴り飛ばし、ナースリーとマリネスの援護もあってゴブリン達を次々に倒していく。
「ん。慣れてきたかも」
シエラに至っては対多人数戦に慣れてきたようだ。
各々武器を手に迫るゴブリン達の攻撃を避け、隙の大きなゴブリンを聖剣で切り裂き、離れたゴブリンは魔銃剣の弾丸で撃ち貫き、次々と1人で敵を蹴散らしていった。




