友達との再会
リチャードとアイリスの結婚式、婚姻の儀までの数日の間にシエラは友人達に無事を伝える為に街を歩いていた。
リチャードは冒険者としての再登録ついでにギルドでアイリスと今後の予定を話し合うそうなので、シエラは今リチャードの従魔、銀色の狼ロジナと街の商業区にある肉屋を目指している。
その肉屋にはかつて養成所でパーティを組み、転移させられる直前まで一緒にいた友人の1人リグスが居る筈なのだ。
街行く人々がロジナに目を向ける中、視線を感じながらシエラは件の肉屋に辿り着き、ロジナを外で待たせて中へと足を踏み入れた。
「いらっしゃい。おや、お嬢さんお使いかぁ……いい⁉︎ も、もしかして、シエラちゃんか⁉︎」
「リグスのおじさん久しぶり、です。リグスいますか?」
「リチャードさんと一緒に行方不明になったって聞いて心配してたんだよ。はぁ〜、良かったあ無事だったのかあ。息子ならナースリーちゃんともう一人、女の子の友達連れて高台広場に行ったよ。強い冒険者になってシエラちゃんを探すんだって言っててなあ」
「高台広場。ありがとうおじさん。今度はちゃんとお肉買いに来るね」
「あ、ああ。またその時は頼むよ」
という訳で家にいないので、シエラはリグスの父親に言われた通り、街の高台にある展望広場へと向かう。
丈夫な石の柵で囲まれた遊具など一切ないただの広場ではあるが、子供達の安全な遊び場の一つであり、夜などは街の灯りを見下ろせる眺めの良いデートスポットにもなる。
その広さ故にシエラは神隠しに遭う前などはリグスとは木剣を持ち込んで模擬戦の真似事をしていた場所であり、養成所に通っていた頃、クエストに行く際の待ち合わせに使っていた場所でもあった。
「皆、どんな顔するかな」
「私はシエラお嬢様のご友人の事は話でしか聞いていませんが。きっと喜んでくださいますよ」
「そうかな。そうだと良いな」
高台広場にロジナを伴って姿を表せば、ロジナの銀毛の珍しさとシエラの白髪にも似た水色の髪は嫌でも目立つ為、広場にいた数人の子供達は全員がシエラとロジナに視線を向けた。
そしてその中にはもちろん友人達の姿もあった。
いつも模擬戦をしていた高台広場の奥、林に近いその場所に茶色でツンツン髪のリグスと茶色でセミロングヘアの少女、ナースリー。
そして、絹のように艶やかなブロンドヘアで、長い前髪を青い星形の髪飾りで留めている貴族の少女、マリネスが目を丸く見開いてシエラに視線を向けていた。
「シュタイナーか?」
「シエラちゃん?」
「シエラちゃん!」
リグスとナースリーが行方不明になっていた筈のシエラが突然現れた事で思考が止まる横からマリネスがいの一番に駆け出し、シエラに抱き付いた。
そしてシエラの胸のなかで久しぶりに再会出来た喜びと驚きから感極まってマリネスは泣いてしまった。
「良かった無事だった。私、隣にいたのに、いつの間にかシエラちゃんがいなくなっちゃって私、私ーー」
「泣かないでマリネス。アレ女神様が悪いんだから。あ、その髪飾り使ってくれてるんだね、似合ってるよ」
シエラに抱き付き涙を流すマリネスを慰めようとして、シエラはリチャードにしてもらったようにマリネスを抱き寄せ頭を撫でる。
そんなシエラとマリネスに、リグスとナースリーも近付いてきた。
「いつ帰ってきたんだよ」
「ん。パパと一緒にちょっと前に街に着いた。すぐ皆に会いたかったんだけど。色々あって」
「はあ〜。良かったぁ、皆心配したんだぜ?」
「ごめん。心配掛けた」
マリネスを抱き寄せたままリグスとナースリーに謝るシエラに2人はただ「お帰り」とだけ言って笑った。
そしてマリネスが泣き止むのを待ってロジナを紹介し、シエラは旅の話を友達に聞いてもらうのだった。
「ゴーレムがいる遺跡かあ、転移させられた先が安全だったのは幸いだったなあ」
「ん。あの場所にはもう一回行く。ゴーレムさんと約束したんだ、迎えに行くって」
「また遠くに行っちゃうの?」
「直ぐには行かない。色々勉強しなきゃいけない事があるから」
「そっか。じゃあそれまではまた一緒のパーティだな」
「皆はもう冒険者登録は済ませたの」
「ああ、済ませた。早く一人前になってシュタイナーを探しに行くつもりだったからな」
「そっか。出遅れちゃったなあ」
「シエラちゃんなら大丈夫だよ。養成所首席合格者なんだから」
「確かにな。俺達だってまだ見習いだし、別に大差なんて無いだろ」
「ん。私も直ぐに冒険者登録済ませるから、また養成所に行ってた時みたいにクエストやろう」
「ああ、また一緒だ。それにしてもシュタイナーいつの間にか”私“って言うようになったのな」
「悪い?」
「いや、悪くはないけど。違和感がスゲェ」
「リグ、失礼だよ?」
「おい待てナズ。杖を下ろせ、振りかぶるな」
久しぶりの友人との会話。
帰ってきた事実は十分に感じていたが、こうして友人と話をして、より一層強くエドラの街に、皆のいる場所に帰ってきたんだなとシエラは実感して自然と笑顔を浮かべていた。