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Sランク冒険者に育てられた少女は勇者を目指す  作者: リズ
後日談から始まる物語
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お腹の中の子、男児か女児か

 リチャードとアイリスの結婚から数ヶ月。

 つまりアイリスが妊娠してからも数ヶ月経ったある日の事。

 お腹の膨らんできたアイリスはとうとうギルドマスターの職を辞する事になった。

 ギルドのサブマスター、ミニアにマスターの座を譲り、ギルドの職員やギルドに属する冒険者達に祝されながら冒険者ギルドを後にしたアイリスだったが、そこに寂しさや悲しさなど無かった。

 

 200年生きたアイリスではあるが、妊娠は初めての体験だ。

 これまでの人生を彼女は戦いやギルドの運営に捧げてきた。

 それが今日"おめでた"で終わったのだ。

 全く寂しくない無いと言うわけでも無かったのだろうが、今のアイリスはお腹の子供の事で頭がいっぱいだった。

 

「今までお疲れ様、アイリス。大変だったな」


「まあ100年前に実家を飛び出してから色々あったからねえ。悲しい事も辛い事をもたくさんあったけど。楽しい事や嬉しい事に関しては今が一番。今こうしてリックとシエラちゃんと手を繋いで歩けることが今までの人生で一番楽しいから、大変さなんて忘れちゃったわ」


 冒険者ギルドから一緒に外に出たリチャードはシエラとアイリスに挟まれるようにして手を繋ぎ、自宅ではなく診療院を目指して歩いていた。

 今日産まれる訳ではないが、診療院の鑑定医の鑑定ならもうお腹の子の性別が分かるらしく、名前を決める為にも鑑定してもらう事にしたのだ。


「リックとシエラちゃんはこの子が男の子か女の子ならどっちが嬉しい?」


 リチャードと繋いだ手とは逆の手でお腹を撫でながらアイリスが2人に聞いた。

 その質問に2人は「どっちでも嬉しい」と声を揃えて言うものだからアイリスは嬉しそうに微笑むが、リチャードはふとある事に気が付いて「ああ、でもそうだなあ」と苦笑すると口を開いた。


「私は出来れば男の子が良いなあ」


「なんで?」


 リチャードの言葉から何か察したのか、アイリスは「ああ〜リックにしてみれば確かに男の子の方が良いかもねえ」とニヤリと口角を上げて意地の悪い笑みを浮かべるが、一方でシエラはリチャードの言葉の真意が分からず首を傾げる。


「いや何。もし女の子だったとしても嬉しいよ? だがまあもしそうなれば家にいる男が私だけになってしまうだろ?」


「駄目なの?」


「いやいや、駄目じゃないさ。むしろ私は一向に構わん。だがまあちょっと、なんと言うのが適切か分かりかねるが、少し肩身が狭くなりそうでなあと。それに、未来の事を考えるとなあ。女の子2人とも嫁に出すのはちょっと寂しいなと思ってね」


「まだ生まれてもないのにパパは気が早いわねえ、ねえシエラちゃん」


「ん。考え過ぎ。それに私はお嫁さんには行くつもりないから安心してほしい」


 人通りの多い石畳の広がる道を診療院に向かってゆっくり歩きながら妻と娘にそう言われるが、妻、娘、そして従魔のロジナを含め、更に産まれてくる子供が女の子だと本当に男はリチャードだけになる。

 考え過ぎだと娘に言われてしまったリチャードだが、やはり近い未来の事となると色々想像するものだ。

 リチャードは成長した娘達が成長し、恋愛し、いつしか知らない男を家に連れてきた時の事を想像すると、体から殺気が漏れ出そうになってしまった。


「パパ? パパ? おーい」

 

「あ、ああすまない。考え事をしていたよ」


「もう、着いたよ?」

 

 シエラに諭され、顔を上げたリチャードの前には診療院の扉があった。

 まだシエラと出会った頃、シエラの健康状態を鑑定してもらった診療院であり、リチャードが体調を崩した際に最もよく通った診療院でもある。

 流石に3人で手を繋いだまま扉をくぐることは出来ないので仕方なく手を離してリチャードが前を歩いて先に診療院に足を踏み入れると、受け付けに向かった。


「今日はどうなさいました?」


 診療院の受付の看護婦に聞かれ、リチャードはアイリスを横に立つのを待ち「妻のお腹の中の子の性別が知りたくて」と受付に伝えると「畏まりました、ではお名前をご記入の上でお待ちください」と受付の看護婦が微笑んだので、リチャードは出された紙にシュタイナーと書いて、アイリスが躓かないようにもう一度手を繋ぎ、待合室へと足を運ぶ。


 しかし、ガラガラの待合室の様子から察するに、今日は診療院が暇だったようで、待合室の椅子に座って幾らも経たない内に「シュタイナーさん」と、呼ばれる事になった。


 看護婦に「シュタイナーさん、診療室へどうぞ」と呼ばれ、一瞬なんだか気恥ずかしそうにリチャードの顔を見た後、呼ばれた看護婦に「はい」と返事をすると「そうだった。私今シュタイナーなのよね」とアイリスはリチャードに向かって嬉しそうに微笑むと、リチャードとシエラから離れ、看護婦と共に診療室へと向かって行った。


「パパ顔赤いよ? 風邪?」


「いや、すまない大丈夫だ。気にしないでくれ」


 シエラに顔が赤いと言われ、気恥ずかしそうに手で顔を覆うと、リチャードは待合室の椅子に腰を下ろして先程のアイリスの笑顔を思い出しては込み上げてくる笑みを必死に堪えるのだった。


「嫁が可愛い」


「ね。ママ可愛いよね」

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