鑑定結果は⁉︎
アイリスが健康状態の検査とお腹の子の性別を、鑑定医である女医に魔法で診断してもらっている間。
リチャードとシエラは待合室で受付の看護婦に渡されたコップに入った水を飲みながら話をしていた。
「パパはもう産まれてくる子の名前は考えてるの?」
「ああ考えているよ。ただ、考え過ぎて決められないという事態に陥ってるがね」
シエラの言葉に肩を竦めてリチャードは苦笑する。(男の子ならこんな名前が良いな、いやしかしこんな名前も良いな。女の子なら)と色々名前の候補を頭の中で巡らせるわけだが、リチャードの頭では様々な名前が巡って回るだけで、これだと言うものが全く掴めないでいた。
捨てられた実の両親から名前を貰えなかったシエラに、リチャードがシエラと名付けた時はシエラの白髪に近い水色の髪から先ずは水を連想し、続いて空を連想したリチャードが空を意味するシエルという言葉からシエラと名付けた。
つまるところ、以前はシエラの外見の特徴から名付けを行った訳だ。
しかし、今回はまだ性別すら分からない。
生まれてから名前を考えれば良いのでは、と思わないでもないが、こういう状況で名前を考えたくなるのが親というものなのだろうか。
リチャードは、産まれくる我が子の名前を考えるのが楽しくて、敢えて思考の渦に飲み込まれていった。
「シエラは考えてるかい?」
このリチャードの質問にシエラは目を丸くして驚いたようにリチャードを見た。一方で質問をしたリチャードにはそれが何故なのか分からなくて座っている椅子の上で首を傾げる。
「私も考えても良いの?」
「ああ、もちろんだとも」
「パパとママの子なのに?」
「そうだよ? 産まれてくるのはパパとママの子で、シエラの弟か妹なんだから、シエラも考えてやってくれるとパパは嬉しいなあ」
そのリチャードの言葉が嬉しくてシエラは頬を緩め、そのシエラの嬉しそうな顔を見てリチャードは(ああ、この子はまた余計な遠慮をしていたな?)と思いながら横に座るシエラの頭をガシガシと撫で回した。
それからしばらく待っていると廊下の角を曲がって診察を終えたアイリスが看護婦に案内されて待合室に帰ってきた。
ニコニコ笑顔で近付いてくるアイリスだが、リチャードと目が合った瞬間、その爽やかな笑顔は意地の悪い笑みに変貌する。
そのアイリスのドヤ顔にも似た笑顔からリチャードは全てを察して(あ、そうかあ。女の子かあ)とアイリスに苦笑して返した。
「ママ、どっちだった?」
「女の子よシエラちゃん。私の中にいる子はシエラちゃんの妹になります」
「お〜、妹」
「お腹触ってみる?」
「触っても大丈夫?」
「ええもちろん。優しく撫でてあげてね」
「ん。大丈夫」
アイリスに言われてシエラはアイリスの膨らんだ腹部を撫でる。
そこにまだ見ない妹を感じるのだろうか、シエラは嬉しそうに微笑みを浮かべる。その笑顔は何か大事な宝物を見つけたよう明るく、それでいてどこか穏やかなものだった。
リチャードはそんなシエラとアイリスのやり取りを見て微笑み、アイリスの腹を撫でるシエラの頭を撫でる。
女の子だから嫌だとか、残念だとかそんな事はリチャードは一切思ってはいないのだ。
「元気に生まれてきてくれよ? 待ってるからな」
「私も待ってるから。元気に生まれてきてね」
「心配しなくても大丈夫よ。私とパパの子だしシエラちゃんの妹なんだから。きっと元気いっぱいで産まれてくるわ」
まだ聞こえるはずもないのにリチャードとシエラはお腹の子に向かって話しかけて微笑んだ。そんな2人を見てアイリスも微笑む。
こうして3人はこの日からしばらくの間、新しく産まれてくる家族の名前を考える事に躍起になるのだった。




