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「旅のかたりべ殿、来てもらったのはほかでもない。そなたは数多くの国を巡ってたくさんの物語を集めていると聞きます。ぜひその物語を王様に披露していただきたいのです。笑い話。怪談。心温まるお話。いろんなお話があるでしょう。それらを王様に披露していただいて、王様の心を慰めていただきたいのです」
王様の側近中の側近。つまり大臣に呼ばれた私はそんな風に頼まれたのです。私はむむむと難しい顔をしました。王様に私の創ったお話を物語ることじたいは容易いことでした。
でもきっと・・・
王様の心を本当に慰めるのはそんなことではない。私はそう思いました。それでも大臣や王妃様、王女様、王様を心配する家来たちのたっての頼みでしたので、私はそれを快諾したのです。
その日から王様に物語を語る日々が始まりました。
それは例えばこんなお話でした。
『あるところに仲睦まじい恋人たちがおりました。
いよいよプロポーズとなり、
「大好きです。あなたが世界で一番大事です。結婚してください」
夫となる男性はそう言って愛を誓いました。
数年後、娘が生まれました。旦那さんはたかいたかーいをしながら、
「キミは僕の宝物。世界で一番大切だー」
それを聞いた奥さん、
「私は?」
と尋ねました。
旦那さんは冷や汗をかきかき、
「キミは世界で二番目に大切だー」
そう子供に言い直すのでした』
またある日はこんなお話。
『彼女はさよならという言葉が嫌いだった。
もう会えない気がするからって。
だから、お葬式だけどお別れは言わないよ。
また会おう。
「もう会いたくない」
その言葉が僕の頭に響く。彼女の声。
「こっちに来ないで」
「どうして?いつかは僕もそっちへ行くんだよ」
「ごめん。私ね、地獄へ来たみたい」』
またある日のお話。
『本物のイタコに、誰か呼び出したい人はいるかと聞かれた男性。
「亡くなった昔の恋人と話したいのです。彼女との別れはあまりに急でしたから」
「いいでしょう」
そう言うとイタコの女性はしばし、なにか呪文のようなものを唱えた後、バタリと倒れ、その後すっと起き上がると顔つきが変わっていました。
まさに男性の恋人そのものなのです。彼女は口を開きます。
「あきくん久しぶり。ずっと見てたよ。新しい家族と一緒に暮らして、幸せそうで安心してるよ。これからも家族を大事にね」
あきくんと呼ばれた男性はそれを聞くと、もう声も出せず涙を流すばかりでした。
男性がイタコに何度も感謝を言い、その場を去った後、一人静かになったイタコの部屋で話し声がしました。
「よく頑張ったな。」
「だって私は死んじゃってるもの、しかたないよ」』
そんな風に私は物語を王様に語り続けました。それでも王様は笑顔を見せることもありません。他のどんな感情も見せてはくれません。ただつまらなそうに、玉座に腰掛けてブスリとしているだけなのでした。
作中のお話はTwitterに投稿したオリジナルを加筆修正したものです。