第2話「博士と野生の妹 後編」
「お友達と仲直りがしたいの!」
今にも泣きそだしそうな妹が、僕と博士の2人に縋った。
「えっと、あのあの、蛍、何があったの?」
僕はかなり慌てていた。
「今日ね、学校でね、ノートに新撰組の土方歳三と沖田総司の絵を描いてたの、そしたら普段、絵を見せ合ってる優子ちゃんがすごく怒ったの!」
「お主、そ、その絵っていうのは?」
その瞬間妹が開いた自由帳からは、筋骨隆々の益荒男と華奢な優男が抱き合うイラストだった。
「幸村君、この小娘、かなり発酵が進んでおるぞ!?」
「人の妹を小娘呼ばわりしないで下さい!それと発酵じゃなくて腐敗……」
僕が弱々しく答えると博士は
「ふぅむ……まぁ別に悪いことではないが幸村君の妹はなかなか目覚めるのが早いのう。ワシも学生の頃はクラスに1人はそういう女子がおったもんじゃ……」
「感心しないでください。」
「すまん。すまん。蛍ちゃん、じゃったな?そのお友達の優子ちゃんとは普段どういう関係なんじゃ?」
博士が珍しく真面目に質問すると、妹は弱々しく答えた。
「えっとね。普段は一緒に絵を見せ合ってるの。その子も新撰組が大好きな子なの。普段は他の隊士たちが仲良くしてる絵を描いてるの。
いつもは優子ちゃん、出来上がった絵をすごく喜んでくれるの。
でもその日だけはすごく怒って……」
「仲良くしてる絵とか喜んでくれるとか、中々のパワーワードが出て来ますね……」
「これはあれじゃな。土方歳三問題じゃな!」
「博士、土方歳三問題って何なんですか?」
「ふぅむ……創作物における土方歳三は硬派な設定が多くてな、他の隊士達は仲良くしておるのにそれを嫌うという設定が多くてのう……じゃが、これは土方がそれを嫌がったというよりかは、作者による牽制的な意味合いが強いんじゃ……乙女ゲームや夢小説は許せてもそれだけはその子にとって局中法度だったのじゃろ……」
「なるほど。」
小気味よく返したものの、さっぱりよくわからない。
「わたし、優子ちゃんともう仲直りできないのかなぁ……」
「そんなことはないぞい。ちゃんとその子に謝ればきっと分かってくれるはずじゃ。何かを好きになることはとても素敵なことじゃ。
じゃが、その気持ちは、時折お互いが見えなくなったり、譲れなくなったりすることもあるものじゃ。
お互いに尊重しあって、これからも仲良くすることができたらええの。」
「ありがとう!明日、優子ちゃんに謝って来るね。」
妹の顔から不安が消えて、どうやらいつもの明るい笑顔を取り戻したみたいだ。
「あの、博士。僕からも、有難うございます。」
「ええってことじゃよ。ところでもう夕方じゃ、今日は妹さんと一緒に帰ったらどうじゃ?」
「そうさせてもらいます。博士、今日は本当に助かりました。」
玄関のドアを開けると、いつもより少し夕陽が輝いて見えた。
僕と妹は、博士の研究所を後にした。
さっきまでの妹は、人間関係の岐路に立たされていたが、僕らは無事帰路に就くことができた。