第6話 「眠らない旅人」
人類の争いと美少女が降ってこない世界に嫌気がさしたので、博士は異世界へ本気で旅立とうした。
元の世界に二度と帰ってこれないかもしれないので、一番、信頼できる海野少年に、自分が今まで収集した美少女ゲームやフィギュアや、そして人目をはばかる同人誌、今となってはこの男を構成する全ての勲章だった。
「幸村くん、もし、ワシが、10年経って戻ってこれなかったら、これらをネットオークションでまとめて出品してほしい・・・」
「そんな哀しいこと言わないでください!必ず帰って来てください!ケモミミ美少女がいたらもふもふした時の感想を聞かせてください!約束です。絶対生きて帰ってくると・・・」
少年は泣き崩れていた。
新学期の不安な時期や自分に友達ができなくて悩んでいたときもこの研究所にいる他愛もない時間に彼は救われていたのだから。
別れを惜しむ間も無く博士は装置を起動していた。
装置からは光輝く輪のようなものがでていた。
博士はそれをくぐっていた。
もう彼は別れも言わずに光の彼方へと消えていった。
これから異世界に辿り着けたとしても、彼に様々な困難や試練が立ちはだかるかもしれない。
もしかしたらもう二度と会えないかもしれない。
でも彼の眼から放つ光は必ず希望にめぐり会える事を確信している。
難易度Sクラスの美少女を攻略しているときに照り返す彼の眼鏡の輝きに似ていたから。
貴方ならきっと大丈夫と信じています。
寂しくなった部屋を見渡すと、机の引き出しに博士がおそらく学生時代の頃に描いたと思われるノートがあった。
どこかの世界に、眠らない旅人がいて、流れ星を見るたびに涙を流していた。
もう二度と空に帰れないと分かっているのに、彼らの輝きはとても美しかったから。
悠久の砂漠で出会った蠍に声をかけた。
彼は猛毒を持っていたが、1人でいることの方が寂しかった。
魔界の王の詩はとても優しかった。人間以上に人の脆さを知っているから。
10年経って戻ってこなかったら、これもネットオークションに出して良いのだろうか・・・