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朝の街に3人

 シエラのシャツをなんとか着ようとしているマリネスを待っている間、リチャードは玄関から見て正面の廊下の最奥、物置兼武器庫として使用している部屋へと向かった。


 その武器庫から今日使う武器を取り出そうとしてリチャードはある物に視線を向ける。


 それは神隠しに遭った先で手に入れた、手に入れたというよりは女神様から賜った神器アーティファクトであるアイテムボックスと呼ばれる"箱"だ。


 はたから見れば手の平に乗るくらいの金細工の枠のが施された木箱でしかないこの箱アイテムボックスだが、掛けられた神代の魔法は次元を拡張し、生命体以外なら箱になんでも出し入れ可能という商人なら、いや、商人でなくとも喉から手が出るくらいには手に入れたい程の代物である。


(シエラと出会ってから色々あったが。私ばかりが得してやいないか? シエラは不満を言わないが、本当にあの子は幸せなのだろうか。む、いかんな、また卑屈になってしまっている。師匠に青臭いガキがと説教されて蹴り飛ばされたのに。そうだ、ちゃんと親として頑張らないとな)


 武器庫の奥、本来なら手に入れた物の中で最も価値ある武具を置く為にと買った台座に置いた神器アイテムボックスを眺める。

 旅の終わりに出会った昔死んだ師匠の亡霊との戦いを思い出し、リチャードは苦笑すると肩をすくめて鍛錬に使用する安物の槍と戦斧を担いで武器庫を後にした。


(師匠くらいいい加減な性格だったら、もっと気楽に生きれたのだろうか。いや、あの人みたいになりたいわけではないんだが)


 酒好き女好き博打好き、そんな師匠の事を思い出しながらそれでも当時この街で最強の名を欲しいままにした冒険者の生前の最後の姿を思い出し、誇らしいだか、憎たらしいだか、リチャードはよく分からない感情を抱き、自ら呆れてしまう。


「まあ俺は、俺にしか出来ない事をやるまでだがね」


 そこにいるわけでも無い師匠の亡霊に言うように吐き捨て、リチャードが武器を両手に玄関に向かうと、そこにはシエラと着替え終わったマリネスが待っていた。


「パパ誰かと話してた?」


「いや、ちょっと昔を思い出して独り言が出てしまっただけだよ」


「またパパの昔の話聞かせて欲しいな」


「随分前にも根掘り葉掘り聞かれた気がするが、そうだな。また話すよ」


 持って来た武器のうち、槍をシエラに渡しながらリチャードは微笑み、槍を両手で受け取ったシエラの頭にポンと手を置いて撫でる。


「じゃあ今日はマリネス君もいるし、魔力過負荷状態でゆっくり走って高台公園まで行こうか」


「うわぁ。大変そう」


「無理はしないようにな。キツかったら直ぐに言うんだぞ?」


「先生、魔力過負荷状態って、なんのためにそんな事するんですか?」


「端的に言えば魔力の出力を上げる為だな。専門では無いから仕組みは詳しく知らないんだが、例えば速く動く為の魔法【脚力強化】や【感覚鋭敏化】を使用しておいて敢えてゆっくり運動すると筋肉に負荷を掛けるのと似たような現象が魔力神経系にも発現するんだそうだ」


 リチャードが玄関の靴箱の上に置いていた剣を手に取り、腰に携えると、扉を開き、2人を連れて外に出た。

 まだ薄暗い街。

 何処からか聞こえてくる食材を切った際に響く、包丁とまな板が奏でる音楽が3人の耳に聞こえて来た。


 静かな朝だ。


 リチャードは戦斧を肩に担ぎながらそんな事を思い「マリネス君【身体強化】魔法は使えるね?」と柔軟運動をしながら聞く。


「はい。大丈夫、です」


 やや緊張しているのか、マリネスの表情が硬い。

 リチャードの言葉にマリネスは両拳を胸の前で握って応えた。


「いや、すまない。聞くまでも無かったね。魔法使いの君が強化系魔法を会得してないわけがなかったな」


「はい先生。問題ありません」


「魔力過負荷状態をわざと引き起こし、傷ついた魔力神経を回復、これを繰り返して超回復を誘発して最終的に魔力の出力と貯蔵量を鍛える。ただちょっと危険なやり方だからね。2人とも無理はしないように。特にマリネス君は魔力過負荷状態なんて経験無いだろうから、少しでも辛くなったら止めるように。良いね?」


「は、はい」


「よし始めよう。さあ2人共【身体強化】発動だ」


「ん」


「行きます!」


「では。スタート」


 リチャードも2人に続いて【身体強化】の魔法を発動。

 いつもの朝のジョギング程度の速度で走り始めた。

 その後ろをシエラとマリネスが着いてくる。

 

 今日は少し空に雲が掛かっているが、それでも朝焼けに染まった薄紫色の空から雨は降りそうに無い。良い天気になりそうな空だ。

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