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Sランク冒険者に育てられた少女は勇者を目指す  作者: リズ
シエラのこれから

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ぬくもり

 風呂から上がり、着替えを済ませたシエラとマリネスはダイニングへと向かった。

 クエストに行った日は風呂の後に食事という流れなのだ。

 

「お、上がったか。もう少し待ってくれ、2人が狩ってきた肉が焼けるまでもう少し掛かる」


「ん。大丈夫だよパパ。先にスープ貰うね」


「頂きます先生」


 リチャードが野菜と溶き卵のスープ、ハムとレタス、胡瓜、トマトのサラダをテーブルに並べているとダイニングにシエラとマリネスがやって来て席に座って手を合わせる。

 それを見てリチャードはシエラの頭を撫でるとキッチンに2人の狩ってきた肉の様子を見に向かった。


 そして窯で焼いていた肉を取り出すとフライパンに肉を乗せ、しっかり焼き色を付けていく。

 焼き色が付いた肉を皿に移し、フライパンに残っていた油に調味料などをケチャップと混ぜてソースを作り、皿の肉に掛けてステーキ風に仕上げると、リチャードはそれをダイニングで待つ2人の元に運んだ。


「さて、待たせたね。肉質と弾力、匂いからみてフォレストボアの肉かな? ステーキ風にしてみたよ」


「おー。さすがパパ。当たってる」


「しかし可食部が少なかったな。よほど小ぶりのフォレストボアだったのかい?」


「あー。嫌、確かに小さかったんだけど」


「だけど?」


「こうやって斬って、3枚にしちゃて」 


 用意されたナイフとフォークを指先で斜めに振り、恥ずかしいやら申し訳ないやらで顔を赤くして俯くシエラ。

 そんなシエラにリチャードは微笑むと「べつに怒ってるわけではないよ」とポンとシエラの頭に手を置いた。


「さあ、冷める前に食べなさい。マリネス君も遠慮しなくて良いからね」


「はい。ありがとうございます先生」


「じゃあ、頂きます」


 こうして2人は食事を楽しみ、恒例になったリチャードとシエラ、マリネスによる後片付けの後、3人はアイリスとセレネがいるリビングへと向かった。


「あ、そうだ。パパ、明日ね? Cランクへの昇格任務に行くんだけど」


「お! 明日か! 分かった、明日楽しみにしておくよ」


「一緒に来てくれるの? ママとセレネは大丈夫?」


 そんな話をしながら廊下からリビングの扉を開けたものだからだろう。暖炉の前のソファに座り、セレネをあやしていたアイリスが振り返りながら「私達がどうかした?」とシエラに聞く。

 帰ってきた時は泣きじゃくっていたセレネだが、今は機嫌が良いのだろうか目は開いているが大人しくアイリスに抱かれていた。


「明日昇格任務があって、パパが着いて行くって言ってたんだけど。私、ママとセレネが心配でって話をしてたの」


「大丈夫よ、1日いないってわけじゃないんだし。ロジナもいてくれるし。それに忘れたの? ママは現役の冒険者よ? まあ確かに腕は鈍ってるけど」


「でも……」


「シエラちゃん。遠慮はだめよ? 私達は親子なんだから。子供が親に遠慮なんてしちゃ駄目。私はあなたにいつまでも我儘でいて欲しいの。我儘を言ってて欲しいの。だってそうじゃない? 子供の我儘を願いを聞いてあげられるのは私達、ママとパパだけなんだから」


「ん。ありがとうママ。じゃあ明日パパに着いて来てもらうね?」


「ええもちろん。シエラちゃんが強いってところ、パパにいっぱい見せちゃいなさい」


「分かった。頑張る」


「ふふ。さぁこっち来て。セレネにお姉ちゃんの顔見せてあげて?」


 アイリスに言われるままにシエラはアイリスの座るソファに向かってリビングの出入り口から歩き出した。

 そんなシエラを追うかどうか迷うマリネスの背中をリチャードがポンと押し、驚いたマリネスは横に立っていたリチャードを見上げる。

 

「君もセレネを見てやってくれ。きっと喜ぶよ」


「あの、でも私は」


「言ったろ? この家にいる間は君も家族だ、私はアイリスに水を淹れてくるから、シエラの横にいてやってくれ」


 それだけ言ってリチャードは再びキッチンへと向かっていく。

 その後ろ姿を見送り、マリネスはおずおずとシエラに続いて出入り口から見て正面の壁の真ん中に設置されている暖炉の方に向かって歩き出した。

 そしてアイリスの隣に座り、セレネに向かって人差し指を伸ばしているシエラの横に腰を下ろすと覗き込むようにセレネの方を見る。


「か、可愛い」


「ね。可愛いよね」


 シエラの伸ばした人差し指をセレネが握る姿にマリネスと母は骨抜きになった。

 アイリスに身を寄せ、セレネをあやすシエラ。

 そんなシエラの瞳から一筋、涙が溢れた。

 悲しいわけではない、ツラいわけではない、苦しい筈もない。

 シエラは母であるアイリスに寄り掛かる事が出来る事が嬉しくて、セレネが、妹が自分の指を握ってくれる事が嬉しくて涙を流した。

 リチャードに拾われてから何度となく味わってきた、えもいわれぬ幸福感に包まれシエラは涙を流したのだ。


「私、セレネのお姉ちゃんなんだね」


「そうよお姉ちゃん。もう、なに泣いてるの? 妹に笑われちゃうわよ?」


「なんでだろう。悲しくないのに涙が止まらないや」


「お姉ちゃんもセレネも泣き虫さんねえ。いらっしゃい、ギュってしてあげる」


 セレネを抱えている左腕はそのままに、アイリスはシエラの頭を引き寄せ、自分の頬をシエラの頭に寄り掛からせた。

 嗚咽が混じるでもなく泣き声をあげるでもないが、それでもシエラは涙を流し、気が付けばアイリスに抱かれたまま目を閉じてしまった。眠ってしまったのだ。

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