第22章
人は、この恐ろしい一撃がいったんユージンを思いとどまらせたと思っただろう。実際そうだった。これは彼を震撼させた。デイル夫人はコルファックスのところに行って、彼の影響力を使ってユージンをおとなしくさせるよう説得した。そしてそれだけのことをやってしまうと、さらに踏み込む心の準備が事実上できあがった。ユージンを貶めることができて、いかなる形であれスザンヌを巻き込まずに、彼の本性を知らしめることができる何かの陰謀を考えていた。ユージンに執拗に追いつめられ、苦しめられてきたので、今は彼女自身の態度が執拗になっていた。できることなら今すぐユージンに完全にいなくなってもらい、もうスザンヌには会わないでほしかった。まずはウィンフィールドのところに行って、それから今後の連絡を、少なくともスザンヌの行動か、あるいはユージンが現れる可能性を、阻止したいと願ってレノックスへ戻った。
デイル夫人はウィンフィールドを訪れたが、そこでは道徳や感情はあまり大きな問題にならなかった。ウィンフィールドは自分がこの件で行動を起こすように求められているとは感じなかった。彼はユージンの後見人でも、道徳の公的な取締役でもなかった。彼は堂々とこの問題全体を脇に放り投げた。しかし、ある意味ではこれを知って喜んだ。これでユージンより有利な立場になったからだ。彼は少しだけユージンをかわいそうだと思った……そう思わない人がいるだろうか? しかし〈ブルーシー社〉の再編成を考える上で、ユージンの利害がどうなるかという問題になると、それほど気の毒だとは感じなかった。その後しばらくして、ユージンが自分の持ち株を処分できないかと持ちかけてきたとき、ウィンフィールドにはその方法がわからなかった。この会社は実は経営状態がよくなかった。さらなる資金が投入されねばならなかった。すべての自己株式が速やかに処分されるか、組織が再編成されなければならなくなるだろう。この状況で約束できる最善のことは、ユージンの持ち株は、新しい経営陣による新規発行株のわずかな価値と交換されるかもしれないという程度だった。だから、これにかけた自分の夢の終わりがはっきりと迫っているのがユージンには見えた。
デイル夫人が何をしたかがわかったとき、この状況をスザンヌに明確に伝える必要があることもわかった。すべてのことが彼を急停止させた。ユージンは、自分はどうなるのだろうと思い始めた。二万五千ドルの年収は断たれた。外部に影響されない財産をブルーシーで築く見込みは潰えた。現金がないため昔の生活はできなくなった。果たしてお金なしで社交界を渡り歩ける人がいるだろうか? 彼は、自分が完全に社会的にも商業的にも消滅する危険に陥っていることを知った。万が一、彼とスザンヌの道徳に関わる関係と、アンジェラに対する彼の非情な態度に関する議論が持ち上がって、例えばもしホワイトがそれを聞きつけたら、彼はどうなるだろう? ホワイトはこの事実を方々に広めるだろう。これは町の噂に、少なくとも出版界では噂になるだろう。市内の出版社はこぞって彼を締め出すだろう。ユージンはコルファックスが口外するとは思わなかった。ユージンは、結局デイル夫人はウィンフィールドには話さなかったのだと想像した。しかし、もし彼女が話していたら、どこまで広がっただろう? ホワイトはコルファックスを通じてこの話を聞くだろうか? 知ったら秘密にしておくだろうか? 絶対にしない! 自分のやっていたことの愚かさが、彼にもぼんやりわかり始めた。彼がしてきたことは何だったのだろう? 強い麻薬で深い眠りに投げ込まれ、自分はどこにいるのだろうとぼんやり考えながら今ゆっくりと目が覚めてきた人のように感じた。彼はニューヨークにいた。職はなく、現金は少ししかなかった……おそらく全部で五、六千ドルだった。スザンヌの愛は手に入れたが、母親がまだ彼と戦っていた。そして彼は離婚しないままアンジェラを手元に置いていた。これからこれだけのことをどうやって整理すればいいのだろう? どうすれば彼女のところに戻ることを考えられるのだろう? 無理だ!
