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教え子達

「いやでもさあ。またギルドマスターに、なんの成果も得られなかったって言うのもさあ」


「仕方ないでしょ。実際私達は先生とシエラちゃんの行方についてなんの手掛かりも掴めなかったんだから」


 リチャードの自宅前で玄関の方を向き、何やら話していたのはリチャードとシエラが帰郷する直前にギルドからのクエストで大陸の南へと旅立ったSランク冒険者パーティ【緋色の剣】のメンバーであり、リチャードの教え子3人だった。

 

 この国、グランベルク王国の女王から剣聖と称された対魔物戦闘のエキスパート。パーティの前線を担う青年トールス。

 パーティの現在の司令塔であり、攻撃、補助、回復と様々な魔法を使いこなし聖女と称されるミリアリス。

 そして、数いる冒険者の中でも珍しい召喚魔法と攻撃魔法に特化した魔法使いの青年リンネ。


 意を決して我が家の玄関をノックしようとしている彼らにリチャードは「やあ、久しいな。どうした、何か用かね?」と声を掛けて手を振った。


「いやまあどうしたも何も…………先生⁉︎」


「なんでここに先生が⁉︎」


「やはり、自力で帰って来られたのですね先生」


 まるで幽霊でも見たかのように目を丸くし、トールスとミリアリスは仲良く後退り、リンネは冷静を装ってリチャードに再会の握手を求めたがその額には冷や汗が滲んでいる。

 

「なんで此処にと言われても我が家の前だしなあ。そう言えばアイリスに聞いたよ。私達が帰って来るのとほぼ入れ違いで遠征に行ったらしいじゃないか」


「ええ、大陸の南に手強い魔物が大量に出現したのでその対応に」


「それで、せっかくならと私達を探してくれていたわけか。すまない、余計な心配をさせてしまった」


「僕達は心配してませんでしたけどね。先生ならどうとでも生き延びると信じてましたから。それよりもギルドマスターが病んでしまいそうだったのでそれで」


「はあ〜。でも本当に良かったあ。マスターのあんな悲しそうな顔見てられませんでしたから。報告だけで済みそうで安心しました。ギルドマスターはご在宅ですか? 出来ればクエスト終了証にマスターの印を頂きたいのですが」


「ふむ。何から説明するか。アイリスなら確かに家に居るが"ギルドマスター"はうちにはいないよ」


 リチャードの言葉に謎掛けでも出されたように首を傾げる元パーティメンバーの3人。

 そんな3人にリチャードとシエラは苦笑すると、リチャードはシエラに「先に入ってお風呂に入って来なさい」と頭を撫でながら言い玄関へと向かわせた。


「シエラちゃん大きくなりましたね」


「成長期というやつだな」


「セルグ家の末っ子を背負ってたのは何故です?」


「待て待て、順を追って話すから」


 こうしてリチャードは教え子3人に帰郷してから今日までの事を掻い摘んで話した。

 自分がアイリスと結婚した事、アイリスがギルドマスターを辞めた事、その理由が今し方家の中から聞こえて来た泣き声を放ったセレネが生まれたからだと言う事を。


「え、待って。情報量が、嬉しい情報量が多くて処理出来ないんですけど」


「おめでとうございます?」


 2人の幸せをリチャードがパーティに所属していた頃から応援していた教え子達は素直にリチャードとアイリスの結婚を祝ってくれた。

 必死に探していた行方不明者がいつの間にか生還し、心配掛けた当人が幸せになっていたなら、探索が徒労に終わっしまった事に嫌味の一つでも言いたくなりそうなものだが、教え子3人は純粋に恩師の幸福を祝福してくれたのだ。


「家族も増えて私も冒険者として現場復帰だ。今しばらくな」


「復帰したんですか⁉︎ なら俺達ともう一度!」


「いや、すまない。それは出来ない。君達の時と同じだ、今はシエラ達を鍛えたいと思っているんだ」


「娘さんとパーティを組むのですか?」


 リチャードの現場復帰発言に喜ぶトールスだったが、リチャードはそんなトールスの言葉に首を横に振り、リンネの言葉にも首を横に振った。


「固定でどこかのパーティには所属しないつもりだ。少なくとも、下の娘がもう少し成長するまではね」


「そうですか。残念です、また先生とクエストに行きたかったですが」


「私のような凡骨で良ければたまには手伝うよ」


「先生はいい加減に自分の事を卑下し過ぎです。親子揃って神に選ばれたんですから自信持って下さい」


「いや、確かに神隠しには遭ったし、加護も賜ったが、神に選ばれた訳では無いぞ? 選ばれたのはシエラだ」


 リチャードは転移させられた先で見た事聞いた事をざっくり話し、暗に魔王軍との戦争が迫っている事を伝えた。

 そんな話、本来なら御伽話だと一笑にふされそうなものだが、教え子3人はその話を真剣に聞いていたばかりか「ああ、じゃああの噂は本当だったのか」と呟いた。


「実は立ち寄った南の港街で魔界から来ていた魔族から『穏健派の魔王一派と過激派の魔王一派が戦争を始めた』という話を聞いたんです。人類に連なる種族を嫌う過激派の魔王が魔界を統一するって魔界の大陸全土、人類との共存関係にある魔王全員に喧嘩を売ったって」


「魔界を統一。馬鹿な話だ、出来るわけが無い。と言いたいが、喧嘩を売った側もそんな事分かっている筈だ。何かあるな」


「一応王都のギルドにも話はしましたが」


「しばらくは動かんだろうな。だがおかげでじっくり娘達を鍛える事が出来る。まあ今は出来る事をするさ」


「俺達も鍛えないとなぁ」


 家に招いてゆっくり話をするつもりでリチャードは3人を自宅に誘うが、3人は首を縦には振らなかった。

 自宅にアイリスがいない場合の事を考え、パーティメンバーの残り2人をギルドに向かわせたから合流して今後の事を話との事だった。


「ではまた時間があれば訪ねてくれ。その時は歓迎するから」


「またゆっくり来ます。今日はこれで」


 こうしてリチャードに手を振り、教え子3人は笑顔でリチャードの自宅から去っていく。それを見送ってリチャードは帰宅、娘と娘の友人が風呂から上がってくるまでに武器を片付けると寝室のアイリスに「ただいま」と伝え、アイリスに抱かれているセレネを見て笑うのだった。

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