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Sランク冒険者に育てられた少女は勇者を目指す  作者: リズ
シエラのこれから

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29/115

娘の後ろ姿

 翌朝。

 外気の寒さに布団の魅了効果チャームが凶悪な束縛力をもってシエラを縛り付けるが、朝を告げる一階の廊下の柱時計のボーンッと響いた音を合図にするかのようにシエラは掛け布団を蹴り上げる勢いで飛び起き、半ば閉じたままの目を擦ると大きな欠伸を吐き出してベッドから降りた。


「ん、シエラちゃん? どこ行くの〜?」


 シエラがベッドから飛び起きた事で目を覚ましたマリネスが体を起こし、寝ぼけ眼でシエラの背中に声を掛ける。


「おはようマリィ。ごめんね起こしちゃって。私今からパパと走りに行くからマリィはゆっくり寝てて良いよ?」


「走るの? 今日は休むんじゃないの?」


「ん。皆とのクエストと鍛錬はお休み。でも私は強くなりたいから、休みの日でも鍛錬はする」


 シエラはそう言ってマリネスに手をヒラヒラ振ると「じゃあ行ってくるね」とマリネスの部屋を出て一階へと向かった。


 洗面所で顔を洗い、ファミリークローゼットへ向かうと、シエラはいつも着ているチューブトップの下着とレギンスに着替え半袖のベストに短パンを上に着てリビングへと向かった。


「パパ〜? あれ? まだ起きてない?」


 リビングの扉を開けて父の姿が見当たらない事に首を傾げ、シエラは両親の寝室へと向かう。

 寝室の扉を開けたシエラは扉の方向、というよりはベビーベッドの方に向いて未だ眠りこけているリチャードと、そんなリチャードを後ろから抱き締めるように眠るアイリスの姿を見て少し羨ましいと思いながら寝室に足を踏み入れた。


 その足はベビーベッドに向かい、眠っている筈のセレネを見ようとシエラがベッドを覗き込むと、シエラの澄んだ翡翠のような目と、セレネの空のように蒼い目が合い、姉妹は初めて視線を交えた。


「おお。起きてる。おはようセレネ、よく寝た? 昨日の夜泣いてたみたいだけど大丈夫?」


 姉の言葉にまだ乳児のセレネが言葉を発して返答するわけもなく。

 代わりに少しずつ顔をしかめ、今にも泣き出しそうになったので、シエラは思わずバックステップでベビーベッドから距離を離した。

 離したが手遅れだった。セレネは火が付いたように泣き始めてしまう。


「おー。強烈な目覚ましだな。ん〜。おはようシエラ、ちょっと待っててくれ」

 

「大丈夫よリック。多分お腹が減ったのかも知れないから私が見てるから、シエラちゃんと行ってあげて」


「分かった。ではそうしよう」


「ごめんなさいパパ、ママ。セレネを泣かせちゃった」


「大丈夫よシエラちゃん。赤ちゃんは泣いて意思疎通するんだから」


 リチャードがベビーベッドからセレネを抱き上げ、アイリスに渡すとアイリスがセレネをあやしながらシエラを手招く。

 そして、泣きそうなシエラに手を伸ばすとアイリスはシエラの頬に手を添えた。


「セレネはシエラちゃんが怖くて泣いたわけじゃないのよ? 初めて見たお姉ちゃんにちょっと驚いちゃっただけなんだから。セレネの事嫌いにならないであげてね」


「嫌いになんかならないよ。妹だもん」


「ふふ。そうね。ほらセレネ、シエラお姉ちゃんですよ〜。あんまり泣いてるとお姉ちゃんに笑われちゃうぞ〜」


 アイリスとシエラ、そしてセレネ。

 妻と娘達の会話に背を向け、リチャードは着替える為にファミリークローゼットへと向かう。

 その途中、階段から降りてきたマリネスとリチャードは遭遇した。


「おや。早いねマリネス君。まだ太陽も上っていない。寝ていても良いんだよ?」


「あ、先生おはようございます。あの、シエラちゃんと走りに行くって聞いたんですが」


「ああ。今から朝の鍛錬だ。街を走って、今日はそうだな、剣、槍、戦斧を使って模擬戦もするか」


「シエラちゃんは毎日朝から鍛錬してるんですか?」


「それがシエラの希望だからね。私も付き合っているよ」


 リチャードの言葉にマリネスは信じられないと言いたげだ。

 それもそうだろう。パーティ全員でクエストに行く日も、鍛錬する日も、シエラは更に別で鍛錬をしていたのだから。


「あの先生。私も着いて行って構いませんか?」


「ん〜。まあ私は構わないが」


「良いよ。マリィも一緒に行こう」


 マリネスが一緒に行きたいと言ったのは、はてさて何故なのか。パーティメンバーとしてシエラに遅れたくないからか、少しでも強くなってシエラの力になりたいからか、はたまた恋慕の気持ちから傍にいたいからなのか。

 もしかしたらそれら全ての感情からか。


 そんなマリネスの思いを汲んだか、寝室から出て玄関へと足を運んで来たシエラはマリネスの申し出を快諾したのだった。


「では着替えてくるよ。マリネス君、動きやすい服は持ってるかね?」


「いえ。昨日着てたローブしか」


「パパ。私の服貸してあげて」


「ふむ。それは良いが、寸法が合うかどうか」


 シエラとマリネスの身長はほぼ同じで150センチあるか無いかだ。

 しかし、胸がお世辞にもあるとは言えないシエラに比べてマリネスの胸は同じ歳の少女に比べると"ある"最悪シエラの服が入らない可能性がある程にはサイズに差があった。

 昨晩貸したシエラのワンピースですらやや小さそうに見えるあたりからもその差はうかがえる。


「パパ。今どこ見て言ったの?」


「……身長だが」


「ふーん。ホントに?」


「ああ。もちろん」


「じゃあ良いけど。マリィ、パパが着替えたらクローゼットに案内するから着れそうな服探してね。ちょっと大きい服があったからそれは着れると思うから」


「ありがとうシエラちゃん。先生も、ありがとうございます」


 シエラとマリネスに見送られ、リチャードはファミリークローゼットに向かうと寝巻きから長袖のシャツとズボンに着替えて2人の待つ玄関へと向かい、入れ違いで今度は2人がファミリークローゼットへと向かう。

 その後ろ姿を見てリチャードは(ああ、シエラは本当に身長が伸びたなあ)と出会ったばかりの頃のシエラの後ろ姿を思い出しながら重ねて見て感慨に耽るのだった。

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