ユージンは座って、スザンヌに次のような手紙を書いた。彼女に状況がどうなっているかを説明し、もし彼女が望むのであれば、撤回のチャンスを与えようと思った。今はそれだけでもしなければならないと思った。
「フラワーフェイスへ
今朝、コルファックス社長と話をしました。僕が恐れていたことが起こってしまいました。あなたのお母さんは、あなたが考えたようにボストンに行く代わりに、ニューヨークに来て、社長と、おそらくは私の友人のウィンフィールドに会いました。お母さんはその方面で僕に何かのダメージを与えることはできません。というのは、その会社と僕との関係は、給料とかどんな形であれ固定収入に依存していないからです。ですがお母さんはここで僕に計り知れないダメージを与えました。率直に言うと僕は失業しました。お母さんと無関係な別の圧力がなかったら、こうなってはいなかっただろうと思います。しかし、お母さんの非難と告発は、他の何者かのここでの対立に便乗して、お母さんが単独ではなし得なかったことをやってのけたのです。フラワーフェイス、これが何を意味するかわかりますか? 以前あなたに話しましたが、僕は余っていた現金をすべて〈ブルーシー〉につぎ込んでしまいました。それが大きくなることを期待したのです。そうなるかもしれないのですが、ここで給料が断たれれば、すぐに次の雇用契約を結べない限り、僕に大きな変化が訪れます。おそらくリバーサイド・ドライブのアパートと自動車は手放さなければなりません。他にもいざという時に備えて出費を切り詰めなくてはなりません。これは、もしあなたが僕のところに来るなら、僕が何か他のことを見つける決断をして実現できない限り、僕たちは僕が芸術家として稼げる収入で生計を立てなくてはならないことを意味します。あなたを探しにカナダに向かったとき、僕の頭にはこの考えがありました。しかし実際にこういうことになってしまった以上、あなたは違うことを考えるかもしれません。〈ブルーシー〉への投資に何も起きなければ、いつかそれがひとかどの財産になるかもしれません。僕にはわかりませんが、これはずっと先の話です。そして、それまではこれだけしかありません。それにあなたのお母さんが僕の評判を落とすために他にどんなことをしてくるかわかりません。お母さんはかなりむごたらしいことを考えているようです。あなたはお母さんがロッジでどんなことを言ったか聞きましたね。明らかにお母さんはあれを完全に反故にしました。
フラワーフェイス、状況がどうなっているのかあなたにもわかるように、僕はすべてをあなたの前に開示します。あなたが僕のところに来れば、落ちた評判に直面するかもしれません。ユナイテッド・マガジンズ社の統括出版部部長ユージン・ウィトラと芸術家ユージン・ウィトラとの間には大きな差があることを理解しなくてはいけません。僕はあなたを愛するあまり、とても無謀で傲慢でした。あなたがとても愛おしかったからです……あなたは僕がこれまでに知り得た最も完璧な存在でした。僕はすべてを愛の祭壇に捧げました。改めて捧げます、喜んで……千回でも。あなたが現れるまで、僕の人生は暗澹たるものでした。自分が生きているとは思いましたが、心の中では、それが埃まみれの殻……まやかしだとわかっていました。そのとき、あなたが現れました。ああ、何と僕は生きていたんです! 美しい空想に明け暮れました。ホワイトウッド、ブルーシー、ブライアクリフ、サウスビーチでのあのすばらしい最初の日をこの先忘れることがあるでしょうか? かわいいお嬢さん、僕たちの道は完璧と安寧の道でした。これはやるとなるとかなり無理があったのですが、自分のためだったので、僕は後悔していません。僕はすばらしく甘い完璧な夢を見ていたのです。あなたがすべてのことを知って、状況を理解し、僕が今お願いしているように立ち止まって考えたら、あなたは後悔して考えを改めたくなるかもしれません。もしそう感じるなら、ためらわずにそうしてください。あなたがお母さんに話すずっと前に、時間をかけて冷静に考えるよう、僕があなたに言ったことを覚えてますね。僕たちが計画していたこれは、大胆で奇抜なことなんです。僕たちが見るのと同じように、世間がこれを見ることを、期待できないことなんです。トラブルがその後に続くことが十分に予想されます。ですが僕にはこれがやれそうに思えました。今でもそう思えます。もしあなたが僕のところに来たければ、そう言ってください。僕に来てほしければ、その言葉を言ってください。イギリスかイタリアに行きましょう。僕はまた絵を描くことにします。僕はそれができると信じています。あるいは、ここにとどまって、何か就職口がないか、さがしても構いません。
