飛竜発着場にて
王都の飛竜発着場に到着したシエラ達。
その頭上を通過した、ワイバーンの中で小型とはいえ、馬よりは遥かに巨大なワイバーンの姿に以前対峙した地龍を思い出し、萎縮してしまうマリネスとナースリー。
そんな二人とは真逆に、シエラとリグスは初めて間近で見るワイバーンの姿に「カッケェ!」と目を輝かせていた。
「さて、私は搭乗手続きに行くが、シエラ達も来るかい?」
父リチャードの言葉に、少し怖がって顔を見合わせるマリネスとナースリーが答える前に「行ってみたい!」「行きます!」と、シエラとリグスが答えてしまったので子供たちは皆でリチャードやアイリスの後ろについて歩き始める。
そんな一行の後ろから「僕は服を買ってくるよ」と、アルギスが声を掛けてきた。
「買い物を終えたら予定通り指定した宿に集合してくれよ?」
「先に部屋を取って休んでおくよ。両陛下への挨拶はよろしく〜」
リチャードの言葉に答えると、アルギスは指先で宙に円を書いて広げると空間に穴を開け、当たり前のようにその穴を潜って姿を消した。
「消えちゃった」
「短距離の転移魔法らしいんだが……本当にアイツはやることなす事無茶苦茶だな」
「転移ってあの鯨さんが使ってた?」
「昔アルギスから聞いたんだが、厳密には神代の転移魔法とは原理その物が違うらしいんだが、私にはさっぱりだ。アイリスなら——」
魔法の知識が無いわけではないが、魔法に長けているわけでもないリチャードは、妻アイリスに振り向いて説明を求める。
しかし、アイリスは困ったように眉をハの字にすると首を横に振った。
「神代の魔法の事なんて分からないわよ。私、生まれてまだ二百年よ?」
「アイツは、どれくらい生きているんだろうな」
旧知の仲ではあるが、正体不明の魔法使いが消えた虚空を見つめ、冷や汗を滲ませたリチャードは「さて」と、自分の気持ちを切り替える為に口に出して、飛竜の発着場の方に視線を戻した。
「中にはいろんな飛竜たちがいる。あまり騒がないようにな」
「ん。分かった」
肩越しに振り返り、子供たちに向かって言ったリチャードが発着場を囲む壁を仕切る門に向かって歩き始める。
そして、門番に向かって飛竜便を使用したい旨を伝えて門を開けてもらい発着場へと進んでいった。
壁の向こうは予想以上に広く、家屋が十数軒並びそうな程だが、そこは街中だと言うのに何もなく、恐らくは飛竜の操者用の休憩所であろうギルドのような家屋が一軒と、人が入って生活するには些か巨大な牛舎のような建物が一軒だけ隣接して建てられていた。
そして、馬車の客室部分の天井から鎖が伸びているような飛竜便用の客室がその牛舎のような建物の近くに並んでいる。
もちろん飛竜たちも数頭、地上で翼を休めたり、飼育者から餌を貰ったりしていた。
「飛竜発着場へようこそ。御用向きは?」
リチャードたちの姿を見つけて、一人の青年が馬程のまだ小さい飛竜の手綱を引いて近付いてきて声をかけてきた。
「シーリンの森まで行きたいのですが、飛竜は空いてますか?」
「シーリンの森? ああ〜、エルフの里のひとつの」
リチャードの言葉に一瞬首を傾げた青年だったが、アイリスの姿を一目見てピンと来たのか、手をポンと叩く。
「場所が場所なんで、今日の今日は無理っすねえ。もう昼過ぎですし。急いでも出発は深夜になるっす」
「陛下への挨拶もあるので、今日ではなくても大丈夫なんですが」
「い⁉︎ もしかして貴族の方っすか⁉︎ すんませんこんな口調で」
「いえいえ。貴族というわけでは無いのでお気になさらず」
話をするリチャードと発着場の従業員の青年。
そんな二人をよそに、シエラは青年が連れている小さなワイバーンに興味津々で、リグスと一緒に少しずつリチャードの後ろから近付いていく。
「お嬢さんと僕ちゃんコイツ怖くないの?」
「ん。大丈夫。可愛い」
「可愛い? カッコいいじゃね?」
「可愛い、だよ。目がセレネみたい」
青年の言葉に、グレーの鱗を持つ黄色い目の飛竜を見て、シエラとリグスが交互に答えた。
その最中、シエラがアイリスに抱かれて眠っているセレネを見たので、青年は優しく微笑む。
「セレネちゃんは君の妹?」
「ん。そうだよ」
「そっか。実はコイツもまだまだ子供でね。出来れば仲良くしてあげてほしいっす」
「撫でてもいい?」
「おお〜。チャレンジャーっすねえ。普通は怖がるんすけど。いいっすよ。優しく撫でてやってください」
シエラの言葉にニコッと笑い、青年は手綱を少し引いてワイバーンの頭を下げさせる。
そのワイバーンの頬を、シエラは青年に言われた通り優しく撫でてその硬い樹脂のような感触に驚く。
「硬いのに、柔らかい」
「鱗がまだ完全に硬化してねえんすよ。不思議な感触っしょ?」
シエラが撫でると、気持ち良さそうに「グルルルゥ」と喉を鳴らす子供の飛竜。
その様子を見て、マリネスやナースリーも恐怖が薄れてきたか、シエラに続いて飛竜を撫でてもいいかと青年に聞いたあと、子共の飛竜を撫で始めた。
「珍しいっすね。子供は飛竜を怖がるもんなんすけど」
「こう見えて、この子達は冒険者なんです。それも歳の割に修羅場を潜ってましてね」
「はえ〜。冒険者なんすか……あ、すみません話し込んじまって。それじゃあ手続きしますんで、詰所までお越しください」
青年の言葉に頷いて、リチャードはアイリスに目配せする。
歩き始めた青年に続いて、リチャードとアイリスは歩き始める。
その横を飛竜と子供たちが並んで歩いていくのだった。




