用意された部屋
シエラとマリネスは風呂から出て着替えを終えると風呂場を後にし寝室を覗いてみるが、そこにリチャードの姿は無かった。
「お風呂どうだったマリネスちゃん」
「気持ち良かったですアイリス様」
「それなら良かった。シエラちゃん、パパがお風呂上がったら2階に来てだって」
「ん。分かった」
ベッドに座って淡い光を放つ魔光灯のランプで手元を照らし、普段掛けない眼鏡を掛けて小説を読んでいたアイリスがシエラに言うとシエラはベビーベッドの方に向かい、スヤスヤ眠る妹を見下ろした。
「可愛い」
病や外気から乳児を守る結界により触る事は出来ないが、シエラはセレネを見て微笑むと満足したのか母に「上行ってくる」と言い残して2階への階段がある玄関の方へと向かう為に寝室を後にする。
寝室を出る際にマリネスが出入り口で頭を下げてきたのでアイリスはそんな彼女を手をひらひら振って見送ると、眠るセレネを見て微笑み再び小説を読み始めた。
シエラはマリネスを後ろに連れ、普段あまり使わない2階へと足を運び、光が漏れている1番手前の部屋へと向かう。
そこに壁に設置された魔光灯の魔石を入れ替えている最中のリチャードの姿があった。
「やあマリネス君、来たね。少し待っててくれるかい? 魔光灯の魔石の寿命が来てしまったようでね」
魔光灯の五角柱のガラスケースを取り外し、リチャードは中の魔石を取り出すとそれをズボンのポケットに入れると、逆側のポケットから新しい半透明な魔石を取り出すとケースに入れて壁の台座に設置。部屋の壁に埋め込まれたスイッチとなる魔石に魔力を流した。
すると、寝室に廊下のような淡い橙色の様な光ではなく、明るく白い光が寝室を照らし出した。
話を聞くに、リチャードとシエラが神隠しに遭っている間に暇を持て余したアイリスが家中をくまなく掃除したからだそうだ。
「シーツは未使用の物があったんでね。交換しておいたよ。ダブルベッドだが、まあ気にせず使ってくれ。うちにいる間はこの部屋は君の部屋だ。化粧台、は少し早いかな? 衣装棚なんかも好きに使ってくれて構わないからな」
「結構広いんだね2階の部屋」
「シエラは2階を使った事ないものな。さて、では私は下に行くがシエラはどうする?」
「私も降りてもう寝る」
「そうか。では私達は退散するとしよう」
そう言ってマリネスに当てがった部屋を出ようとしたリチャードとシエラの背中に「あ」とマリネスの消え入りそうな声が聞こえて2人は振り返る。
窓際のベッドの側に佇むマリネスは寂しいのだろうか、俯く顔はどこか泣き出しそうだった。
「パパ。私、今日はマリィと寝る」
「ああ、そうしてやりなさい。あまり夜遅くまで話し込まないようにな? ママが言ってたろ? 夜更かしは美容に良くないって」
「大丈夫、明日もパパと走りに行くから直ぐ寝る」
「ははは。シエラは美容より特訓か、頼もしいな。じゃあお休みシエラ」
「ん。パパもお休みなさい」
こうしてリチャードは一階の寝室へ向かって行き、シエラとマリネスは特にやる事も無いので寝ようと言う事になり、新しいシーツのベッドに2人して潜り込んだ。
「ごめんねシエラちゃん」
「何が? マリィ1人で寝るの嫌なんでしょ? だったら私が一緒にいてあげる。パパも私にそうしてくれたし」
「リチャード様が?」
「ん。私がまだ拾われて直ぐの頃にね。私も1人は怖かったから」
「そうなんだ」
子供2人なら十分広いベッドの上、向かい合って話をするシエラとマリネス。
しばらく2人はベッドの中で睡魔に襲われるまで話し、いよいよ瞼を閉じてしまうとなった時、シエラはマリネスを抱き寄せた。
普段眠る際にリチャードの腕を抱き枕代わりにしていた為、眠る際に何かを抱き寄せるのがいつの間にか癖になっていたのだ。
それが今回はマリネスの頭だっただけの話。
そしてそのせいでマリネスは目を覚ましてしまい、顔を薔薇のように赤くして再び睡魔に襲われるまでシエラの成すがままになるのだった。