でも、あなたのお母さんがまだ戦いを終えていないかもしれないことを覚えておいてください。お母さんはこれまでよりももっと大きなことをやるかもしれません。あなたはお母さんを自分の意のままにできると思っていましたが、そうではないようです。僕たちはカナダで勝ったと思いましたが、どうやら違うようです。もしお母さんが、あなたのお父さんの遺産の取り分をあなたが使えないようにすれば、あなたを困らせることができるかもしれません。あなたを閉じ込めようとすれば、できるかもしれません。僕があなたと話せればいいのですが。レノックスであなたに会うことはできませんか? 来週には帰ってきますか? やるのであれば、今度は考えて、計画を立てて、行動するべきです。でも、もし迷っているなら、僕に気を遣ってあなたがやりたいことを妨げないでください。今は状況が違っていることを忘れないでください。あなたの未来全体があなたの決断にかかっています。おそらく僕はもっと前にこうやって話しておくべきでした。でも、まさかあなたのお母さんが、見事にやってのけたことをやれる人だとは思いませんでした。僕は自分の経済状況がこれに関係するとは思わなかったのです。
フラワーフェイス、今日は僕にとって本当の試練の日です。僕は不幸です。でもそれはあなたを失うかもしれないからです。他のことはすべてまったく重要ではありません。僕の境遇がどうなっても、あなたがいれば、すべては完璧になり、あなたがいなければ、夜と同じ真っ暗闇になるでしょう。決定権はあなたの手の中にあります。あなたが行動しなければなりません。あなたがどんな決定を下そうと僕はそれに従います。さっきも言いましたが、僕への気遣いを判断過程に立ち入らせないでください。あなたは若いのです。あなたの前には上流階級の生活が待っています。所詮、僕はあなたの二倍の年齢です。こうして僕が正直に話すのは、もし今あなたが僕のところに来たらどうなるのかをあなたにはっきりと理解してほしいからです。
ああ、あなたが本当に理解しているのか、僕は時々わからなくなります。僕は夢の夢でも見ていたのだろうかと思ってしまいます。あなたはとても美しい。あなたは僕にそういうものを啓示してくれました。あれは獲物をおびき寄せるおとりか、鬼火だったのか? 僕にはわからない。わからないのです。それでも僕はあなたを愛してる、愛してる、愛しています。千のキスをおくります、神聖な炎のあなたに。そして、僕はあなたの言葉を待っています。
ユージン」
スザンヌはレノックスでこの手紙を読み、生まれて初めて真剣に考え始めた。自分はずっと何をしていたのだろう? ユージンは何をしているのだろう? この結末はスザンヌを怯えさせた。彼女の母親は彼女が想像した以上に目的意識が強かった。まさか、母親がコルファックスのところへ行くとは……嘘をついて態度をころころ変えるとは。スザンヌは自分の母親がこんなことをすると考えたことはなかった。ユージンが失業するかもしれないと考えたことはなかった。スザンヌにはユージンがいつもとても力強そうに見えた。何でも自分の思い通りにしてしまう人に見えた。以前、二人で一緒にドライブに出かけたときに、ユージンがどうして僕のことが好きなのかと尋ねると、スザンヌは「あなたは天才で何でも好きなことができるからよ」と言った。
「いや」ユージンは答えた。「そんなことはないさ。大したことは本当に何もできないんだ。きみは僕を買いかぶっているだけだよ」
「まあ、私は買いかぶってなんかいないわ」スザンヌは答えた。「あなたは絵が描けるし、文章も書けるわ」……スザンヌは、〈ブルーシー〉の小冊子や、彼女自身を詠んた詩や、ユージンが一度アパートで見せてくれたスクラップブックにあった、シカゴの新聞社時代に書いた記事の切り抜きから判断していた。「それにああいう会社だって経営できるし、広告部の部長さんでアートディレクターだったんでしょ」
