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Sランク冒険者に育てられた少女は勇者を目指す  作者: リズ
後日談から始まる物語
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いつか産まれる子供の為に

 さて、シエラがパーティメンバーの友人達と合流し、ギルドの地下鍛錬所にて鍛錬や模擬戦を始めた頃。

 リチャードはというと、ギルドより東に位置する商業区の一角に店を構える、店舗の大きな家具屋に足を踏み入れていた。


「いらっしゃいませ。本日はどのような御用向きでしょう」


「まだ先の話だが、子供が産まれるんだ。それで、子供用のベッドが欲しくてね」


「それはそれは、おめでとう御座います。ええ、ええ。もちろん御座いますとも、此方へどうぞ」


 身なりの良い初老の店員に案内され、リチャードは店の奥へと向かう。

 そこにあったベビーベッドは意匠こそ違うが、どれも一様に囲いが付き、ベッドの支柱に魔石が組み込まれていた。


 この世界の富裕層に広く普及している風呂。

 浴槽などの横に設置されている2つの魔石は魔力をこめると片方の魔石からは水が溢れ、もう片方からは熱を放出する。

 説明されずとも、それが魔石と分かれば浴槽やキッチンの水道に設置されている魔石なら、なんとなく用途はわかる。


 しかし、ベビーベッドに設置された魔石となると、果たして用途はなんなのか。


「失礼、この魔石はどういう魔法を使用する為の物なんです?」


「これはお子様を守る為の小規模な結界を張る為の魔石で御座います。支柱4本それぞれに設置している魔石、どれでも構いませんので魔力を込めますと」


 リチャードの質問に答え、初老の店員はあるベビーベッドの横で片膝を付くと、魔石に魔力を流し込んでいく。

 すると、支柱の魔石四つから薄いベールのような膜がベッドを丸く包み魔石同士で繋がった。


「このようにちょっとした結界が使用出来るようになっております。また同時に微弱ではありますが癒しの魔法も発動致しますので、お子様に不快感は与えません。外敵からお子様を守り、ベッドからの滑落事故を防ぎます。とはいえ外敵からの守りの方はシュタイナー様のお宅には必要無さそうですがね」


「私の名を」


「私も商人の端くれ、この街のSランク冒険者であり、神隠しからの帰還者であり、先日冒険者ギルドのギルドマスターと御結婚された方の事を知らないはずが御座いません。どうです? お安くしておきますよ?」


「知った上でこれを勧める。という事は自信作という事ですね?」


「はい。この店で一番丈夫なベビーベッドで御座います」

 

「買おう」

 

「おや、宜しいのですか? 一番高い商品を勧めているかも知れませんよ?」


「商人は信頼が命より大事だと聞く。となれば、例えこれが一番高い商品だろうが、一番丈夫な事に違いは無いのだろう? なら買うよ」

 

「お買い上げありがとうございます。では店の作業員に準備させますので、ご自宅までご一緒させていただいて宜しいですか?」


「もちろんです。お願いします」


 こうして新しい家族の為にリチャードはまずベビーベッドを購入し、家具屋の作業員を家に案内してベッドの組み立てを待った。

 その間、生まれてくる子供の為に何が出来るか考えるが、いかんせんリチャードにとって初めての事ばかりで何をどうすればいいか分かったものではない。


 娘のシエラは捨て子だ。出会った時には物心はついていたし、出会った当初は言葉使いこそ荒っぽかったが素直で聞き分けが良かった為、リチャードはさほども苦労はしなかった。


「ああ、そうだあの人に聞こう。お元気だろうか」


 寝室に組み立てられたベビーベッドを見下ろしながらリチャードはある人物の顔を思い浮かべる。

 その昔、郊外に建てられた孤児院で子供の世話を手伝うというクエストを受けた際に色々教えてもらった孤児院のシスター。

 彼女なら赤子に必要な物を熟知している筈だと思ったのだ。


 その事を、リチャードは夕食時にアイリスとシエラに伝えた。


「気が早くない?」


「そうかい? 何事も早めに用意しておいて損は無いと思うんだが」


 自分が産むはずなのに随分のんびりして見えるが、アイリスは心の内で喜んでいた。

 夫が子育てに積極的に協力してくれようとして喜ばない妻はいない。いない、と断言するのは早計かも知れないが、少なくともアイリスは嬉しくなり、テーブルに両手で頬杖をつき、微笑んでリチャード見つめる。


「なんだいアイリス」


「ううん何でもない。リックが旦那で良かったなあって思って」


「私も、アイリスが嫁で良かった」


「パパとママがイチャイチャしてる。ズルい」


「じゃあシエラちゃんともイチャイチャしようかなあ。後で一緒にお風呂入ろうねえ」


「ん。入る」


 日の暮れたエドラの街の上に星の海が広がる。

 アイリスとシエラが一緒に風呂に入っている間に夕食の片付けを終えたリチャードはリビングの暖炉に火を着け、暖炉の前に置いた1人掛けソファに座って、お気に入りの小説を片手に微睡む。

 リチャードの足元で丸まり眠る銀狼ロジナ、シエラとアイリスが風呂から上がってくる頃にはリチャードは気持ち良さげに夢の中を漂っていた。

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