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Sランク冒険者に育てられた少女は勇者を目指す  作者: リズ
後日談から始まる物語
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帰宅後の憩い

 ホーンラットを討伐し、ギルドに報告を終えたシエラは友人達と別れた後は真っ直ぐ家に向かった。そう、真っ直ぐにだ。

 ギルドの近くで友人と別れた当初は帰る家がある喜びを噛み締めながら、シエラは住み慣れた街を駆けていた。 


 しかし、父と母の顔を思い出し、出来る限り早く帰りたくなったシエラは「今日は近道して帰ろ」と身体強化の魔法を足にだけ掛け地面を蹴る。

 そして、近場の家屋の屋根まで跳び、軽業師よろしく家屋の屋根を別の家屋の屋根伝いに自宅までの距離を最短で、出来るだけ一直線に走り始めた。


 そうやってしばらく走り、到着した自宅の屋根を蹴って玄関前に飛び降りて着地すると「着いたー」と両手を上げたのだった。

 そんなシエラの背後。

 自宅の扉が開き、中から父リチャードが姿を現す。


「やっぱりシエラだったか。また屋根の上を走って帰って来たな?」


「ん。早く帰りたくて」


「この間みたいに他所のお宅の屋根を踏み抜いて無いだろうね?」


「ん。大丈夫」


「そうか、なら良いよ。さあ早く入りなさい。今日は随分と遅くまでクエストに行ってたんだな。それとも皆で鍛錬でもしてたのかい? 随分と血の臭いがするんだが」


「えっとね。今日は」


 シエラはリチャードに迎えられ、自宅の玄関に向かいながら今日のクエストの事やギルドでの事を嬉しそうに報告した。

 2人で自宅に入り、玄関の扉を閉めるとリビングの方から足音が響く。

 アイリスの足音ではない。

 木の廊下をカツカツと爪が当たる高い音が響き、姿を表したのは尻尾をブンブンと振る銀狼、ロジナだった。


「お帰りなさいませシエラお嬢様」  


「ただいまロジナ。良い子にしてた?」


「もちろんです」


 シエラが手を伸ばし、ロジナを撫でようとする。

 しかし、ロジナは「ゔ」と呻くとシエラから一歩二歩と後退り、耳と尻尾を下げて伏せては両手を鼻っ面に乗せてしまう。


「お嬢様。血の臭いが凄いですよ」


「そんなにかな? 洗い流したんだけど」


 犬、狼の嗅覚は人の約100万倍と言われている。

 水で洗い流したとはいえ人間のリチャードが外で血生臭いと感じたのだ。ロジナからしてみればかなりの激臭という事になる。


「シエラ。先にお風呂に入っておいで、装備と服はパパが消臭だけはしておくから。装備は後でちゃんと自分で点検、整備をするんだよ?」


「ん。分かった」


 リチャードに言われ、シエラは風呂場に向かうと脱衣場にて手甲、胸当て、脚甲の順で装備を外して服を脱ぎ、浴室へと足を踏み入れた。

 既に浴槽にお湯が張られているあたり、リチャードかアイリスが用意をしてくれていたらしい。

 シエラは父に教わった通りに先に身体を洗い、髪を洗い、そして湯船に浸かると「はわぁ〜」となんとも心地の良さそうな声を出して惚けた。


 湯船から漂う湯煙を眺めてシエラはボーッと浴室の天井を見上げ、今日のクエストの事もそこそこにシエラは今最も重要な事を考える。

 パーティ名も重要な事に違いないのだが、今のシエラが最優先で考えるのは産まれてくる妹の名前だ。


(パパとママはどんな名前を考えてるのかなあ)


 お湯に肩までどころか口まで浸かり、ブクブクと泡を吹きながらシエラは頭の中で色々名前を思い浮かべるが、どれもしっくり来ない。

 ステラ、リーズ、マリア、様々な名が頭の中に浮かんでは泡のように弾けて消える。


(ダメだ。思い浮かぶけどコレが良い、ってのが思い浮かばないや。ああ、そういえばパパもおんなじ事言ってたなあ)


 リチャードと同じように思考の渦に巻き込まれていくシエラだったが、何故かそれがシエラは嬉しくて、浸かっているお湯の中で微笑んだ。

 お風呂のお湯の温かさに身も心も暖まり、疲れた身体が眠気に襲われ、いよいよウトウトし始めてしまったシエラだったが不意に「シエラ、着替え置いておくからな」と浴室の扉の向こうから父に声を掛けられ、間一髪、お湯に顔全てが潜ってしまう事はなかった。


 閉じそうな目を擦り、手で掬ったお湯で顔を洗ったシエラは本格的に眠ってしまう前に風呂を出る。

 リチャードが持って来た着替えはいつもの寝巻きのワンピースだった。

 

 ワンピースに着替えて風呂場を後にしたシエラが向かったのはダイニングだ。

 風呂場まで迎えに来てくれたロジナに着いて歩く廊下の柱。

 そこに設置された魔石を利用して光を発する魔光灯が淡く輝き廊下を照らす。

 その廊下の先、リチャードがダイニングから顔を出してシエラを手招くと、シエラはロジナを追い越してリチャードに飛び付いた。


「少しは成長したが、まだまだ甘えん坊だなあ」


「ダメかな」


「いや。パパは嬉しいよ。街を歩いているとね、娘や息子が相手をしてくれなくなった。なんて話を聞くもんでね」


「私はそんな事ないよ。いつまでもパパと仲良くする」


「そうしてくれると嬉しいな」


「パパも私とずっと仲良くしてね?」


「もちろんさ。パパとママはいつまでもシエラと仲良しさんだよ」


 リチャードの言葉に満面の笑みを浮かべるシエラと、そんな娘の笑顔を見て微笑むリチャード。

 そんな2人をダイニングのテーブルから椅子に座って見ていた母アイリスも微笑ましい光景に頬を緩ませ和んでいた。

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