彼女は顔を上げて、称賛しながらユージンの目をのぞき込んだ。
「僕の経歴をよく知ってるね!」ユージンは答えた。「神は滅ぼそうとする者をまず狂わせるんだ」ユージンはスザンヌにキスをした。
「そしてあなたはとても美しく愛してくれるわ」スザンヌは最高に盛り上げようとして付け加えた。
それ以来、スザンヌはこのことをたびたび考えた。しかし今、どういうわけか、ひどいぶり返しがあった。ユージンはそれほど強くなかったのだ。彼は母親の行動を阻止できなかった。では彼女なら母親をちゃんと抑えられただろうか? スザンヌが母親の策略をどう思おうが、母親はこれを阻止するために手段を選ばなかった。彼女は完全に間違っていたのだろうか? どういうわけか期待していたことが起こらなかったセント・ジェイクスでのあの決定的な夜からずっとスザンヌは考えていた。彼女は本当に家を出てユージンと一緒に行きたかったのだろうか? 彼女は財産を巡って母親と争いたかったのだろうか? 彼女はこうしなければいけなかったのかもしれない。スザンヌの最初の考えは、彼女とユージンはどこかのすてきなアトリエで会うことにして、彼女は自分の生活を続け、ユージンはユージンの生活を続けるというものだった。貧乏だとか、自動車がないとか、家から遠く離れるというこの話は、随分違う話だった。それでも彼女は彼を愛していた。もしかしたら、まだ母親に条件を突きつけることができるかもしれない。
その後も二、三日、さらに争いは続いた。そのときにマルクヮルト信託会社の財産管理人ハーバート・ピトケアン氏と再びドクター・ウーリーがスザンヌと話し合うために呼ばれた。スザンヌは決心がつけられないまま、一年待ってそれでもなお本当に彼をほしいと言うなら、彼を自分のものにすればいいという母親の狡猾な訴えを聞いた。それからピトケアン氏が、どの裁判所も申請があり次第彼女を無能力者と認定して財産を凍結すると思う、と母親に話すのを聞いた。さらにドクター・ウーリーが彼女の目の前で母親に、精神異常にしてしまうことが望ましいとは思わないが、この罪深い成婚を阻止するためであれば、母親が主張すれば裁判官は間違いなく彼女の精神異常を認定するだろう、と言うのを聞いた。スザンヌは怖くなった。ユージンの手紙が届いてから、彼女の鋼の神経は弱くなっていた。母親にはひどく腹が立ったが、この時初めて、友だちはどう思うだろうと考えるようになった。もしも母親が自分を閉じ込めたら。友だちは自分がどこにいると思うだろう? 自分の母親を疲弊させてしまったこの緊張の日々が続いた数週間は、彼女自身の強さというか神経に、かなり影響を及ぼしていた。これはあまりにも強烈だった。ユージンが提案したとおりにして少し様子を見た方がいいのではないかと彼女は思い始めた。もし彼女がそうしたければ待つ、とユージンはセント・ジェイクスで同意していた。唯一の条件は、二人が時々会うことだった。今また母親は方向転換して、危険な悪影響がある、自分が本当にそうしたいのかを確かめるために、少なくとも一年は以前のような生活を邪魔されずに送るべきだ、と訴えた。
「どうしてあなたにわかるのよ?」スザンヌが話したがらないのにデイル夫人は強く言った。「あなたはこれに心を奪われてしまい、考える時間をとってこなかったでしょ。一年くらいどうってことないわ。それがあなたや彼にどんな害を及ぼすのよ?」
「でも、お母さん」スザンヌはその都度何度も尋ねた。「どうしてお母さんはコルファックスさんに言いに行ったのよ? 何て意地の悪い残酷なことをしたのかしら!」
「彼をいったん立ち止まらせて考えさせるには、そういうことが必要だと思ったからよ。飢えることはないわよ。才能がある人なんだから。彼を正気に戻すためにはそういうことが必要なのよ。コルファックスさんだって解雇はしていないわ。解雇はしないって言ったもの。一年休みをとらせて考えさせるって言ってわ。だから言ったとおりになっただけでしょ。そんなことじゃ彼は傷つかないわ。それで傷ついたって私は構わないけど。彼が私を苦しめたやり方を見てみなさい」
デイル夫人はユージンに対して極端に敵意を感じていて、ようやく自分の番が回ってきたことを喜んでいた。
