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3話 「冒険者になろう」


女神が言うにはこの国の王都は円形の城壁に囲まれている城塞都市。外側から平民街、商店街、貴族街、城、と区別されているらしい。


商店街の中でも平民用と貴族用の二つに別れていて、平民街、平民用商店街、貴族用商店街、貴族街 のそれぞれの境目には運河が流れている。貴族街と王城の境目だけに壁が建てられているそうだ。


こういう城塞都市の場合、平民街や貴族街などを別ける境目には壁が建っているものだと思っていたが、「王都内での区域を別ける境目には壁を建ててはいけない」という内容の法がだいぶ昔にできたため、それぞれを分けるのは運河になったらしい。


これから向かうギルド本部は平民用の商店街に位置し、平民用と貴族用を分ける運河の近くに建っているそうだ。





そして今は商店街に向かうため、外側の城壁の北門から貴族街と城の境にある城壁の正門まで、一直線に続く大通りを歩いている。


この大通りでは多くの荷馬車が行き交い、歩道ですれ違う人も転移して最初に居た通りよりもずっと多い。

また、歩いているとたまに全身に同じ鎧を着た2,3人組を見かける。

雰囲気的に騎士とか傭兵の類いだと思う、住宅街から商店街に移動する間に3,4回ほどは見かけた。



あれ?この値札…



周りを見渡しながら歩いていた勇輝はその歩みを八百屋のような店の前で止め、一瞬目に映った物を凝視した。

そこには、「にんじん 10ポン 300エン」と書いてある。



これ、日本語ですよね?


勇輝は目の前の値札を指をさしながら、自分にしか聞こえない声を持つ女神に尋ねた。


『そうですね、日本語ですね』


もしかして転移した時に自動翻訳みたいなのつけてくれました?



ここは異世界。故に当然ながら元の世界、及び日本とは文化も言語も違うと思っていた。が、しかし、目の前に書かれている文字はどこからどう見ても日本語。値札の文字と値札がかけられている物の意味も元の世界と同じなため、ただ字の形が似ているだけで、全く別の意味の言葉というわけでも無さそうだ。

こういう異世界ものの創作物で、異世界にやってきた時にその世界の言語に対応できるよう翻訳機能が元々備わってる、という設定はよくある。そういう類のものかと思ったが、



『いえ、元々この世界はこの言語ですよ』


そうなんですか?異世界なのに文字が日本語と同じなんですね


『文字だけじゃなく、話す言葉も日本語ですよ』


どっちも日本語なんですか!良かったです!俺英語とか日本語以外の言語覚えるのすごい苦手なんですよ






そんなこんなでギルド本部に到着



「ここがギルド本部か…」


目の前には大きな門が建っている。

門の先にはこの施設の敷地が広がっていて、その敷地の中には市役所程の大きさの建物があり、その後ろには高校の様な建物が建っている。

市役所みたいな方がギルド本部で、高校の様な建物は見習い騎士の養成学校らしい。

国の騎士団に入るためには、ほとんどの場合この学校を卒業する必要があるそうだ。



「思ってたよりデカいですね」


『まぁ本部ですからね、これくらいあっても不思議ではありません。………私が最後に見た時よりも二回り程は大きくなっていますが…』



施設全体を見ると縦も横も周りより大きく、ギルド本部だけでも離れたところから見ても一際目立つ程大きな建物だ。



「こんなに本部が大きくなるくらいギルドの運営は稼げてるんですかね?」


『国からの支援もありますし、各ギルドでも冒険の必需品や武器を売っていたり、騎士団の装備なんかもギルドの方が作っているので、そこら辺のこともあるのではないでしょうか』



門を通り、石タイルが敷かれた本部までの道を女神と話ながら歩いていると、話題をこの道の端に置いてあるものに移す。



「この道の端にある銅像たちは誰の銅像なんですか?」



今勇輝が通っている道の端には、いくつもの銅像が均等の間隔で建てられている。門から本部の手前までに4,50個程は置かれていそうだ。



『これは歴代のギルド会長の銅像ですね。――前に見た時よりも増えてる…』



一番正門に近い銅像から順に初代、2代目、3代目…と左右交互に歴代の会長の銅像が置かれている。


てか、4,50個の銅像が建ってるってことはギルドもめっちゃ長く続いてるんですね



『そうですね、かなり前からあるようです』


――なんか……ギルド本部行く度にこの風景見なきゃいけないんですか?


