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シエラ達は洞窟の奥へ

「トールスやリンネなら、ミノタウロス一体なら一撃で倒せるんだが、それに比べて私は。いや、よそう彼らは彼ら、私は私だ」


 【緋色の剣】に在籍していた頃。いつか足を運んだ魔界で戦った日々を、教え子達の活躍を思い出しながらリチャードは自嘲気味に笑った。


 愛剣に付着した血を剣を振って払い飛ばし、リチャードは背中の鞘に剣を納めてシエラ達の元へと駆け出そうとミノタウロスに背を向ける。


 しかし、なにやらズルズルと何かを引きずるような音が聞こえ、振り返ったリチャードの目に、切断した足から肉片を伸ばし切り離した膝下を再生しようとするミノタウロスの死骸が映った。

 

「確かに心臓は裂いた筈だが、なんだ? 再生しているのか」


 見れば折り砕いた膝も再生しつつある。

 リチャードはそんなミノタウロスの再生を待つ事はせず再度踏み込み、立ちあがろうと四つん這いになった生き絶えたはずのミノタウロス顔面に膝を砕いた拳を打ち込んだ。

 狙いは眼球。

 その奥に存在するはずの脳。

 

「これで再生するならお手上げだぞ」


 ダメ押しに目に腕を突っ込んだ状態で火魔法を発動。

 リチャードはミノタウロスを内側から焼くと眼球から手を抜き、一歩二歩と後ろに跳び後退した。


 するとミノタウロスは悲鳴を上げることなく地に再び倒れ伏し、警戒の為に剣の柄に手を掛けたリチャードの前で今度こそ生き絶え、それ以降は動く気配はなかった。


「ミノタウロスにあんな再生力はない筈だが……考えても仕方あるまい。今はシエラ達の元へ」


 リチャードは探知魔法マジックソナーを発動。シエラ達の位置を確認すると身体強化魔法を発動して今度こそ娘達の元へと駆け出した。


 その様子を金の装飾が施された黒いローブを着た青年が「おや、あれは」と木の影から覗いていた事をリチャードは知らない。


 一方、洞窟に侵入したシエラ達。

 彼女達は洞窟を進んでいたが、妙な事にゴブリンとは遭遇してはいなかった。

 いや、正確には遭遇はしていたのだが、シエラ達を見たゴブリン達は戦う事もせずに洞窟の奥へと逃げて行ってしまったのだ。


「なんだったんだあのゴブリン。ゴブリンってもっと好戦的なんじゃなかったっけ」


 先頭に立ち、盾を構えたリグスが呆れたような顔で言い放った。それ程までに見事な敵前逃亡。まさに尻尾を巻いて逃げるかの如くだった。


「もしかしたら罠かも」


「だな。どうする?」


「進むだけだよ、注意しながらね」


 リグスとシエラの会話に緊張するマリネスとナースリーの後衛2人。そんな2人にリグスはニカッと笑って「大丈夫だよ、戦闘になったら俺とシュタイナーが守ってやっからよ」と自分の盾を剣の柄で打ち鳴らした。


「ゴブリンに捕まった女の人が酷い事されるって本当かなあ」


「いやいや。養成所で習っただろ。亜人種がそういう事するなんて話は転生者が持ち込んだ創作の中だけだって。異世界じゃどうか知らねえけど、この世界のゴブリンは雄雌分かれて存在してるって先生言ってたしな」


「ゴブリンが転生者だったって言う例もあるみたいだから気を付けないと」


「つっても見分けなんかつかねえよなあ」


 あまりにも何も起こらないので警戒しながら進むも、ついつい話をしてしまうシエラとリグス。

 暗い洞窟を光源魔法ライトボールを使って進むが地面はでこぼこで道は曲がりくねっており、今どこをどう歩いているかなど4人には全く分からない。

 そんな4人がギリギリ2人並んで進めるくらいの洞窟を進んでいると直角に曲がっている道に出た。

 広い道だ。

 子供二人なら手を広げて優に進める広い道。

 若干下り坂のその道をシエラ達は光源魔法を先導に歩き始めた。


 その直後。

 後ろから地響きと共にドスンと重量物が落ちる音がしたので振り返ると先程やってきた通路が岩で塞がれている。


「ああ〜。不味い感じか?」


「不味い感じかも」


「閉じ込められた!」


「やっぱり罠だったね」

 

「という事はこの先でゴブリン達が待ってるって事か。まあ鬼ごっこする心配は無さそうだな」


「ん。逃げ場がないのは相手も同じ。出る方法は後で考えよう」


 武器を構え足元の悪い下り坂をゆっくり降りていく4人。

 下り坂の遥か下。大広間のような開けた空間に待ち受けるゴブリン達その数およそ15体。

 

 地下に広がる大広間に待ち受けるゴブリンをシエラ達が確認したのは左手側の壁が急に無くなった場所。

 ほのかに明るくなったその地下の広間にゴブリン達が蠢いていた。

 少し明るくなったのは壁に生えた薬の材料にもなる光苔が大広間を照らしたからだ。


 上半身裸同然の薄緑色をしたゴブリン達が坂から降りて来るシエラ達を睨み、見上げる。

 

 どうやら歓迎会の準備は整っているようだ。

 ゴブリン達は舌舐めずりしたり手に持つ棍棒を地面に叩き付けたり、切れ味の悪そうな手斧、錆びた剣を掲げながら奇声を発していた。


「か、数が。数が多過ぎるよ」


 ナースリーの怯えた声に調子に乗ってケタケタ笑うゴブリン達。

 そんなゴブリン達をシエラは嫌いな虫でも見るかのように冷たい目で見下ろし、ナースリーが笑われたのが気に障ったのかリグスは眉をしかめ、頬や額に青筋を浮かべ、怒り心頭と言った様子だった。

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