「お母さん」スザンヌは言った。「私はこれを絶対に許さないわよ。お母さんはひどいことをしているわ……私は待ちます、でもね、どうせ結果は同じことになるわよ。私は彼を手に入れますからね」
「一年後ならあなたが何をしようと構わないわ」デイル夫人は明るくさりげなく言った。「そのくらい待って、自分に考える時間を与えて、それでも彼と結婚したければ、そうすればいいでしょ。いずれにせよ、向こうだっておそらくその間に離婚できるでしょう」デイル夫人が言っていたことは本心ではなかったが、もし問題を先延ばしにできるのなら、この際どんな議論でも良しとした。
「でも私は彼と結婚したいのかわからないわ」スザンヌは自分の最初の考えに戻りながら性懲りもなく言い張った。「それは私の意見じゃないのよ」
「まあ、とにかく」デイル夫人は愛想よく答えた。「一年もすれば、そういうことについてはどう考えるべきなのか、もっとよくわかってくるわよ。あなたに強制したくはないんだけど、私は手を差し伸べもせず、立ち止まってよく考えさせもせずに、こんなふうにうちの家庭や幸せを壊させるつもりはないわ。あなただってそのくらいのことを私にしてくれてもいいでしょ……長年ずっとあなたの面倒を見てきたんだから、私に多少の気遣いを見せてほしいわ。一年待ったってあなたの害にはならないわ。彼の害にもなりません。その頃には、彼が本当にあなたを愛しているかどうか、あなたにもわかるわよ。これはただの一時的な気まぐれかもしれないわ。彼にはあなたの前にも他の女がいたんだから。あなたの後にだって他の女ができるかもしれないわ。奥さんのところに戻るかもしれないし。彼があなたに何を言おうが関係ないのよ。向こうの家庭と私の家庭を壊す前に、あなたは彼をテストすべきだわ。もし彼が本当にあなたを愛していれば、すぐに同意するわよ。お母さんのために、こうしておくれよ、スザンヌ、そしたらもうお母さんは決してあなたの邪魔はしないから。一年待ってくれれば、あなたは何でも自分の好きにしていいからさ。妻として行かないのなら彼のところには行かないでほしいと願うしかないけど、あなたが言い張るなら、出来るだけ穏便に事を済ませるわ。彼に手紙を書いて、一年待つことに決めたことを伝えなさい。もう彼に会う必要はないでしょ。そんなことをしたってまた新たに事を荒立てるだけだもの。彼には会わずに手紙を書くだけにすれば、その方が彼のためになるのよ。あなたがもう一回彼に会って、もう一回すべてを蒸し返せば、向こうはそれほどひどいと感じなくなるんだから」
デイル夫人はユージンの影響力をひどく恐れていたが、こればかりは果たせなかった。
「そうはいかないわ」スザンヌは言った。「そんなことをするつもりはありません。私はニューヨークに帰ります。この話はこれでお終い!」デイル夫人は最終的にそこまで譲歩した。そうしなければならなかった。
三日後に、手紙のすべてに答えることはできないが、ニューヨークに帰るから会いましょう、という手紙がスザンヌから届いた。その後、デイルビューで母親立会いのもとで、スザンヌとユージンは会った……ドクター・ウーリーとピトケアン氏はその時、邸内の別の場所にいた……そこで新たに提案が検討された。
デイル夫人の要求が自分の前に提示されてから、ユージンはこれまでになく陰鬱で、それでいて一段と熱い心の状態で車を走らせた……陰鬱は、重くのしかかる悪い予感と彼自身の暗い財政状況のせいだった……一方で別の瞬間には、スザンヌが何かすばらしい必死の抵抗をしてくれる、彼に駆け寄り、すべてに反抗し、激しく確信的に自分の立場を表明し、彼と共に勝者になってくれると考えることで、元気づけられることもあった。スザンヌの愛情に対するユージンの信頼は依然として絶大だった。
その夜は、鋼色の空をした寒い十月の夜で、霜の先触れの三日月が西に新たに見え、尖った星々がびっしり頭上を覆っていた。スタテン島のフェリーボート上で自分の車に座っている間に、南下するカモの長い行列が葦の生い茂る沼地に帰っていくのが見えた。これはブライアントが『水鳥に』を描いたときに、頭にあったものだ。カモは飛びながら鳴いていた。そのかすかな「クワッ」という鳴き声がどこからともなく戻ってきて、ユージンに絶望的孤独と寂しさを感じさせた。十月の木々を通り過ぎてデイルビューに到着し、立派な応接間に入った。そこには火が燃えていた。春に一度、スザンヌとダンスを踊った場所だった。心臓が跳ね上がった。彼女に会うことになっていたからだ。ただ彼女を見るだけのことが、彼の熱を帯びた体にとっては強壮剤だった……喉がかわいた人にとっての冷たい飲み物だった。
