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『私が立ち寄ったその国は、今まさに崩壊の危機にありました。
王様は国の民のことを考えず、自分がいい思いをすることばかりを考えるのでした。
ですがその事に皆、不思議と文句を言わないのです。
私は、王様の事が怖いのだ。怖くて王様に逆らえないのだと考えました。
それでもしばらくその国で暮らしてみると、そういうわけでもないようなのです。
皆さん王様の悪口をいいません。
それどころか、
「王様は大丈夫だろうか? 今苦しい思いをしているのではないだろうか? 周りの家来たちはちゃんと王様の力になれているだろうか? ちゃんとご飯を召し上がっているだろうか? よく眠れているだろうか?」
そう言って王様の心配ばかりをするのです。
国のどこへ行っても、誰に聞いてもそうなのです。
私は不思議でした。私の目には王様はひどい王様に思えました。ですから国の皆さんはもっと王様に怒って当然ではないでしょうか。
だがそうではない。これはいったいどういう事なのでしょう。
私は国の大きな図書館へ行ってこの国のことを調べることにしました。
図書館の本は王様の事を褒め称える記事であふれていました。
きっと出版社は王様に逆らえず、無理やりこのような本を書かされているのだ。私はそう考えました。
ですが、やはり図書館の本を読み込んでいくと、そこには王様への親愛の情が感じられました。
一週間図書館にこもって、この国の歴史や王様の事が書いてある本を読み漁りました。
「なるほどこういう事か」
そうして私は理解しました。
この国が王様と一緒に歩んできたその歴史を。
王様がお生まれになったのは、いまから70年前の事になります。
待望のお世継ぎでした。
国民たちは大変喜んで、お祭りが行われました。
そのお祭りは一か月続いたといいます。
王様。当時の王子様ですが。王子様はとても聡明であったといいます。
まだ小さい頃から、家庭教師につけられたこの国一番の学者の先生が、こんなに賢い子は初めて見る、と舌を巻いたといいます。
容姿も優れ、性格も慈愛に満ちていたといいます。
国民たちはこの国の将来は明るいと、大変期待に胸膨らませて、王子様の成長を見守りました。
王子様のお父様。当時の王様が王子様にはやばやと王様の椅子をゆずると、王国の繁栄の時代が始まりました。
そして誰もが幸せに暮らしたのです。
ですが、その幸せが暗い影につつまれる日がきました。
それは今から3年前の話。
王様の大事な孫が何者かに誘拐されてしまったのです。
王様はあらゆる手を使って孫を助けだす事に成功しました。
ですが、王様の孫は心に大きな傷をおってしまったのでしょう、一切口をきかなくなっていました。そうして、自室に閉じこもって明かりもつけず、壁をみつめるばかりだといいます。
王様の悲しみはどれほどのものだったでしょう。そして怒りは。
王様は孫を誘拐した犯人を世にも恐ろしい殺し方をしたといいます。
国民たちは眉をひそめ、王様はやりすぎだと口々にささやきました。
王様はそんな陰口をたたく者を牢屋へと次々に送り込んだのです。
そして、王様はそれまでの名君であった過去がウソであるかのように、自分勝手なふるまいを始めました。
国民たちはそのことに怒ったでしょうか?
いやむしろ後悔したのです。自分たちは王様が受けた心の傷を理解していなかった。もっと王様の気持ちをわかってあげればよかった。あんなに偉い人だったから、あんなにすごい人だったから、自分たちは王様も一人の人間なのだという事を忘れてしまっていたのかもしれない。
自分たち国民は王様と一緒に国を発展させてきた。
もう一度そんな時代が戻ってくるまで、自分たちが頑張らねばならない。
それが国民たちの想いなのです。
国民たちは今でも王様の事が大好きなのです。
王様がそのことに気づいて元の自分に戻る日は来るのでしょうか?』




