となりの席のアイドルくん。
これだけでも全く問題なく読めますが、世界観はあやかしアイドル!〜秘密だらけのアイドルをプロデュースせよ!〜と同じで少しだけ繋がってます。
私は今時時代遅れかもしれない三つ編みにメガネの、テンプレ優等生。
クラスメイトからはイインチョーと呼ばれる、どこにでもいる普通の優等生な高校生だけど、一つだけ普通じゃない事があった。
それは、アイドルと席が隣だということ。
シオン様、とクラスメイトから呼ばれる彼は、アイドルをやっているらしく、たまにしか学校に来なかった。
彼は、学校に来てもいつも眠そうで、常に制服の中に来ているパーカーのフードを被っていた。
授業中は殆どの間うとうとしているのに、成績はいつもクラスで一番なのだから、納得出来ない。
そんな彼のせいで私は、いつも二番手になってしまう。
くやしい、悔しい。私は友達と遊ぶ時間も削って(もともと友達なんていないが)塾に行き、帰ってからも授業の予習復習を欠かさずにしているというのに。
それなのに、アイドルをやっていて忙しくしている彼に何故、負けなければならないのだろうか。
彼にはアイドルという居場所があって輝けるというのに、クラスで一番という狭い世界まで私から奪うというのか。
私は必死こいて今の成績を維持しているというのに、彼はいとも簡単に掻っ攫っていく。おかしな話だ。
神様、不公平すぎやしませんか。
恨めしげな視線で、今日も授業中だというのに、うつらうつらと船を漕いでいる彼を見やる。
日本人らしく無い、彼の派手な金の髪は、今日も今日とてフードに阻まれて見る事が出来なかった。
私は別に彼のファンでは無いし、むしろ憎らしく思っているけれど、その綺麗な金髪が隠れてしまうのは勿体ないと思う。
✳︎
放課後、委員長である私は、先生からの頼まれごとを片付けてから、荷物を取るために教室へと戻った。
ガラガラと建て付けの悪いドアを開け、教室へ入ろうとすると、そこには挙動不審な一人のクラスメイトがいた。
——この人は、確かアイドル、シオン様の熱狂的なファンだったはず。
そんな彼女はシオンの鞄の中に手を突っ込んっでゴソゴソと何かを探していた。
そんな彼女を前にして、思わず口を開く。
「なんで、彼の鞄を持ってるの?」
「⋯⋯⋯⋯」
「ねえ、もしかして⋯⋯」
「うるっさいわね! アンタに関係ないでしょ、地味女!!」
彼女は逆上し、私に掴み掛かろうと迫ってきた。
避けようとしても、恐怖から身体が動かず、ギュッと目を瞑り、襲い来るであろう衝撃に備えるしかなかった。
しかし、いくら待てども衝撃が襲って来ることは無い。
おそるおそる目を開けると、ショックでぱくぱくと声にならない声を出すクラスメイトと、そんな彼女の腕を掴むシオンの姿があった。
「何してるの?」
「あっ、え、と⋯⋯その⋯⋯」
「ん?」
にっこりと笑う彼は、テレビで見るようなアイドルスマイルではなく、威圧感すら感じられるアイドルとは真逆と言ってもいい程の黒い笑顔であった。
「わ、わた、私はっ! シオン様に悪い女が付かないか確認しようとしただけでっ⋯⋯そしたらそいつが邪魔しようとするからっ」
「へえ⋯⋯そうなんだ。悪いけど、自分勝手に人を傷つけようとするファンは、俺には必要ないかな。俺の前から消えてくれる?」
「!!」
シオンの突き放すような言葉を聞いて、クラスメイトの女の子はうるうると瞳いっぱいに涙を溜めながら教室を飛び出していった。
そんな彼女の後ろ姿を黙って見送る私とシオン。
放課後の夕日が差し込む教室にいる彼は、フードを被っておらず、キラキラとした金の髪を曝け出していた。
私は、普段じっくりと見ることのできなかったそれに目を奪われる。
彼女の足音が聞こえなくなった頃、シオンが此方を向いて言った。
「俺のファンがごめんね。大丈夫だった?」
「あ、うん。全然平気。それに貴方が謝る必要は無いと思う」
私の言葉に、シオンは大きな目をパチクリさせた後、不意に笑い出した。
「な、何!? 私、なんかおかしな事言った!?」
「ううん、何もおかしくないよ。ありがとう⋯⋯」
お礼の後、彼は私の名前を呼んだ。
——地味で影の薄い私なんかの名前、知ってたんだ⋯⋯。
私とは対極に位置する彼が、自分の名前を知っていたことに驚きを隠せなかった。
それになんだか、彼に名前を呼ばれて、深い紫の瞳で見つめられるとドキドキとするような⋯⋯。
——気のせい、気のせい! 私はコイツの事なんか大っ嫌いなんだから!
動揺する気持ちを隠すように言った言葉は、まるで一昔前に流行ったツンデレのテンプレセリフみたいになってしまう。
「べ、別にほっとけなかっただけ。シオンくんこそ、アイドルなのにあんな事言っちゃって大丈夫なの?」
つい流れで馴れ馴れしくもシオンと呼んでしまったが、隣の席だというのに、私はこの男の苗字すら知らなかった。
口に出してからからハッとし、彼の反応を見るが、大して気にしていないようだったことにホッと胸を撫で下ろす。
「うーん⋯⋯どうかな。まあ、成るようになるよ」
ははっと軽く笑う彼は、どうやら本当に気にしていないようであった。
「じゃあ、俺はこれから仕事あるからもう行くね」
「あ、うん」
シオンはにこりと笑い、去り際に私の頭にポンっと触れて、言った。
「女の子なんだから、無茶しちゃダメだよ」
「!!」
彼に頭を触れられた瞬間、かあっと顔に熱が集中する。バクンバクンと心臓は痛いくらいに速く脈打つし、もしかして、これは————
この症状から導き出せるたった一つの答えを想像して、ぶんぶんと激しく頭を振る。
いや! ちがう、違う! 普段男の子と接触なんてしないから、いきなり頭を触られたことに驚いてドキドキしているだけで⋯⋯
——これは、断じて恋なんかじゃない!
教室を出て行く彼の後ろ姿に向かって、私は心の中で力いっぱい叫んだのだった。
初めての短編小説、とても楽しく書けました。
貴重なお時間をいただきありがとうございました!
ここまで読んでいただけて嬉しいです!
お時間があれば、あやかしアイドル!〜秘密だらけのアイドルをプロデュースせよ!〜もお読みいただけると嬉しいです。
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