ユージンが来るとデイル夫人は彼を睨みつけたが、スザンヌは抱擁で歓迎した。スザンヌは少しの間ぎゅっと抱きしめて、呼吸を乱しながら「ああ!」と叫んだ。しばらくの間、完全な沈黙があった。
「お母さんが言うのよ、ユージン」スザンヌはしばらくしてから言った。「私たちは一年待つべきだって。それに、こうやって大騒ぎになるんだから、もしかしたら、その方がいいかもしれないって私は思うの。私たちは少し急ぎ過ぎたかもしれないって思わない? お母さんがコルファックスさんのところへ行ったことを私がどう思ってるかを言ったんだけど、お母さんったら気にしてないみたいのよ。今度は私を精神異常と認定してもらうって脅かしているわ。私はどうせあなたのところに行くんだから、一年待つくらいあなたはどうってことはないでしょ? でも、これについてあなたに尋ねるには、私が直接これをあなたに話すべきだと思ったの」……スザンヌは話すのをやめて彼の目をのぞきこんだ。
「この件はすべてセント・ジェイクスで話がついたと思ったんですが」ユージンはデイル夫人の方を向きながら言ったが、沈み込むような恐怖の感覚を経験していた。
「そうね、娘に会わないこと以外はすべて話がついたわね。あなたがた二人が一緒にいることは、到底勧められないことだと思うわ。現状ではあり得ないわね。世間の噂になるわ。奥さんの状態は調整されなきゃならないでしょ。あなただって奥さんや生まれてくる子供がいるのに、浮気なんかしていられないでしょ。私はスザンヌに、落ち着いてすべてをじっくり考えられる場所に一年間行ってもらいたいのよ。あなたからもあの娘に勧めてほしいわ。それでもなお、あの娘があなたを必要だと言い張って、結婚に関する状況の理屈に耳を貸そうとしないのであれば、そのときはこのすべてから私は手を引くつもりよ。スザンヌは相続権を手に入れるかもしれないわ。もしあなたのことがほしければ、あなたを手に入れるかもしれないわ。そのときまでにあなたが正気に戻っていたら、私はそう願いたいですけど、あなたは離婚するなり、奥さんのところに戻るなり、賢明なやり方で何なりとやってください」
デイル夫人はここでユージンを怒らせたくはなかったが、とても辛辣だった。
ユージンは眉をひそめただけだった。
「スザンヌ、これはきみの決断でもあるのかい?」彼はうんざりした様子で尋ねた。
「お母さんはひどいと思うわ、ユージン」スザンヌははぐらかすように答えた。あるいは母親への返事のつもりだったのかもしれない。「あなたと私は人生の計画を立ててきたわ。二人でやり遂げるつもりでね。今考えると、私たちは少し自分勝手だったのよ。それでこの騒ぎがすべて収まるのなら、私は一年待つくらい何の問題もないと思うわ。あなたが待てるなら、私だって待てるから」
これを聞いて言いようのない絶望感がユージンを襲った。悲しみがあまりにも深くて言葉が出なかった。自分にこれを言っているのが本当にスザンヌだとは信じられなかった。一年待ちたい! 待つつもりはないとあんなに反抗的に宣言していたのに。そんなのどうってことない? まさか、人生と、運命と、彼女の母親が、結局こんな形で彼を打ち負かしているなんて。では、最近よく見かけた黒髭の男にはどんな意味があったのだろう? どうして蹄鉄を見つけていたのだろう? 運命とはこういう嘘なのだろうか? 人生は、暗く得体の知れない空間に、人を誘う疑似餌や罠を仕掛けるのだろうか? 彼の職はなくなり、彼のブルーシーへの投資は期限の定かではない延滞に巻き込まれて何の利益も生まないかもしれず、スザンヌは丸一年、おそらくは永遠にいなくなるのが確実だった。丸一年、彼女をひとりにしておいて、母親が彼女にできないこととは何だろう? アンジェラは疎遠になり……子供が生まれようとしていた。何という盛り上がり方だろう!
