第16章
この闘いの中でデイル夫人がとった次の一手はキンロイに話すことだった。当然、キンロイは少年のような騎士道精神に駆られて、直ちにユージンを殺しに行きたがった。これはデイル夫人のおかげで未然に防がれた。スザンヌをコントロールする以上にキンロイをコントロールしていた夫人は、どれほど恐ろしい破壊的なスキャンダルが起こるかを指摘し、巧妙な立ち回りと忍耐とを説いた。キンロイは姉妹に、特にスザンヌとアデールに心から愛情を抱いていて、二人を守りたいと思っていた。彼は大げさで過剰な騎士道精神から、自分が母親の計画を手伝わなくてはならないと決意した。そして二人は一緒に、いつか夜スザンヌをクロロホルムで眠らせて、病気の少女を搬送するように、自家用車でメイン州かアディロンダック山地かカナダに運ぶことを話し合った。
このすべての戦略的な細かい段取りを順番にたどっても仕方がない。スザンヌの同意を得られていた五日が過ぎると、ユージンから電話がかかってくるようになったが、これらは今、私立探偵の役割を果たしているキンロイに阻まれた。スザンヌは、話し合うためにユージンに家まで来てもらうことに決めたが、これには母親が反対した。これ以上会わせても二人の結束を強めるだけだと感じたからだ。キンロイはユージンに、自分はすべて知っている、もしここに近づこうとすればその場で殺す、と自分で手紙を書いた。スザンヌは自分が母親に行動を妨げられ軟禁されていることに気がついてユージンに手紙を書いた。これをメイドのエリザベスが彼女の代わりにこっそり投函して、状況かどうなっているかをユージンに知らせた。母親はドクター・ウーリーとキンロイに打ち明けてしまった。スザンヌは、二人の交際が穏やかに承認されない限り、九月十五日に家を出ることを決心していた。キンロイはスザンヌにユージンを殺すと脅迫した。しかし彼女は彼が恐れる必要があるとは考えなかった。キンロイはただ興奮しているだけだった。母親は、スザンヌに六か月ヨーロッパに行ってよく考えてほしいと頼んだが、彼女は応じなかった。スザンヌは街を離れるつもりはなかった。たとえ数日音沙汰なしでも、彼女に何か異変があったと彼が心配する必要はなかった。嵐が少しおさまるまで、二人は待たなければならなかった。「私はここにいます。でも、今は私に会おうとしない方がいいかもしれません。その時が来れば、私はあなたのところに行きます。もし機会があれば、その前に会いましょう」
ユージンは事態の展開に胸を痛めて驚いたが、それでも、これ全体に立ち向かうスザンヌの態度に励まされて最善の展開に希望をつないだ。スザンヌの勇気はユージンの力になった。スザンヌは冷静で、ちゃんと目標に向かっていた! 彼女はまさに宝物だった!
スザンヌがやめるように言うまで、数日に渡って毎日ラブレターが届くようになった。スザンヌ対母親とキンロイの図式で絶えず口論があった。彼女は明らかに劣勢に立たされていたので、辛辣で強硬になり始めた。主にスザンヌから始まったが、娘と母親の間で短い反駁的な言葉の応酬があった。
「いや、いや、いやよ!」とスザンヌは絶えず繰り返し主張した。「そんなことするもんですか! それが何よ? 馬鹿馬鹿しい! 放っといてってば! 話は終わり!」と続いた。
デイル夫人は時間さえあれば娘の連れ出し方を考えていた。夫人の念頭にあったようなクロロホルムを使って密かに運び出す方法は、そう簡単にできることではなかった。スザンヌにそんなことをするのは危険だった。その影響で娘が死ぬかもしれないと不安だった。薬は医者なしでは投与できなかった。使用人たちはこれを変に思うだろう。すでに疑念がささやかれている気がした。最終的にデイル夫人は、スザンヌに同意するふりをして、すべての障害を取り除き、娘の後見人、言い換えるなら娘の父親の故ウェストフィールド・デイルの遺産の娘の持ち分を信託しているマーカート信託会社の法定代理人と娘が所有するニューヨーク西部の不動産について相談するために、アルバニーに行こうと頼むことを思いついた。デイル夫人はスザンヌに、母親の私有財産の持ち分放棄の承諾書に署名してもらうために、アルバニーに行かざるを得ないふりをすることに決めた。そののち、遺言でもスザンヌを相続人から除外し、彼女に自由を与えるものと推察された。この計画でいくと、スザンヌはニューヨークへ戻って自分の道を歩み、母親はもうスザンヌには会わないことになっていた。
