1
童話風に物語を創ってみようかと・・・。
「かたりべ、それは旅を通して知識を集め、人を成長させるしごと」
そして、これはそんなある国での物語。
王様がおさめるその国は、王様の統治下になってから、勢力をみるみる拡大させてきたといいます。
ですが、どの国にも問題というのはおこるものです。
私がその噂を聞いたのは、国へやってきてひと月ほどたった頃でしょうか。
その国の王様が、笑顔を見せなくなったというのです。
なるほど、王様というのは人を疑って生きねばならない、とても厳しい立場といえるでしょう。
考えてもみてください。
王様に好かれたい人はたくさんいるのです。そして、そんな人たちは王様の耳障りのよい事ばかりを言うのでしょう。
そんな意見ばかりを聞き入れていたらどうなりますか?
たとえば。
「王様。王様は世界一の王様です。王様の言うことを聞かない人間はいません。もしそんな人間がいたら死刑にしてしまいましょう」
そんな事を言う家来がいるでしょう。
それを真に受けた王様が、ある忠実な家来に、
「王様。隣の国はとても強い国なので、仲良くしておくといいでしょう。そのためには、隣の国の王様が嫌なことを言ったとしても、我慢しなくてはいけませんよ」
そう言われても、
「いや。わしは世界一の王様なのでその必要はない。隣の国が仲良くしたいというなら、考えてやらんこともないが、隣の国の王様の言うことを我慢しなくてはならないなど、とんでもないことだ」
そう言って、戦争ばかりしていたらどうなるでしょう。
きっと、他の国の王様たちは、
「あの国は戦争ばかりおこす危険な国だ。他の国と手を組んで、滅ぼしてしまおう。それにあの国の王様はとても嫌な奴だからなおのことだ」
そう言われて、あっという間に国が滅びてしまうことでしょう。
だから、王様は自分に厳しいことを言う家来でも、近くにおいておかなければならないのです。
それもただ厳しい事を言うだけではダメです。その意見がなるほどと、納得いくものでなくてはいけません。
そして王様はその判断を一人でしなければならないのです。
これは普通の人間の精神ではとても耐えきれない、辛い仕事なのです。
だから王様が笑わなくなったという話を聞いても、私は少しも不思議ではありませんでした。
人間は心が辛い状況に置かれ続けると、まず笑顔を失うものだからです。そうして、次に怒りっぽくなったり、涙もろくなったりします。最後には感情をまったく表に出さなくなり、ベッドで寝てばかりいるようになります。
本人もとても辛いものですが、周りの人たちもそれは辛いのです。
なんとか助けてあげたい。できることなら何でもしてあげたい。それは見ていて心苦しくなるような光景です。
私はそういう場面を何回か見かけたことがあったので、王様がそうならなければいいなあ、とひと事ながら心配していました。
私が王様のお城に呼ばれたのはそんなある日の事でした。