「これは本当にきみの決断なのかい、スザンヌ?」ユージンは悲しそうに尋ねた。悲哀の霧が彼全体を覆っていた。
「私はそうすべきだと思うのよ、ユージン」スザンヌは依然としてはぐらかすように答えた。「これはとてもつらいわ。でも、私はあなたに誠実でいます。私は変わらないってあなたに約束します。私たちなら一年待てるって思わない? 待てるわよね?」
「丸一年、きみに会わないのにかい、スザンヌ?」
「ええ、そんなのあっという間よ、ユージン」
「丸一年がかい?」
「そうよ、ユージン」
「もう何も言うことはありません、デイルさん」厳かに母親の方を向きながら彼は言った。その瞬間に、物憂げで陰鬱な光を目に宿し、スザンヌに対しては心を鬼にした。まさか、彼女が彼をこんなふうに扱うなんて……彼の言葉で言うなら、彼を投げ捨てるなんて。まあ、人生はそういうものだ。「あなたの勝ちです」ユージンは付け加えた。「これは私にとって恐ろしい経験でした。恐ろしい情熱でした。私はお嬢さんを愛しています。心の底から愛しているんです。彼女はわかっていないのかもしれない、と時々漠然と疑うことはありましたが」
ユージンはスザンヌの方を向いた。彼は初めて、ずっとそこにあると思っていた本当の理解がそこに見えないと思った。運命はここでも彼に嘘をつき続けていたのだろうか? 彼はこれを勘違いして、美の幻の誘惑を追いかけていたのだろうか? スザンヌは彼を昔の何も持っていない状態に引きずり下ろすためのもうひとつの罠に過ぎなかったのだろうか? 神さま! 七、八年後に挫折の第二期を迎えるという占星術師の予言がよみがえった。
「ああ、スザンヌ!」ユージンは単純に、無意識に、大げさに言った。「きみは本当に僕のことを愛しているのかい?」
「ええ、ユージン」スザンヌは答えた。
「本当に?」
「はい」
ユージンが両腕を広げるとスザンヌはやって来たが、彼はどうしてもこの恐ろしい疑念を払拭できなかった。これは彼のキスから喜びを奪った……まるで夢のように完璧な何かを抱きしめた夢を見ていて、目を覚ますとそこに何もなかったことに気づいたかのようだった……まるで人生が彼を裏切るために少女の形をしたユダを送り込んだかのようだった。
「もう終わりにしましょうよ、ウィトラさん」デイル夫人は冷たく言った。「引き延ばしたって得るものは何もないわ。一年間休んで、それから話しましょう」
「ああ、スザンヌ」ユージンは弔いの鐘のように悲しそうに続けた。「ドアまで一緒に行こう」
「だめです、使用人がいるんですから」デイル夫人は口を挟んだ。「別れの挨拶ならここでしてください」
「お母さん」スザンヌはその哀れさに動かされて、怒って食ってかかった。「そんなこと言わせないわよ。部屋から出てって、さもないと私が彼とドアどころかその先まで行くことになるわ。私たちだけにしてよ、お願いだから」
デイル夫人は出て行った。
「ああ、フラワーフェイス」ユージンは泣き言を言った。「僕には信じられない。信じられないよ。信じられないんだ! やり方を間違えてしまった。僕はずっと前にきみを連れて行くべきだったんだ。だから、こんな終わり方をすることになったんだ。一年、丸一年だ、そしてあとどれくらいのびるんだい?」
「たった一年でしょ」スザンヌは言った。「たったの一年よ、私を信じて、信じられないの? 私は変わらないわよ、絶対にね!」
ユージンが首を振ると、スザンヌは以前と同じように彼の顔を両手で受け止めた。彼の頬と唇と髪にキスをした。
「私を信じて、ユージン。私が冷たく見えるかしら。私がどんな思いをしてきたか、あなたは知らないからよ。どこを向いてもトラブルしかないんですもの。一年待ちましょうよ。あなたのところに行くって約束するわ。誓うから。一年よ。私たち一年くらい待てない?」
「一年か」ユージンは言った。「一年だろ。僕にはそんなの信じられないな。一年後、僕たちはみんなどうなっているだろうね? ああ、フラワーフェイス、咲き誇るギンバイカ、神聖な炎。こんなことには耐えられない。僕には耐えられない。ひどすぎるよ。僕は今こうしてツケを払っているんだ。そう、自業自得なんだ」
