風呂での戯れ
父に促されるままに風呂に向かったシエラとマリネスは、朝からのんびり風呂を楽しんでいた。
浴槽の縁に顎を乗せ、風呂に浸かり、頬を紅潮させたシエラと体を洗っているマリネス。
シエラは今にも眠ってしまいそうな程に寛いでいるが、初めてのシュタイナー家の朝の特訓で魔力過負荷状態を体験したマリネスは体を洗っている最中に激しい筋肉痛のような痛みに襲われ、タオルを落としてしまう。
「あいてて、うぅ。シエラちゃん痛くないの?」
「ん。回復したから大丈夫。マリィは回復魔法足りなかったみたいだね。こっち来て、もう一度回復する」
「ありがとうシエラちゃん」
体に付いた泡を洗い流し、マリネスもシエラが寛いでいる浴槽に入って湯に浸かる。そのマリネスにシエラは「背中向けて」と自分に背を向けさせるとその絹の様に美しい肌をしたマリネスの背中にシエラは手を添えた。
そしてシエラは回復魔法を発動。マリネスの背中から染み込ませるように魔力を流していく。
「ん」
「大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫。大丈夫だよ」
シエラの魔力を体に受け、マリネスの顔が紅くなっていく。
それは湯の温度からでは無く、シエラから流れ込んでくる魔力が気持ち良かったからだ。
その事に後ろにいるシエラが気がつく事は無い。
だが、マリネスが少々艶っぽい声を出したので、シエラは驚いて回復魔法を止めてしまった。
「ごめんねマリィ。回復魔法上手く使えなくて」
「だ、大丈夫だよシエラちゃん。寧ろ気持ち良かったくらいだから」
「本当? なら良かった」
魔力神経の回復をひとまず済ませて2人は湯船で寛ぐ。
一軒家にしては広い浴槽、それこそ大人2人が悠々と入浴出来る広さの浴槽、子供2人なら向き合って座るには十分過ぎる広さだ。
シエラもマリネスもそんな浴槽に浸かって惚けていたが、顔を赤らめ目を閉じるマリネスを見ていたシエラが先程の艶っぽい声を悪戯心からもう一度聴きたくなって、マリネスにそっと近付いたシエラはマリネスの脇腹を人差し指でチョンと突いた。
「きゃっ! ど、どうしたのシエラちゃん!」
「ん〜。なんだろ。マリィの声聞きたくなって」
「お、お話ならするよ?」
「うーん、お話もしたいけど、今はちょっとちがうんだよね」
「ど、どういう事?」
マリネスの疑問にシエラも自分のこの感情がなんなのか分からず「よく分かんない」などと言いながらシエラは続けてマリネスの脇を突き始めた。
脇を突かれくすぐったくて笑うマリネスに先程の艶っぽい声とは違うなあと思いながらシエラはマリネスをくすぐる。
それに負けじとマリネスも反撃しようと「シエラちゃんにもお返し」と言いながら手を伸ばし、子供2人によるくすぐり合いが始まった。
笑い声の響く浴室。その外、脱衣場に着替えを持って来たリチャードは中の様子が分からなかったが、珍しく声を上げて笑う娘に「珍しいな」と呟きながら微笑む。
しかし、自分も汗を流したいリチャードは「2人共、あまり長湯してのぼせるなよ?」と浴室の扉をノックしてから言い、シエラとマリネスの洗濯物を脱衣場に併設している洗濯場に放り込んだ。
「ふぅ。疲れた」
「風呂に入って聞く感想では無いな、ほら。早く拭きなさい」
マリネスを残し、リチャードがいる脱衣場に上がってきたシエラが顔を赤くして言いリチャードからタオルを受け取ると体を拭き始めた。
「パパ、頭拭いて」
「まだまだ甘えん坊は抜けんなあ」
「私はいつまでもパパに甘えてたい」
「ははは。嬉しい限りだがね、だがシエラもいつかは大人になって私の元を去るんだから、一人で出来る様にならないといけないんだぞ?」
「まだ去らないもん。だから良いでしょ?」
「全く、娘には敵わんな。マリネス君も上がってくる、手早く拭いてブラッシングは後でな」
タオルを取り、シエラの後ろに立ってシエラの髪を拭くリチャード。
拾ってきた頃は男の子の様に短かった髪も今は肩まで伸び、たまに切っても短くはしたくないと言うシエラに女の子らしく成長してくれたと感慨深くなり、父は娘を後ろから「よし出来た」と撫でたのだった。




