3
「王様はなぜあんなにこの世界がつまらない、そんな顔をなさるのでしょう? 私たちがいけないのでしょうか?」
王妃様が悲し気につぶやきました。
きっとそうではない。ボタンのかけ違いのようなものがあるだけなのでしょう。
でも、それはとても恐ろしいことなのです。
人の絆はほんの少しのことで、めちゃめちゃに壊れてしまうことがよくあるのですから。
それは決して悪意だけがきっかけになるものではありません。
わたしが物語を語っている間も、王妃様や家来の皆さんは横目で王様の事をうかがいます。
きっと王様も大笑いしたり、わんわんと泣いたりしたいのです。でもそんなに自分に目が集まっていては、なかなかそうもいかないのでしょう。
みんなが大笑いしている場面で自分だけが笑っていない。その様子を見られたら、王様はユーモアがわからない方なのだなあ、と思われてしまいます。
みんなが感動して泣いている場面で自分だけ涙を流していない。その様子を見られたら、王様は血も涙もない方なのかな、と思われてしまいます。
王様は笑わなくては、泣かなくては、そんな考えばかりが頭の中をぐるぐるまわっていることでしょう。
それはとっても気疲れのすることなのです。しかも毎日、常にそんな状態なのですから、本当に王様というのは大変な仕事です。
私は「王様」という立場の人の前で、物語を語るのは初めてではなかったので、その気持ちがよくわかるのです。
王様はいい王様であればあるほど周囲の人が気になってそうなりがちです。
きっと目の前にいるこの王様もとてもいい王様なのでしょう。
そして王妃様たちもとてもよい人たちなのでしょう。
すべての人がいい人達だとしても、こんなことが起こるのですから、人間の世界というのは難しい場所だなあとしみじみと感じてしまいます。
私は物語というのは、そんな厳しい世界を暮らすための、一服の清涼剤のようなものだとおもっています。
だから王様に純粋に物語を楽しんでいただきたいのですが、それもなかなか難しいことです。
そんな時、私は王様に語る物語があります。




