3話 強力な魔獣 その2
「グオオオオ!?」
オーガロードは焦っている様子だったが、すぐに俺の位置を特定していた。焦りたいのはこっちだ……補助魔法のスピードアップを掛けたのは良いが、まさかオーガロードの一撃を避けられるレベルになるなんて思ってもいなかった。
現状を上手く理解できなかった俺だが、状況を見るにオーガロードの一撃をスピードアップの魔法を掛けたから避けられたと見る以外にはない。そうでなければ説明ができないし、通常の俺の身体能力ではとっくに死亡していただろう。
「となればどうだ? 俺の補助魔法は思っていた通り……いや、それ以上に効果があったと見れば良いのか!?」
シウスから言われた言葉は完全な間違いだった……おそらくはそういうことだろう。俺の補助魔法は確かに以前の冒険者パーティで活躍していたのだ。彼らが強力な魔物を退治出来ていたのは、俺の補助魔法の効果が少なからずあったということだ。そうでなければ、オーガロードの攻撃を躱せた事実と矛盾する。
「よし、落ち着け……まずは……パワーアップ!」
補助魔法のパワーアップを掛けることにした。そして、防御力を上昇させるガードアップも掛ける。スピードアップの効果と同等ならば、これで俺の強さは相当なものになったはずだ。俺は腰に携えていた剣を右手に持った。
オーガロードは俺を完全に殺す気のようだ……いくら速さが上昇しているとはいえ、逃げに徹しているだけでは殺されるかもしれない。確実に生きて帰るのであれば、オーガロードを正面から撃破する必要があるだろう。俺は覚悟を決めていた。
「よし、3つの補助魔法は掛けた……後は戦うのみか」
「グオオオオ!」
「行くぞ!」
オーガロードは単純な物理攻撃タイプの魔物だ。状態異常攻撃はしてこないので、毒耐性や混乱耐性の魔法は必要ない。後は、俺の強化状態が奴に通じるかどうかの勝負だ。全力で剣をオーガロードに振り抜いた。
「ギッ!?」
「くっ、強いが……行ける!」
オーガロードの棍棒と真っ向から打ち合った形になったが、決して負けてはいなかった。むしろ俺の方が勝っているくらいだ。これならば剣が壊れない限りは行ける! 最初の打ち合いで俺の剣は刃こぼれを起こしてしまった。長期戦は危険だ……一気に決めないといけない!
「うおおおおお!!」
「ゴアアアアア……!!」
最初の打ち合いを弾き飛ばした俺は一気に、オーガロードの首筋に向けて剣を振り払った。オーガロードは予想外の打ち合いに動揺していたようで、俺の一撃をまともに受ける。
「ガフッ……!」
勝負あった……俺の剣は真っ二つに折れてしまったが、オーガロードにも致命傷を与えることが出来ていた。オーガロードは首から大量の血を流してその場に倒れたのだ。俺はあり得ない勝利に安心したのか、その場に座り込んでしまった。
「オーガロードを倒せた……? ははは、信じられないな……」
一瞬、全てのことが夢で俺はとっくに殺されているのではないかと思えるほどだったが、頬をつねっても痛みがある。これは現実なようだ……俺はオーガロードに勝ったのだ。
「信じられない……あんた、大丈夫だったの!?」
「えっ……?」
一体誰だ? 人間の女性の声が俺の耳に聞こえて来た。俺はその声の主に視線を合わせるが、知らない人物だ。けっこう可愛い、かな? 赤髪のツインテールをしている少女だった。
このダンジョンに来ているということは冒険者かな? なんかどっかで見た気がする少女だけどな。