2話 強力な魔獣 その1
「まあ、単独で探索するならこのダンジョンがちょうど良いかな」
俺は初心者ダンジョンと言われている、マリスの遺跡に来ていた。先人類が遺した遺跡といわれており、出現する魔物はそんなに強くない。小金を稼ぐにはもってこいのダンジョンだ。冒険者パーティのハリウッダとして活動していた時も、何度か訪れたことがある。スライムとかコボルトとかが出るので経験値稼ぎにも利用できるのだ。貰える経験値は少ないけど。
俺はダンジョンの地下1階で魔物討伐に勤しんでいた。この階層であれば補助魔法を使わなくても倒せる。俺は後方支援役なのでそこまで物理的な戦闘能力は高くないが、流石に一般人と比較すれば高い方になるだろう。スライムやコボルト程度は簡単に倒せていた。
冒険者パーティのハリウッダはBランク冒険者になり、冒険者全体としては中堅程度の格になる。その中の後方支援という立場は初心者冒険者よりは強いのだ。
魔物は倒すと経験値とアイテムをドロップする。アイテムドロップのレア度はその魔物の強さに比例すると言われているが、稀に弱い魔物でも希少なアイテムをドロップすることがあるとかないとか。それから魔物によっては、皮とか骨とかが売れる場合もあったりする。
「そういうの集めたりするのも、冒険者の楽しみではあるんだよな」
冒険者は色々な意味で夢のある職業だった。あまり素行が良くない者もいるため、全体的な評判は悪いと言われているけどな。さてさて、倒したコボルト達のドロップアイテムを回収してと……ん?
「なんだこの気配……? あれ……?」
新たな魔物が姿を現したのだろうか? 何か荒い呼吸音のような音がダンジョンの奥から聞こえて来た。俺は嫌な予感がしてしまう。この威圧感……おかしい、明らかにマリスの遺跡に出現する魔物の気配ではない。
マリスの遺跡は最深部まで攻略されているはず……最深部でもそこまで強い魔物は出て来なかったはずだが。俺の目の前に現れた魔物は……。
「まさか……オーガロード!?」
巨大な棍棒をを持ち鋭い牙と、人間を恐怖に陥れる表情を有した魔物が俺の前に姿を現したのだ。ただでさえ狂暴なオーガ系の魔物の中でも最強と有される個体だ。
「グルルルルル……!」
「そんな……! 初心者ダンジョンであるマリスの遺跡に、オーガロードが現れるなんてあり得ない!」
オーガロードは完全に襲撃態勢を整えているようだ。明らかに分が悪い……オーガロードなんて魔物は本来なら、中堅以上のダンジョンでなければ見かけない相手なはず。ハリウッダのパーティでも倒したことなんて一度もない強敵だ。
パーティでも勝てるか分からないのに、俺一人でどうにかなるはずがなかった。一目散に逃げようとするが……いきなり回り込まれてしまう。
「グオオオオオオ!!」
オーガロードは持っている棍棒を振り上げていた。最早、避けることは出来ない……このまま俺は死んでしまうのか? 冒険者パーティを追放されて孤独になって……こんなところで死んだら何のために生きているのか分かったものじゃない。絶対に生きて帰ってやる!
「うおおおおお! スピードアップ!」
俺は自らに補助魔法を掛けた。この程度でオーガロードの一撃を躱せるとは思えないが、脳で考えるよりも早く動いた結果だったのだ。
「!!」
「えっ、あれ……?」
するとどうだろうか……絶対に避けられないと思っていたオーガロードの一撃だったが、気付いた時には離れた場所に俺は立っていた。一体、何が起きたのだろうか? こんなに速く動けたっけ、俺……?
オーガロードが焦っている光景が見て取れた。俺は奴の攻撃を避けられたのか?