これを一層効果的にするためにキンロイが遣わされて母親の計画を話し、スザンヌと家族のためにも今生の別れが来ることのないよう頼み込んだ。デイル夫人は態度を変えた。キンロイが自分の役割をとても効果的に演じたので、これが母親のあきらめた表情と冷淡な話し方と合わさって、スザンヌはある程度だまされた。母親が完全に心変わりしてしまい、キンロイが言ったことをやる気かもしれない、とスザンヌは思った。
「いやよ」スザンヌはキンロイの頼みに返答した。「お母さんが私と縁を切ろうが切るまいが私は気にしないわ。喜んで書類にサインするわよ。もしお母さんが私に出ていってほしいのなら出ていくわ。私はこの件に関してお母さんはずっととても愚かな行動をとってきたと思うわ。あなたもね」
「お母さんにそんなことをさせないでほしいんだ」このエサがうまく飲み込まれたことにかなり気を良くして、キンロイは言った。「お母さんは失意のどん底にいるんだよ。お母さんは、姉さんがここにいて、事を起こすまで半年か一年待ってほしがっている。でも、姉さんが応じないなら、お母さんはこんな要求をするつもりなんだ。僕はやめるようにお母さんを説得してみた。姉さんが出て行くのを見るなんて、とにかくご免だからね。考えを変えてくれないかな?」
「変えないって言ったでしょ、キンロイ。私に頼まないでよ」
キンロイは母親のところに戻って、スザンヌは相変わらず頑固だが、この策は多分成功する、と報告した。スザンヌはアルバニーに行くと思いながら列車に乗ることになる。いったん乗り込んでしまえば、閉ざされた車内で、彼女は翌朝までほとんど疑わないだろう。そしてそのとき彼らはアディロンダック山地のはるか彼方にいるわけだった。
計画は部分的に成功した。母親はキンロイと同じように、この事前に打ち合わた場面を、まるで舞台に立ったようにうまく演じきった。スザンヌはすぐ間近に自由を見たと思った。荷物は旅行鞄ひとつだけだった。スザンヌは条件をひとつ出しただけで……ユージンに電話して説明するのを認めることで……進んで車と列車に乗り込んだ。キンロイも母親も反対したが、最後にスザンヌが電話をさせないなら行かないと断固拒否したので二人とも受け入れた。スザンヌは会社にいるユージンに電話をかけた……このときは四時で、出発は五時半だった。ユージンはすぐにこれを策略だと思い、そう告げたが、スザンヌはそう考えなかった。デイル夫人はこれまでスザンヌに嘘をついたことがなかった。弟もそうだった。彼らの言葉は約束と同じだった。
「ユージンがこれは罠だと言っているわ、お母さん」スザンヌは電話から、すぐそばいる母親の方に向き直りながら言った。「そうなの?」
「そうでないことはあなたがわかってるでしょ」母親はぬけぬけと嘘をついた。
「そうだとしても失敗に終わるわ」スザンヌは答えた。その言葉をユージンは耳にした。彼女の声の調子に力づけられてしぶしぶ承知した。確かにすばらしい女の子だった……男でも女でも自分のやり方で自由に操るのだから。
「きみが大丈夫だと思うのならそれでいいよ」ユージンは言った。「だけど僕は寂しくて仕方がないな。もうずっとそんな調子が続いている。きみに会えない限り募る一方だよ、フラワーフェイス。ああ、待ち遠しいなあ!」
「そんなの、ユージン」スザンヌは答えた。「ほんの数日のことよ。木曜日には戻るわ。そうすればあなたは私に会いに来られるのよ」
「木曜日の午後?」
「そうよ、私たちは木曜日の午前中に戻るから」
スザンヌはようやく受話器を置いた。一行は車に乗り、一時間後に列車に乗った。




