森へ
しばらく馬車に揺られ、太陽が真上に来た頃、シエラ達は目的地である森の近くに到着した。
馬車を降り御者に礼を言うと、シエラ達は装備の最終確認を行う為に馬車から離れて行く。
その様子を保護者のリチャードは見ながら自分も装備の確認を行い、思い出したように持って来ていた麻袋からあるものを取り出した。
「シエラ、これも持っていきなさい」
「良いの? 大事な物なんじゃないの?」
「これも恐らくはシエラの為に女神様が用意した物だと私は思っているんだ。だからシエラが持ってなさい」
リチャードがシエラを呼び寄せて手のひらの上に乗せたアイテムボックスを見せた。
専門家から見れば国宝どころか世界遺産に匹敵する神々が創造したと伝わる聖遺物。
生物以外はなんでも収納し、取り出しも自由自在。
商人などが目にすれば大金はたくどころか借金をしてでも手に入れたい代物だろう。
「うーん。でもコレ四角いから、かさばるのがなぁ」
リチャードからアイテムボックスを受け取りながら、シエラは顔をしかめた。
立方体であるアイテムボックスはシエラが言った通りかさばるのだ。
ポケットには入らないしどこかに引っ掛けられる訳でもない。
それをシエラは嫌がった。
「せめてパパのポーチみたいな形なら持っていきやすいのになあ」
と、シエラが呟いた瞬間だった。
アイテムボックスから魔法陣が出現し、その魔法陣がアイテムボックスを中心に出鱈目に回転を始め、アイテムボックスがシエラの手の上で浮いた。
「な、なに?」
「手を離せシエラ!」
アイテムボックスの異常な挙動に焦るシエラとリチャード。
しかし、そのアイテムボックスの異常は直ぐに収まり、シエラの手にポフっと音を立ててベルトに通せるポーチが現れた。
アイテムボックスが姿を変えたのだ。
「おー。パパのポーチだ」
シエラの言葉にリチャードは自分の腰に装着しているポーチを確認するが、シエラの手に乗っているポーチは確かに自分のポーチとそっくりだった。
違うのは色だけだ。
リチャードのポーチは深い茶色。
シエラの手に乗っているポーチは白だ。
「驚いたな。こんな事が起きるとは」
「これから持ち運びが楽だね。パパ付けて」
「ふむ。分かった、後ろ向いて」
父に言われるままに後ろを向き、シエラはアイテムボックス改め、アイテムポーチをリチャードに装着してもらうと、リチャードに嬉しそうにその場で回って見せた。
どうやら父とお揃いのポーチが手に入ってご満悦らしい。
「シエラといると本当に色んな事が体験出来るな。親孝行な娘だ」
リチャードがそう言いながらシエラの頭をガシガシ撫でた。
撫でられて嬉しい娘は照れながらリチャードの元を離れて仲間達の方へ駆けていく。
「じゃあ先に行くねパパ!」
「ああ、私も付かず離れずで着いて行くよ。さあ、クエスト開始だ!」
リチャードの言葉にシエラ達【アステール】の面々は森に向かって歩き出した。
「では私は近場の村におりますので、終了しましたら信号弾を」
「ありがとう。では私も行きます」
馬車の御者に挨拶をし終えたリチャードはシエラ達に着いて行く為に歩き出す。
太陽に若干雲が掛かるが今日は良い天気で、雨は降りそうに無い。
しかしそれでも肌寒く感じる今日、この時間。
遂にシエラ達の昇格任務が始まった。
「なあシュタイナー。さっき先生に何貰ったんだ?」
「新しい、ポーチ?」
「なんで疑問系なんだよ」
パーティの先頭を歩くシエラに聞いたリグスが手を頭の後ろで組みながら苦笑いを浮かべた。
まだ日中だというのに森の中は薄暗い。
所々葉っぱの減った木からの木漏れ日が光の柱に見えて神秘的にも、不気味にも見えた。
「シエラちゃん。ちょっと探知魔法試しても良い?」
「ん。良いよマリィ。私もそろそろ使おうかと思ってたからお願い」
「うん。じゃあいくね?」
マリネスが発動したのはシエラがアイリスから教えてもらった探知魔法と同じ魔法【マジックソナー】だ。
シエラにコツを聞いて練習したこの魔法をマリネスは使った。
しかし、まだ遠くまで探知は出来ない。
範囲は数十メートルといったところ。シエラの探知出来る範囲の半分以下だが、それでもマリネスの【マジックソナー】は何かの反応を捉えた。
「見つけた! 進行方向斜め右、もう少し行った所に何かいる」
「おっし、戦闘態勢かな」
声を上げたマリネスに、リグスは背中から木を金属で囲んだ盾を取り、鞘から剣を抜いてシエラの横に立つ。
シエラはそんなリグスに頷くと、腰から魔銃剣を抜き、背中の鞘から聖剣を抜き放った。




