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ある朝のシュタイナー家

 後日、というかリチャードがマリネスの実家の屋敷を訪れた次の日、マリネスの屋敷から迎えの馬車がやって来てマリネスは一度屋敷に帰る事になった。


 そしてさらにその翌日の朝。

 マリネスは再びシエラ達の家を荷物を抱えて訪れる。

 ただ、少し様子がおかしい。

 シエラと目を合わせるとマリネスが顔を真っ赤にして下を向いてしまうのだ。


「あの、先生」


「ん? どうしたかな?」


 キッチンにて朝食の片付けを行なっている際、ダイニングに残っている皿をシエラが取りに行ったのを見計らってマリネスがリチャードに話しかけた。


「父と母がシエラちゃんと婚約がどうのって話をされたのですが」


「はあ。全く君の両親は事を急ぎ過ぎるなぁ。まあでも確かに一昨日そういう話をしたにはしたんだ。好き合ってる者同士が結婚したいと言うなら私は止めないとね」


「え、えっとソレってつまり、ソレってつまり⁉︎」


「まあ私は君とシエラが成人を迎えても両思いであるなら婚約だろうと結婚だろうと反対しないって事さ」


「あ、あ、ありがとうございますお父様!」


「気が早いな君も。ご両親に」


 良く似ている、と言おうとしたリチャードだったが、何かが壁に当たる音がしたので口を塞ぎ、洗いかけの皿を持ったまま振り返ると、そこには皿と木のコップをトレーに乗せたシエラが青い顔でキッチンの出入り口に寄り掛かるように立っていた。


「お父様? え? どういう事? パパは私のパパだけどマリィのお父様なの? という事はマリィと私は姉妹って事に? え? ん?」


「ち、違うのシエラちゃん! 先生はこれから義理のお父様になるっていうか、なって欲しいっていうか」


「うーむ。何をどう説明すれば丸く収まるのか」


 あからさまに挙動不審になる2人をリチャードはなだめ、一昨日マリネスの実家の屋敷で話した事と自分自身の考えをリチャードはシエラとマリネスに話すのだが、貴族としていつかはと、婚約婚姻の話を聞かされていたマリネスはともかく、シエラはよく分かっていないようで「誰と誰が結婚するの?」と、まるで他人事のように話を聞いていた。


「まだ決定じゃないが、シエラとマリネス君が将来もしかしたら結婚するかもしれないなあって話だよ」


「いえ、絶対する。という話です!」

 

「マリネス君、ちょっと落ち着こうか」


 普段の物静かな娘の友人は今、興奮冷めやらぬといった様子でリビングにてローテーブルを挟んで置いたソファの上に座り、胸元に両手を握ってシエラへの想いの丈を語りそうな勢いだ。


「パパは私とマリィが結婚したら嬉しい?」


「シエラが本当にマリネス君の事が好きで結婚するならまあ私は正直嬉しい。知らない男に取られるよりは遥かに良いしな」


 どちらかと言うと後者がリチャードの本音である。


 とまあ、こんな話をリビングでしていると、セレネを抱っこしてやって来た母アイリスが「何なに? なんの話?」と登場。

 もうこうなっては仕方ないか、とリチャードはアイリスにも事情を説明する事になった。


「へえ〜。まあ今どき同性婚なんて珍しくもないし、私は良いと思うけどなあ。命短し、恋せよ冒険者ってね」


「まあこの話はまた日程を合わせてセルグ卿ともだな。それよりも、今はシエラ達のCランクへの昇格試験が先だ。昨日ギルドから連絡があったんだろ? となればまずはシエラ、工業区の鍛冶屋に行っておいで。新しい剣、いや銃か。アレが完成している筈だ」


「新しい魔導銃出来たの?」


「セレネの事でバタバタして忘れていたが、先日早く取りに来いって手紙が来てな」


「分かった。今日クエストに行く前に貰ってくる。あ、お金は?」


「お金は先に払っているから大丈夫だ」


「ん。じゃあ行ってくる。マリィ、準備して行こう」


「う、うん」


 ソファから立ち上がり、シエラはマリネスの手を引いて玄関から見て正面の廊下の突き当たりにある武器庫へと向かう。

 そして、シエラはそのまま武器庫へ胸当てと手甲、脚甲を取りに、マリネスは2階の自室へローブと杖を取りに向かい、クエスト用の装備に着替えると「行って来ます」と自宅を後にした。


 シエラとマリネスが出掛けた後。

 リチャードとアイリスは二人きり。


 久しぶりに夫婦2人だけの時間でリチャードはアイリスに、セレネの布のおしめの変え方をレクチャーする事になった。


 というのもアイリスはセレネが初めての子供で、リチャードと違い討伐系のクエストばかりやってきたアイリスは今回が初めての育児なのだ。


 一方でリチャードは時折孤児院の子供達の面倒をみたりしていた。中にはもちろん赤ん坊もいた為、初婚ながらに育児には少し慣れている。


「慣れればどうという事はないよ」


「こう?」


「そうそう。あとは綺麗に拭いてあげて、新しいのを履かせてあげればお終いだ」


「私にも、出来た」


「ははは。流石お母さんだ。後の処理は私がやっておくよ。セレネはお乳の時間だろ?」


「ありがとうリック。じゃあ後お願いね」


 アイリスの言葉に頷き、リチャードはおしめを持って手洗い場へ向かい、次に風呂場の脱衣所に併設している洗濯場へ。

 アイリスはアイリスで、リチャードの言ったようにセレネにお乳を与える為、体を冷やさないようにと暖炉の方へと移動した。


「さあセレネ、ご飯の時間よー。いっぱい飲んで大きくなって……いいえ、小さくても良いから元気に育ってねえ」


 火の着いた暖炉のそばのソファでセレネにお乳をあげるアイリス。

 その足元にやってきたリチャードの使い魔、銀狼ロジナがアイリスとセレネを守るように伏せて尻尾を振る。

 すっかり寒くなってきたエドラの街だが、街の上空には抜けるような青空が広がっていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 幸せそうでムカつく笑
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