娘の成長とリチャードのこれまでと、これから
雨の降る音と地面の水溜りを踏む音を聞きながら自宅まで走って帰宅したシエラとマリネス。
雨避けの魔法をマリネスが解除し、シエラが玄関の扉のドアノブに手を掛けて開くと同時に中からセレネの割れんばかりの泣き声が響いた。
「ただいまー。うわぁ、元気だなあ」
「お帰りシエラ、マリネス君。今丁度セレネが目を覚ましてね。はて、シエラはまた濡れて帰ってきたのか? いくら水の女神様に見そめられた巫女とは言え、毎回禊はしなくて良いんだぞ?」
「うーん。そういうのじゃないんだけどなあ」
「ははは。まあ、風呂に入って来なさい。水は入ってるから、ちゃんと温めてな」
「はーい」
装備の音をカチャカチャ鳴らし、シエラはそれが当たり前と言わんばかりにマリネスを連れて風呂場へ向かう。
そして脱衣場で装備を外したシエラは服を脱ぐ前に浴室に入り浴槽の魔石に触れて水の温度を上げていった。
「シエラ、着替え置いておくぞ? ん、お! コレが新しい魔導銃か。ほおー、ふむふむ、やはり新しい武器は良いな」
「魔銃剣だよパパ。あ、そう言えば鍛冶屋の親方さんが今度お祝いにお酒持って来るって言ってたよ?」
「む。酒か。ありがたいが、私は酒が弱くてな。まあ、物にもよるが料理にも使えるし、ありがたく頂こうか」
シエラとマリネスの着替えを持ってきたリチャードが、脱衣場の籠に乱雑に入れられていたシエラの新しい武器を手に取り眺めていると浴室の中からシエラの声が響いた。
マリネスはリチャードから着替えを受け取り、シエラの着替えと自分の着替えを分けている。
シエラの魔銃剣を眺めながらリチャードはマリネスの行動を横目に見ながら感心していた。
(気が利く良い娘さんじゃないか。貴族はなんでも使用人に任せがちと聞くが、ふむ。シエラの相手がこの娘なら)
「ん。丁度良いかな? じゃあパパ、私達お風呂入るね。マリィの裸見られたくないから出てって」
「あ、ああ直ぐ出るよ」
シエラの言葉に呆気にとられ、リチャードはシエラの装備を持って脱衣場の横の洗い場へ向かう。
そして扉を閉め、水魔法で人ひとりが入れる程の水球を作り出すとショートソードと魔銃剣、防具一式をそこに放り込んだ。
(驚いたな。シエラが出ていってなんて。独占欲か、成長してるんだなあ。親としては嬉しいやら悲しいやら、この感情はなんと表現すれば良いのかな)
そんな事を考えながら装備の洗浄を行っていたリチャードだが、その顔はどこか嬉しそうに微笑んでいた。
扉の向こうからシエラが「パパ、服もお願い」と言われ「任せてくれ」と答えるリチャード。そんなリチャードにマリネスが「すみません先生、お手間掛けます」と言った後、足音が遠のいたのでリチャードは脱衣場への扉を開いた。
(人生とは分からん物だなあ。夢半ばで挫折して一時は冒険者を辞めたが、その直後にシエラを拾い、シエラのおかげでアイリスと結婚してセレネを授かって。そして今娘のシエラの服とシエラの婚約者になるかも知れない子の服を洗ってるんだものなあ)
脱衣場への扉を開けると、脱いだ服と下着の重なった山が入った籠が置いていたので、それを洗い場へと持ち込み、装備一式を取り出して端に置いて水魔法を一旦解除。
汚れた水を排水口に流してから再び綺麗な水の水球を作成したリチャードは、シエラとマリネスの服を水球に突っ込みながらシエラと出会ってからの思い出を振り返っていた。
(む、待てよ? シエラとマリネス君が結婚した場合マリネス君も娘になるんだよなあ。ふーむ。本格的に男が私一人だけなんだが。まあ、良いか。なるようになる、よな?)
そして今度は将来の事を考えリチャードは水球の中に作った水流に沿ってぐるぐる回るシエラとマリネスの洗濯物を眺めながら苦笑していた。
リチャードはその後、服を洗っている間にシエラの装備を確認。損傷は無かったので錆止め用の油を塗ると装備一式を自宅内の武器庫へと運ぶ。
そして洗い場に戻ってくると、壁から壁にロープを張り、そこに洗い終わった洗濯物を掛けて風の魔法を使って洗濯物を乾かし始めた。
「やはり水魔法以外は魔力の消費が激しいな。しかしまあ以前に比べると私自身魔力の貯蔵量は増えてるみたいだ、随分洗濯物が楽になったものだよ」
その言葉は誰に言ったでなく、おそらくは過去の自分に向けてのエールの言葉だったのかもしれない。
この後リチャードは服を干し終わるとキッチンに向かい、雨の中帰ってきた娘達の為にと温かいスープを作り始めるのだった。




