5話 シャルナ・アークレイ その2
「あれ? 誰もいないわね……まだ帰って来てないのかな?」
「……」
俺はシャルナの提案に従う形で、Sランク冒険者パーティ「グリムハウト」のアジトへと来ていた。アジトとは言っても、とある宿屋の1室を間借りしているだけのようだけど。ただし、その広さは俺が普段泊まる部屋とは雲泥の差があった。当たり前の話だけどな。
「どうしたの、カイン? 緊張している?」
「ま、まあな……グリムハウトの他のメンバーに会うんだろ? そりゃ緊張するよ」
グリムハウトと言えば、冒険者ギルドでも度々名を聞くほどに有名な冒険者パーティだ。遠目からその姿を見たことは何度かあったが、妙な威圧感に覆われていたことは覚えている。俺なんかを相手にしてくれるとは思えないけどな……シャルナは連れて来てくれたけど。
「あんまり緊張しても意味ないと思うけど」
「……?」
シャルナの言葉の意味は分からなかったが、彼女は俺に飲み物を用意してくれた。紅茶のようだ。
「とりあえず、緊張を解す為にも飲みなさいよ」
「あ、ありがとう」
俺は彼女の手から紅茶を受け取った。シャルナは細い腕をしており、見た目は可憐な美少女だった。赤い髪のツインテールが非常に似合っている。体格もスレンダーであり、どこかの貴族令嬢と言われても分からないほどだ。それだけ、外見的には戦いからかけ離れている。ただし、間近にした時の闘気は相当なものを感じるが。
「どうしたの、カイン?」
「ああいや……そういえば、シャルナはあんまりSランク冒険者っていう雰囲気じゃないよな。外見だけ見れば、だけど」
来ている服装はもろに冒険者の服なので、すぐに一般人ではないことは分かるのだが。スレンダーな見た目の割には露出もほとんどしていないしな。勿体ないと感じる人もいることだろう。彼女が女の子らしい外見に変えて外に出たら何人の男が声を掛けて来るのか分かったものではない。
そのくらい、シャルナは美人と言えた。
「それは偶に言われるわね。一般的な服装になっていると特に。まあ、私はまだ16歳だしね」
「16歳か、かなり若いんだな」
「カインは何歳なの?」
「俺は18歳だ」
「2歳年上か……」
シャルナとは2歳差の関係性なわけか。タメ口を最初に使ってしまったが、特に問題ないようで良かった。それにしても……他のSランク冒険者は帰って来ないのかな?
「他の人達は冒険に出ているのか?」
「多分、そうだと思うけど……適当に遊んでいる馬鹿もいるかもしれないわね」
「ん、そうなのか? あんまりそんな印象はないけど」
なんせ冒険者の中でも有名な「グリムハウト」だからな……凄まじく厳格な掟が敷かれてそうだけど。
「あんまり期待してもらっても申し訳ないかも……ま、いっか」
「?」
「それよりも、他の奴ら戻って来る気配ないし、二人で冒険でもしておかない? 夜になれば帰って来ていると思うし」
びっくりする発言をシャルナは言い出した。先ほど、オーガロードと戦ったばかりなんだが……また、冒険に行くのか?
「俺と君の二人で行くのか?」
「そういうこと。あなたの補助魔法は非常に興味があるしね! ちょっと見させてくれない?」
「いや、それは別に構わないけど……」
「じゃあ、決まりね! 早速、行きましょう!」
話の流れがおかしな方向に向かっているような……こんな形で俺は、再び同じ日に冒険に出歩くことになった。