森の洞窟、その中へ
反応があった場所にいたのは群れから逸れたであろう森に棲む狼、名称はまんまの【フォレストウルフ】だった。
シエラ達を見たフォレストウルフは人間の子供と見て意気揚々と飛びかかってきたが、リグスがフォレストウルフの爪を盾にて防御。フォレストウルフの首に剣を突き立てて勝負を一瞬で決めた。
「ロジナ相手に模擬戦してるから楽勝だな」
「ん。フォレストウルフ一体ならリグスでも大丈夫だね」
「気に掛かる言い方だなあシュタイナーさんよー」
「そう? 気の所為だよ」
「はあ。シュタイナーに悪気がないのは分かってるからもう良いや、先に進もうぜ」
ため息を吐きながらリグスが息絶えたフォレストウルフの側にしゃがみ込んだ。
フォレストウルフの体内から魔石を抜き取り、剥ぎ取りに使用したナイフと刺した剣に付着したフォレストウルフの血と脂をリグスは肘の内側の服で拭き取ると周囲を見回し後続が無さそうな様子を見て剣とナイフをそれぞれ鞘に収める。
それを見て、今度はシエラが探知魔法を使用して地図と照らし合わせて目的地である洞窟を目指す為に歩き出す。
頭部に顕現した天使の輪のような青い光輪がシエラの青みがかった白髪を照らした。
「パパ着いて来てるよね?」
「さっきソナー使った時、反応はあったけど」
「ん。いや、今も反応はあるんだけどね」
マジックソナーを発動したままシエラは後ろを振り返る。
後衛のマリネスやナースリーを見た訳ではない。
その遥か後方、リチャードがいる筈の木の影に目を向けたのだ。
しかし、そこにいる筈の父の気配が感じられない事が不思議でシエラは首を傾げた。
「気配がしないの凄いなあ」
「流石はプロって事だろ? 【緋色の剣】のみんなを鍛えた人なんだから驚きゃしねえよ。早く行こうぜシュタイナー、夜になっちまうぜ?」
「ん。そうだね。先に進もう」
こうして4人は洞窟へ向けて再出発。その後方をリチャードは出来るだけ静かに、4人に気付かれないように着いて行く。
しばらく歩いているとシエラを含めたパーティメンバー全員がある異変に気がつく。
「さっきのフォレストウルフ以降、魔物どころか生き物の気配や鳴き声すら聞こえないな」
「風も止まって木のざわめきも聞こえないね」
リグスの呟きに、隣を歩くシエラが頷いて同意しながら周囲の異変に言葉を漏らす。
「それになんだろう、霧が」
その声に続くように後ろを歩いていたマリネスが不安そうに周囲を見渡しながら言った。
シンと静まり返る森の中。歩くシエラ達の足音や鎧、服の衣擦れの音以外が全く聞こえなくなっていた。
更に薄暗い森に霧が立ち込めシエラ達の視界を奪っていく。
普通の子供なら異様な雰囲気と静けさに泣き出しそうなものだが、シエラ達は各々剣や杖を構えながらシエラの探知魔法を頼りに密集して洞窟を目指した。
「ゴブリンの罠ってパターンあると思うか?」
「無いとは言えないなぁ。でもそれにしては襲いかかって来る気配は無いし、ソナーにも反応は無い。でも」
「でも? なんだよ」
「ちょっと口では伝え難いけど、この霧はちょっと変な気がする」
「ああ、いや分からんでもないかも。なんか、なんて言うかネチッこい嫌な感じするよな」
そんな話をしながら歩いていると不意にそれは霧の中から付突き出るように現れた。
目的地であるゴブリンが棲家にしている筈の洞窟。それがポッカリ口を開き、光すら飲み込むような闇が白く深い霧の中に突然現れたのだ。
「ここか」
「多分ね」
白い霧の中に現れた黒い穴のような洞窟の前、シエラ達はそれぞれ武器を構えて身構える。
しかし、洞窟の中から気配はすれどゴブリンの姿は見えない。
知能が低いとはいえない亜人種。
中には魔法を使うような種族であるゴブリンなだけに見張りがいないのは妙だと感じたシエラ達は洞窟内への突入を躊躇ったが意を決して、一歩、シエラとリグスはゴツゴツした地面に踏み出した。
「洞窟内では火属性の魔法は極力避ける、だったね。灯りは頼むねナズ」
「うん。分かったよシエラちゃん」
洞窟の入り口にから入って直ぐの場所はまだ良いが、少し歩いただけで視界は真っ暗闇に包まれる。
それを解消する為にナースリーはシエラも指示で魔力を固めて短時間の光源を作り出す魔法【ライトボール】を発動してシエラ達の前に撃ち出した。
攻撃用の魔法と違い緩やかに歩く速度くらいで進む光る球。
その光の球から少し離れてシエラ達は洞窟を進んでいく。
子供達のゴブリン討伐任務が本格的に始まった。