ユージンはスザンヌの顔に手をあて、その柔らかく魅力的な特徴のすべてを、目を、唇を、頬を、髪を見た。
「僕は思ったんだけどな、思ったんだけどな」ユージンはつぶやいた。
スザンヌはただ両手で彼の後頭部を撫でた。
「でも、そうしなければならないなら、そうしなければならないね」ユージンは言った。
ユージンは背を向け、スザンヌを抱きしめようと振り返り、また背を向けて、次は振り返らずに廊下に出て行った。デイル夫人がそこで待ち構えていた。
「おやすみなさい、デイルさん」ユージンは辛気臭く言った。
「おやすみなさい、ウィトラさん」デイル夫人は冷ややかに答えたが、彼女の勝利には悲劇的な何かを感じるものがあった。
ユージンは帽子をとって外に出た。
外では明るい十月の星々が何百万と見えた。ニューヨークの港湾はすばらしく照らされていた。フォート・ウォズウァースで夕方を過ごした後、ポーチにいる彼のところにスザンヌが来たあの夜のようだった。彼は、春の匂い、若さと愛のすばらしい感覚……あのときに芽生えていた希望を思い出した。今は、あれから五、六か月が経っていた。そして、あのすべてのロマンスは消えてしまった。スザンヌ、甘い声、完成されたスタイル、軽快なささやき、繊細な感触。それがなくなってしまった。すべてがなくなってしまった……
「花とそのすべてのつぼみの魅力は消えた、
その美しい姿は私の目から消えた、
その美しい形は私の腕から消えた、
声、ぬくもり、白さ、楽園は消えた」
一緒にドライブし、一緒に食事をとり、車のそばの静かな場所を歩いたあの輝かしい日々は終わった。ここから少し離れた場所で、彼は初めてスザンヌとテニスをしたのだ。ここから少し離れた場所に頻繁に通ってこっそりスザンヌと会ったのだ。もう彼女はいない……いなくなってしまった。
ユージンは車で来ていた。しかし本当はそんなものはほしくなかった。人生は呪われていた。彼の人生は失敗だった。まさか、彼のすてきな夢がすべてこんな形で壊れてしまうとは。まもなく彼は、車も、リバーサイド・ドライブの家も、職も、何もかも、失うのだ。
「ああ、僕はこんなことには耐えられない!」ユージンは叫んだ。そして少しして……「神さま、僕には耐えられない! 耐えられません!」
バッテリーで車を降ろし、運転手にガレージに運ぶように告げて、ロウワー・ニューヨークの暗い高層街を憂鬱そうに歩いた。ここは彼がコルファックスやウィンフィールドと一緒によく来たブロードウェーだった。ここは、ユージンが輝きたいと漠然と願っていたウォール街周辺の偉大な金融の世界だった。もうこういうビルは敷居が高く、何も言ってくれなかった……ある意味では彼から遠ざかっていた。頭上にはあざやかな明るい星々があって、涼しげで、さわやかだったが、今の彼には意味がなかった。彼はこの決着をどうつけることになるのだろう? どう調整することになるのだろう? 一年だぞ! 彼女は絶対に戻ってこない……絶対にだ! すべてがなくなった。明るい雲は消えた。蜃気楼は消えて元の何もない状態になった。地位、名誉、愛、家庭……はどうなるのだろう? もう少しすれば、これらはすべて最初からなかったも同然になるだろう。畜生! 忌々しい! 彼を滅ぼすために、こういう企てができる気味の悪い運命に呪いあれ!
スザンヌはデイルビューの自室に戻って閉じこもった。彼女はこれの悲劇性を強く感じずにはいられなかった。床を見つめて、彼の顔を思い返した。
「ああ、ああ」スザンヌは言った。生まれて初めて、大きな心の痛みのせいで泣ける気がした……しかし泣けなかった。
そして、リバーサイド・ドライブでは別の女性が自分に降りかかった悲劇の本質をめぐって、孤独に、悄然と、絶望して、思い悩んでいた。この事態はどのように調整されるのだろう? 彼女はどのように救われるのだろう? ああ! ああ! 彼女の人生、彼女の子供は! わかってくれるように、ユージンが作り替えられればいいのに! 目を向けるように、作り替えられるだけでもいいのに!




