第1話「博士と消せないメモリー」
僕がいつものように博士の自称研究所に出入りしていると博士がゲームをしながらこうつぶやいた。
「お前さんは、ゲームする時主人公に自分の名前をつけたりするのかのう?」
僕はとっさに返した。
「自分の名前が海野幸村って名前が恥ずかしいのと、主人公が世界を救うゲームとかだと、僕はそんなに大した人間じゃないので」
すると博士は、
「ワシはゲームには、自分の名前をつける派じゃ!でなければ、美少女とイチャイチャした気になれん!」
と語気を強めていた。
「博士の氷室弘って名前、特徴的って言うかなんか噛みそうになりますよね・・・」
僕がそう言うと博士は
「これで勝ったと思うなよ!?」
と僕の方を指さしながら言い放った。
「あの……戦ってすらないんですが……」
少しあきれながら僕が言うと博士は、
「どれ、コーヒーでも飲んで落ち着くかのう……幸村君も飲むか?」
博士が尋ねてきたので「頂きます」と答えた。
博士の淹れてくれるコーヒーは意外と美味しい。
ブラックコーヒーなので、砂糖は結構多めに入れている。
「お前さんは中学二年生なのに、背伸びしない素直なところ、ワシ結構好きよ。」
これは褒め言葉なのだろうか?と僕は一瞬思った。
コーヒーのいい香りのせいか博士は少し目を細めて
「こうしているとあの頃を思い出すのう。鈴本君は元気にしているのかのう・・・」
「鈴本君?」
僕が尋ねると博士は、震えるような声で
「ワシが幸村君の年ぐらいの頃にな、鈴本君と言う子がおってな、その子がお兄さんのギャルゲーを夜中にこっそりプレイしておってな、それを彼の友達が、鈴本君の家に遊びに行ったときにな、セーブデータを発見したんじゃよ……彼は次の日に学校でからかわれての特に野球部の子とかは結構ひどくいじっておったの。」
間髪入れず僕は
「それを博士が止めたんですね!?」
と大声で言っていた。
すると博士は少し涙ぐんだ声で
「ワシも一緒になっていじっておったんじゃ……そうしたら普段明るくて面白いあの鈴本君が、人知れず泣いておったんじゃ……」
僕は「それから?」と尋ねることはできなかったが博士はさらに続ける。
「ワシ、鈴本君にその時謝ったんじゃ……そうしたら彼は鼻水をすすりながら「なんでお前が謝りに来て『由真』がここへ来ないんだよ。」彼のその発言のあとワシらは笑いあっておったんじゃよ。」
「その『由真』って子は誰なんです!?」
さっきまでの僕は「それから?」と尋ねることができなかったのに気がついたら口を開いていた。
「『T○ Heart2』というゲームの女の子じゃよ。」
と博士は答えた。
「いや、ゲームの中の女の子!?そんなの現実に来るわけ・・・あ!だから博士と鈴本君は笑いあったのか!?」
僕がようやく理解すると
「彼の心には来ておったんじゃよ……マウンテンバイクで駆けつけてきた由真ちゃんが」
博士の目には大粒の涙が光っていた。
さっき博士が淹れてくれていたブラックコーヒーはとっくに冷めていた。
僕はそれを飲み干した。
博士の淹れてくれたコーヒーはたっぷりと砂糖が入っていたはずなのに、何故か今日は大人の味がした。