6話 シャルナとの共闘 その1
「まさか、1日に2回目の冒険をすることになるとは思わなかったよ」
「そういう経験初めてなんだ?」
「まあね。今まではBランク冒険者パーティだったわけだし。中堅とはいえ、そんなに無理は出来なかったから」
俺はシャルナと一緒に初心者ダンジョンのマリスの遺跡とは別のダンジョンを目の前にしていた。その名は神秘の迷宮と呼ばれている場所だ。主にAランク以上の冒険者が挑戦する迷宮であり、最深部はまだ分かっていない未開のダンジョンの1つだ。
「大丈夫かな……俺の実力で神秘の迷宮なんて」
「大丈夫よ、私がしっかりと前衛を務めるし。補助魔法でオーガロードを倒せる強さを獲得できるなら、地下1階くらいはなんてことないって」
「そうだといいけどな」
シャルナは笑顔で俺を励ましてくれる。嬉しくはあったけど、緊張感は拭えなかった。まあ、ダンジョンに挑むんだし用心に越したことはないな。入り口は目の前にポッカリと開いているのだ。入る前に補助魔法を掛け終えておくか。俺は3種類のステータスアップと毒耐性、混乱耐性も掛けた。
「一気に強くなったわね。上限が私にも見えないわ……本当に凄い効果量ね」
「えっと、シャルナにも掛けた方が良いのかな?」
「いいえ、私はまだ大丈夫よ。お願いしたい時には言うわ」
「わかった」
俺達はそのまま神秘の迷宮内部へと入って行った。シャルナを先頭にして……。
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「はああああああ!!」
「グギャア!」
「ブフォ……!」
神秘の迷宮の地下1階にはリザードマンやオークといった魔物が現れていた。Bランクレベルでも倒せる魔物だが、やはり、マリスの遺跡とは出現する魔物のレベルが違う。スライムやコボルトよりもはるかに強い魔物だからだ。
「ま、この辺は余裕すぎるわね」
流石はSランク冒険者の一角と言えばいいのか。シャルナは息一つ切れることなく、そんな魔物を倒していたのだ。彼女は2本の短剣を武器に華麗に舞っていた。動きは華麗だったが、その攻撃力は半端ではなく、全ての魔物の首を両断している。ドロップアイテムには興味がないのか放置しているようだ。
「俺が出る幕はなさそうだね……」
2体のリザードマンが俺のところに来たけれど、その2体は新しく購入した剣で倒すことが出来た。明らかに俺の身体能力は大幅に向上している。リザードマン2体を相手にしても苦にしないのは嬉しい誤算だ。オーガロードを倒せたのがまぐれではないと実感できるし。
シャルナは大量のリザードマンとオークを狩ったが、まだまだ物足りないという雰囲気だった。
「地下1階くらいでは、カインの補助魔法のお世話になりそうにないわ。もう少し奥に行ってみない?」
「マジで?」
「大マジ」
シャルナは真剣にそう言った。彼女は本当に余裕を感じさせている。余裕と言う意味では俺も一緒だが、彼女のそれはもっと深いものだった。流石はSランク冒険者の格と言ったところか。こうして言えば聞こえは良いけど、まだ16歳の少女なんだよな……シャルナは。
「よ、よし……俺だってオーガロードを倒したんだから、行けるところまで付き合うよ!」
「流石はカイン! そうこなくっちゃね! グリムハウトにあなたみたいなメンバーを加えられて嬉しいわ」
「その話なんだけど、本当に大丈夫なのか? 俺で……」
正直、他のメンバーが俺を見て首を縦に振るとは思えなかったけど……不安だ。
「大丈夫、大丈夫。結構、その辺は適当な奴らだから」
「そ、そうなのか……はあ」
シャルナは先ほどから適当だとかそういう言葉が目立つな。一体、どういうメンバーがいるんだろうか? 非常に気になるところだが、俺達は神秘の迷宮のさらに奥に進むことになった。
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地下5階まで進んだ時……倒した魔物の数は50体を超えただろうか? まさか、こんなにも多くの魔物が出て来るとは思わなかったが。
「ダークファットテイルまで出て来るとはね……流石は神秘の迷宮かな」
「毒耐性を掛けておいて良かったわね」
「それは確かに」
人間以上の大きさの猛毒サソリ、ダークファットテイル……この魔物までくると、Bランク冒険者では厳しい相手になってくる。猛毒に侵されたらひとたまりもないし単純な能力も高いからな。まあ、俺の場合は毒耐性以上にガードアップの効果でダメージを負うことがなかったんだが。
シャルナは喰らうとか以前に全て避けていたけれど。俺は俺でオーガロードを倒せた事実をより強く実感していた。
「どうしたの、カイン? 拳を握り込んで」
「いや……ダークファットテイルの攻撃で無傷だったから、オーガロードを倒せたのも本当なんだな~って思ってさ」
「ああ、そういうこと? そりゃ、事実でしょ。私もこの目で見ていたんだし」
そういえばあの時はシャルナが近くにいたんだっけ。最悪、俺が倒せなかったとしても彼女に助けられたわけか。
「カインがオーガロードを倒せたのは、紛れもない事実……っ!?」
「シャルナ……? この気配は……?」
一気に場の雰囲気が変わった……ここは神秘の迷宮の地下5階だ。雰囲気が変わること自体はめずらしくないのかもしれないが。
「マズいわね……カイン、気を引き締めて」
「わ、分かった……」
マリスの遺跡でオーガロードと対峙した時に似た雰囲気だ。いや、威圧感はあれをも上回るか?
ダンジョンの奥地から現れる存在。その大きさこそオーガロードに劣るが……強さはそれ以上だろう。リザードロードの登場だった。
なんで1日に2回もこんな場面に出くわすんだよ……俺の運勢ってどうなってんの?