二回目の告白
サンドイッチを食べ終わり、アイリスがブラックコーヒーを口に運んでいる横で、リチャードとシエラは自分のコーヒーに角砂糖3つとミルクを入れ、甘いコーヒーを作ってはそれを口に運び、父と娘はホッと一息ついた。
思えば旅をしている間、甘味をあまり口にしていなかった2人。
久しぶりに自宅で好きなように甘くしたコーヒーの味のなんと美味な事かと、リチャードとシエラは顔を見合わせて笑った。
「やはりコーヒーは甘い方が美味いな」
「ん。甘い方が美味しい」
「虫歯にならないようにしっかり歯を磨いてね?」
「ははは、分かってるさ。さて、それじゃあまずは私の今後の話をするとしよう。はっきり言うが、私は冒険者に戻るつもりだ」
「え? 戻るの?」
「嫌かい?」
「嫌じゃないわ。嫌じゃないけど、なんで戻ろうと思ったの?」
「確かに、なんでだろうな。師匠と戦って、何か吹っ切れたのかもしれない。もしくは自惚れているのかもな、まだ私も捨てたもんじゃあないってな」
一度は強大な力を持つ若いパーティメンバーの更なる躍進の為に、凡骨である自分が邪魔になるのが悪いと思い、Sランク冒険者のみで構成されたパーティ【緋色の剣】から自ら身を引き、冒険者も引退。
冒険者養成所の教官としてしばらく過ごしていたが、シエラを連れた旅を通じてリチャードは冒険者としての自信を取り戻したのだ。
魔物が蔓延る世界で武器も剣一本、見知らぬ土地に放り出され、幼い娘を伴っての旅など普通なら故郷への帰還など諦めてしまいそうな旅だ。
普通の冒険者なら暮らしやすい田舎暮らしを選ぶ可能性もある。
そんな旅を乗り越えてリチャードはまだ冒険者としてやっていっても大丈夫かも知れないと思った、思えるようになったのだ。
「そっか、私は歓迎するわ。エドラの街の冒険者ギルドのマスターとしては腕の立つ冒険者が居てくれるのはとても有難い事ですもの」
「パパと一緒にクエスト出来るって事?」
「ええそうよシエラちゃん」
「やった」
リチャードとアイリスに挟まれるように座るシエラが静かに言うが。そんな小さな声とは裏腹に両手を上げて喜んでいる。
そんな娘の姿をリチャードとアイリスは微笑みながら眺め、直後アイリスと目の合ったリチャードは咳払いをすると「だがその前に」と話を続けようと口を開いた。
「何かあるの?」
「ああ、大事な事がある。アイリス、君との事だ」
「え? 私との事?」
「ああ、その……む、改めて口にしようとすると中々恥ずかしいものだな」
今のリチャードとアイリスの関係は婚約者だ。
同棲はしているもののまだ婚姻の儀、結婚はしておらず夫婦というわけでは無い。
意を決してという程では無いが、リチャードは一度深く息を吸い込み深呼吸すると、腹を括って口を開いた。
「長く待たせてしまったが。アイリス、改めて言うよ。私と結婚してくれ」
「ええ。ええ、もちろんよ。ありがとうリック、嬉しい」
リチャードの言葉にアイリスは満面の笑みを浮かべる。
容姿の美しいエルフでリチャードが惚れた女性はこうして喜怒哀楽がハッキリしている。
そんなアイリスという女性の笑顔がリチャードは一番好きだった。
恐らくリチャードはこの時のアイリスの笑顔を死ぬまで忘れないだろう。
いや、もしかしたら死んでも忘れないかも知れない。
リチャードはそんな事を思いながらアイリスに微笑んだ。
「パパとママがイチャイチャしてる」
「ははは。嫌かい?」
「ううん、嬉しい。ママが本当に私のママになるんだもん」
「シエラちゃん、可愛いなあ。もう本当に可愛い」
コーヒーカップを置き、アイリスはシエラに抱き付く。
シエラはそんなアイリスに嬉しそうに抱き付き返していた。
そして、それから数日後、リチャードとアイリスは婚姻の儀の準備を進め2人は遂に夫婦となるのだった。