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Sランク冒険者に育てられた少女は勇者を目指す  作者: リズ
後日談から始まる物語
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街外れの孤児院へ

 翌朝、リチャードは帰還後に再開した朝の走り込みをシエラと行う為に自宅の前で準備運動を行なっていた。

 昨日との気温差からか霧が出ているが前が見えない程では無い上に、シエラが最近覚えた索敵魔法を走りながら常時使用するという、リチャードでは出来ない事を始めた為、早朝の暗がりであろうが全力で走れるようになっていた。


「パパ、今日はどこまで走るの?」


「そうだなあ、時計塔まで走るか」

 

「中央広場の時計塔?」


「ああそうだ、走れるかい?」


「大丈夫。走るよ」


 リチャードはシャツにズボンという訓練用の軽装だが、シエラに至ってはチューブトップの下着に袖無しのベスト、ショートレギンスの上にショートジーンズというシエラが最も好む服装だ。

 シエラが好きな動きやすい服装という事もそうだが、リチャードが初めて買い与えた服の詰め合わせの中から自分で選んだ服がこの組み合わせだった。


 リチャードに拾われて1年、2人揃って神隠しに遭って帰還するまでに数ヶ月。

 シエラももうすぐ12歳。10歳の頃に買ってもらった服はそろそろ小さくなってきた。今シエラが着ている服は先日リチャードとアイリスとシエラが3人一緒に買い物に行った時に買った新しい服だ。


「あんまり速く走って他人にぶつかっちゃ駄目よ?」

 

「大丈夫さ。なあシエラ」


「ん。任せて」


 玄関先で寝巻きにカーディガンを羽織ったアイリスが眠気から目を擦り、欠伸をしたあと柔軟をしている旦那と娘に言うが、リチャードは笑いながらシエラに同意を求めると、それに答えたシエラはいつも通りに索敵魔法を発動した。


 シエラが父と母から受けたレクチャーを自分なりにアレンジした索敵魔法、イメージしたのは天使の輪。

 青白い輪が一瞬シエラの頭上に現れ、水に溶けるように宙に消えていく。 

 これでシエラは周囲数十メートルを常時警戒出来るようになったわけだ。


「10代前半の女の子がオリジナルの魔法を編み出すなんてねえ」


「あの子に並ぶ魔法の才能もあるのかも知れないな。魔法ではもう敵わないよ」


「リックは魔法苦手だもんねえ」  


「それでも女神様から賜った加護で昔よりはマシになったよ。さて、それではそろそろ行くよ」


「行ってくるねママ」  


「行ってらっしゃい2人とも。あ、他人の家の屋根の上走るのはダメだからね」

 

「……場合によるかも」


「駄目よ?」


「ん。頑張る」

 

「じゃあシエラ、身体強化を発動したらスタートだ」


「ん。じゃあ、行くね」 


 手を振るアイリスに手を振り返すシエラとリチャード。

 2人は同時に身体強化の魔法を発動し、合図も無く息ぴったりでスタートを切った。

 アイリスの視界から消える2人の速度たるや猫型の魔物も顔を真っ青にする程の速度だ。


 朝のランニングなどという微笑ましい雰囲気では無い。

 どちらかと言うとそれは全力での競走のものだが、2人の表情は全力疾走のそれでは無かった。

 まだ寝静まる街の中を、汗を滲ませながら軽い運動でもしてるのかと思う程、余裕のある表情で駆けていく父娘。

 

 そんな親子だが、父であるリチャードの方が速い。

 シエラは少しずつリチャードから離されていった。


 結局、冒険者ギルドがある街の中央区にある時計塔に先に到着したのはリチャードだった。


「はあ。やっぱりパパには勝てないなあ」  


「ははは。まだ負けてはやれんよ。確かに私はシエラやリンネ程魔法に長けてはいないがね、要は使い方さ。必要な魔力を必要な分だけ必要な所へ。私の友人の言葉さ」

 

「言ってる事は何となく分かるけど、やるってなると難しいね」  


「シエラはシエラのペースで鍛錬すれば良いさ」


 これが帰還後の親子の朝の様子だ。

 こうして2人にとっては軽く運動をして、また走って家に帰り朝食を食べ、朝風呂に浸かり、養成所に勤めていた頃はアイリスを見送っていたが、今日は3人揃って家を出た。

 冒険者ギルドまで3人で歩き、アイリスをギルドの前で見送る。


 リチャードとシエラはというと、そのまま中央区から南下。

 リチャードとアイリスが結婚式を挙げた街中の教会ではなく、街外れの丘の上にある孤児院が併設されている教会に向かっていった。


「昔世話になったシスターがご健在だと良いが」


「パパ孤児院にいたの?」


「ああいや、クエストでね。孤児院の手伝いをした事があって、その時に色々教えてくれた方がいたんだが、さて会えるかなとね」


「パパの先生って事?」


「当時は口うるさい姉という感じだったよ。とは言え最後に会ったのは3年、いやもっと前かな?」


「なんで会わなかったの?」


「その頃は緋色の剣の一員としてあちこちで魔物と戦っていたからね。忙しかったんだよ」


「へえ〜」


 街の中央区から南へ南へと歩き、街を囲む石の壁が見えてきた頃、その教会に2人は辿り着いた。

 草木の茂る丘の上、教会の横に併設された孤児院とさらにその横に広がる畑が2人の視界に入る。

 その畑の一角、土を弄り、何かの種を蒔いているシスターを見つけ、リチャードは気まずそうに鼻の頭を掻くとそのシスターに向かって歩いて行く。

 そしてシエラもそんなリチャードに付いて歩いていくのだった。

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