謁見、宴、そのあとで
「この度の地龍討伐、本当にお疲れさまでした」
その言葉から始まった国王、女王陛下の両名の賛辞と感謝、慰労の言葉。
そこに続くとなれば「褒美は何が良いか」と言う常套句だった。
しかし、急に褒美をと言われても子供たちに思い浮かぶわけもない。
だがそこは流石と言うべきか、シエラの父であり、アステールの面々の師を務めるリチャードは「では」と、その場に立ち上がると両陛下に向かって顔を上げた。
「何かな? 言ってみなさい」
「両陛下との歓談の許可を頂きたく思いますが、よろしいですか?」
「はっはっは! それが褒美になるものかね。まあよかろう、ちゃんと歓談中に褒美は考えるのだぞ? 誰か、部屋の準備を。宴のあとにこの者たちを招待できるようにな」
女王陛下の言葉に頭を下げて近衛の騎士が指示を出す。
その後、謁見の間での両陛下との謁見を終えた六名は、まず王城の大広間に案内され、そこで開かれた宴に参加することになった。
並べられた円卓の上に並ぶ豪華な料理の数々、見慣れない煌びやかな礼服やドレスに身を包んだ貴族たちその中央に放り込まれたシエラ達アステールの四名と、リチャード、アルギス保護者二名。
庶民であるシエラ、リグス、ナースリーは終始圧倒されっぱなしで、パーティの中では唯一の貴族であるマリネスだけが次々に話しかけてくる貴族の大人達の対応をそつなくこなしている。
「セルグってちゃんと貴族だったんだなあ」
「リグス失礼過ぎるよ」
シエラ達の盾になるべく頑張って大人たちに対応するマリネスの後ろで、冷や汗をかきながらリグスとナースリーが苦笑する。
そんな時だった。
マリネスの元にまた一人、年配の口ひげを蓄えた男性の貴族が一人やってきた。
どうやらお目当てはマリネス個人なようで、歳の近い息子がいるから会ってほしい、というような遠回しな婚約の持ちかけだった。
そんな年配の貴族の言葉にマリネスは首を横に振る。
「申し訳ありません。まだ発表はしていないのですが、わたくし既に婚約者がいるんです」
と、チラッと後ろで肉を頬張った瞬間のシエラを見てマリネスは微笑んだ。
そんなマリネスの視線に気が付き、シエラは肉を飲み込むと皿をテーブルの上に置いてマリネスに近寄る。
「どうしたのマリィ。なにかあった?」
「ううん。何でもないの」
さも当たり前と言わんばかりにマリネスの手を握りながら言うシエラにマリネスは優しく微笑む。
そこに、リチャードとアルギスが鎧をまとった老騎士に引きつられる形で姿を見せた。
「パーティを楽しんでいるところ悪いが、部屋の準備が整ったそうだ、両陛下を待たせるわけにもいかんのでな。行くとしようか」
その言葉を嫌だという者がいるわけもなく。
シエラ達は初老の騎士の案内で大広間を出る事になった。
「案内役を務めさせていただきますラディウスと申します、さあどうぞこちらへ」
そう言った老騎士だったが、六名への警戒は解いていないようだった。
騎士と冒険者の仲が悪いだとか、老騎士がシエラ達の事を気に食わないだとか思っているわけでは無い。
単純に国王と女王の両名と個人的に話がしたいと言ってきた故の警戒心だ。
「両陛下との面談には私も同席いたしますが、構いませんな?」
構いませんか? と聞かなかった辺り断っても居座るだろうし何より断る理由もない。
リチャードもアルギスも老騎士ラディウスとは顔見知りでもある。
二人は前を歩く老騎士に向かって「ええ」「もちろんだよ~」と応えると子供達を後ろに引きつれて城の廊下に敷かれた赤い絨毯を踏み歩いていく。
窓の外に見える空は既に日が傾き、青いキャンバスの下辺にオレンジと紫のグラーデションカラーが塗られているのが見えてきていた。
今日はどうやらこのまま王都に泊りになりそうだ。
しばらく歩き、一階の大広間から二階に向かい、一向はある一室の前で止まった。
「陛下、お客人をお連れしました」
「ああ、ありがとう。入ってもらってくれ」
重そうな光沢を放つ飾りのついた高級そうな部屋の扉をノックし声をあげる老騎士ラディウス。
その声に応え、部屋の中から弾んだ声が聞こえてきた。
それはもちろん謁見の間で聞いた両陛下の声だが、何故だろうか、謁見の間で聞いた時よりうわずってシエラ達には聞こえた。
「失礼します」
老騎士が言葉の後に扉を開き、それに続いてリチャードとアルギスを先頭に、シエラ達も「しつれーしまーす」と、部屋の中へと足を踏み入れた。
「改めてお久しぶりです国王陛下、女王陛下」
「ほんと、何十年ぶりかなあ。年取ったねえ君達」
深々と頭を下げるリチャードと、その横で両陛下を見て微笑むアルギス。
リチャードはともかくとして、アルギスの言葉と態度は本来不敬罪もいいところだが、アルギスの事は両陛下ともに子供のころから知っている仲なのでその言葉にむしろ喜んでいるようで。
「そりゃあ、貴方が城から出て行って随分経ちますからねえ」
と、遠方に住む親戚でも迎えるように微笑んで返した。
「メテオール殿、流石に不敬では」
「そういう君は相変わらず真面目過ぎみたいだねラディウス」
国王、女王、両陛下がアルギスを知っているなら古くから二人を守る老騎士ラディウスもアルギスの事は知っていて然り。
老騎士ラディウスは若いころに立ち向かってはボコボコにされた人物相手に冷や汗を浮かべて口をつぐんでしまった。




