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貰ったもの

「迎えに行きたい子がいるの」


 地上を走る馬車や竜車と違い、翼竜種であるワイバーンに馬車の屋型(やがた)を足で掴ませ空を飛ぶワイバーン便。

 ワイバーン育成の難度とそれを駆る事が出来るほどの御者の少なさから乗るだけでも高価なそれを求めたシエラに、女王は理由を聞き、シエラはそんな女王にいつぞや転移させられた先の遺跡で出会ったゴーレムの事を話して聞かせた。


 その話を聞いて、女王と国王は優しく微笑んだ。


 報告を聞く限り、この少女は今代の勇者であり今後の世界の行く末を担うかもしれない人材である。

 さらに言えば、この度の地龍事変の解決に一役買ったどころか、この少女がいなければ地龍事変は解決せず、最悪自国が滅んでいた可能性すら大いにあった。

 幼い頃から世話になっていた宮廷魔法使いが言うのだ嘘ではないのだろう。


 故に、女王も国王も快くワイバーン便を貸切る事を許可し、王家の紋章入りの押印が押された書類を用意してくれた。


「これを見せればこの国の中でならどんな願いも叶えてくれる魔法の書です。これに貴女の魔力を通して頂戴。そうすればあなたが持っている時だけ文字が浮かび上がるようになるわ」


 老騎士ラディウスに用意させた、金細工が施された小箱から出された一枚の書類。

 それを手に取った女王から差し出された書類をシエラは臆することもなく受け取った。

 その書類の重要性、危険性を知ってアタフタしたのは父親であるリチャードの方だ。

 ともすれば王家の名を騙り、堂々と他人の家に上がり込んで壺を割ったり、樽を壊したり、タンスの中身を漁ったりと言ったような悪事を働くことすら可能になる代物。

 本来は王家の人間が国政をやむなしで強行するために使用するような重要なそれは、ともすれば国庫に眠る財宝や由緒正しい魔法具、かつての転生者が使用していた武具などよりも価値がある。


 その重要性をシエラも分かっていないわけではないようで。


「私はワイバーン便さえ使えれば良い、です」


 と、困ったように一度振り返ってリチャードを見たあと、女王にその書類を返そうとする。

 しかし、女王は首を振り、金細工の施された高価そうな箱の蓋を閉じて自分の膝の上に乗せるのだった。


「貴女は既にその若さで一国を救ったという自覚を持たなければなりません。それが力を持つという事です。あなたがこれまでどんな困難に打ち勝ち、これから貴女にどんな困難が待っているか、私達には分かりません。ですが貴女は、いえ、貴女たちは神々が選んだ勇者の一行。なれば私達王家はその手助けを最大限で行わなければなりません。それがグランベルク王家の使命であり宿願なのです。それに、こうして初めて会った貴女たちの事を私はとても気に入っています。こんなに可愛い子供たちが今後のグランベルクに為に戦おうというのです。王家がそれを助けないわけにはいきません。言うなればコレは先行投資、平和な未来の世界の為のね」 


 一国の主にここまで言わせてしまっては、書類を受け取らないわけにもいかず。

 シエラは受け取った書類に魔力を流し、要約すると「王家の名においてこの書類を持つ者の言う事は全てにおいて優先される」という文字が浮かび上がったのを確認すると筒状に丸めてどうしようか悩んだ結果、リチャードにそれを渡した。


「アイテムポーチ忘れてきちゃった」


「まあ、パーティー用のドレスにポーチは似合わんしな。しばらくは私が預かるよ」


 それからは他の子供たちに女王と国王は褒美は何がいいかと聞くのだが、どうにもこうにも決める事が出来ず「では資金援助はするとして、一度使者を送ってご両親に意見を聞いてみよう」という国王の提案でリグスとナースリーはその意見に賛成した。

 続いて貴族のマリネスだが元々名門であることから賞金と陞爵(しょうしゃく)、爵位を上げる事を約束し、リグスらと同じように使者を送り要り様がないか聞くことを確約した。

  

 こうして後は本当の意味での歓談の時間になった。

 国王や女王は一国の主というよりは久々に会った親戚と話すように楽し気にアルギスにこれまでどこで何をしていたのかを聞いたり、過去一度戦時に活躍したリチャードにその後の生活はどうだったのかなど聞いたりし、アルギスもリチャードも特に隠し立てするような話もないということで、これまで起きた事を話したりするのだった。


 そして夜が更けるまで話をし、シエラ達は別室で夕食を振舞われ、用意された客室で一夜を明かすことになる。


 帰路についたのは翌朝。

 澄み切った青空を太陽が煌々と照らした頃だった。


 着慣れないドレスからいつもの私服にコートを羽織り、シエラは馬車に乗り込む際ふと視線を感じて振り返って見上げる。

 その視線の先には城のバルコニーから国王と女王が王冠も乗せずにこちらを見下ろしているが見え、シエラは小さく手を振った。

 そんなシエラに微笑みながら国王と女王は同じように手を振る。


 その様子を見ていた子供達も二人に手を振り、大人二人は頭を下げて馬車に乗り込んだ。

 こうしてシエラ達は謁見を終え、自分達の守った街に帰っていったのだった。


「でも良かったのかなあ俺たちまで褒美貰っちまって。今回まじで俺達付いて行っただけじゃん」


「そんなこと無いよ。石像と戦った時だってリグスがいないと危なかったし」


「そうかあ?」


「まあ気にする事じゃないぞリグス少年。今回君たちは未解明のダンジョンに放り込まれ、パーティで揃って帰還したのだから。それだけで十分な功績なんだからね」


 師匠であるリチャードに言われるも、リグスはあまり納得いっていないようだったが「パーティでの冒険はそんな事もあるのさ」と言われたあたりでリグスはようやく自分の中で折り合いを付けたようで「了解っす」と二カッと笑って見せた。

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