『そうですね……こんな風景前の世界じゃ見ないですもんね』




銅像を見ながら歩いていると、気づけばギルドの目の前に居た。

ギルド本部の入口のドアはガラス張りになっていて、外からエントランスが見えるようになっている。

一見自動ドアにも見えたが、ドアノブが着いているため自動ではないようだ。

中に入って右の方に受付があった。


受付の前には数人並んでいる列があり、中にはいかにもな冒険者っぽい人もいる。

少し並んで待っていると、「こちらへどうぞ」と呼ばれ、カウンターの席に座る。



「どのようなご要件でしょうか」


「えっと…冒険者登録?みたいなのをしたいんですけど…」


「冒険者登録ですね、では名前と年齢を教えていただけますか」



あ、これって年齢制限あったりします?


『ありますけど、13歳以上くらいからだったと思います。なので多分大丈夫でしょう』


この世界で名乗る時って「苗字・名前」で名乗るんですか?


『いえ、「名前・苗字」が基本です。なので勇輝…君?さん?は「イサキ・アマド」と名乗るのが正解です』


わかりました。あと呼び方はなんでもいいですよ



「名前はイサキ・アマドです。年は16です」


「イサキ・アマドさんですね……年齢は16…と」


復唱しながら受付の人がメモをしている。その後「少々お待ちください」と、一言言うとそのメモを持ち、どこかへと行ってしまった。


『なぜ年齢を盛ったんですか?』


え?盛ってないですけど?


『え?いや、勇輝君は15ですよね?』


俺16ですよ?そんなに中学生っぽく見えました?


『いや、そういう訳じゃなく、ただ……なんとなく』


俺そんなに中坊っぽく見えます?確かに去年までそうでしたけど……

あ、そういえば、冒険者登録すると具体的にどうなるんですか?


『冒険者の登録をすると、証明証のようなカードを貰えます。そのカードには、名前、ランク、実績、パーティーを組んでいれば、パーティー名が記載されます』


証明証が貰えるんですか。あと、やっぱ冒険者にランクってあるんですね


『はい、ランク事に受けられるクエストが違ったり、ギルドでできることも変わってきます。ランク順を下から言うと、E,D,C,B,A,Sの6段階になっていて、ランクが高ければ高いほどクエストの難易度が難しくなりますが、その代わり報酬も豪華になっていきます』


実績ってのは?


『実績というのはギルド本部や国から発令された特別なクエストを受けて達成すると、カードの裏面に記載されるものです。この実績があれば、特別な報酬やランクの飛び級なんかもあったりしますね』


特別なクエストってどんな感じなんですか?


『そうですね、普通の冒険者が束になっても困難なクエストや、国の騎士団でも討伐が難しいモンスターが現れたりすると、緊急クエストと指定されて発令されます』


その特別なクエストって、今までに前例が何回かあるんですよね?


『この国では、かなり前までは数ヶ月に1回は発令されてたんですが、最近は国の騎士団が強すぎてあまり起きませんね』


国の騎士団ってそんなに凄いんですか?


『はい、まぁ国の騎士団と言っても8つに分かれていて、その8つとも優秀な人達が多いんです。ですから、世界に一つしかないような貴重な物をを持ってこいと言われたり、魔王幹部くらい強いやつが襲来して来ない限り滅多に発令されませんよ』


魔王幹部がどれほど強いのかはわからないが、幹部レベルに強い人達の集まりが8つあるとなると、この国は結構安泰そうだ


――噛ませ犬じゃないといいけど



てか、そんなに強いなら騎士団で魔王倒せばいいんじゃないですか?


『魔王とその幹部じゃ強さに差がありすぎるので、たとえ騎士団が総力を上げて戦っても魔王は倒せないと思います』


え?なにそれ、そんなに強いの?そんなんと俺戦わなきゃいけないんですか!?無理でしょ!?


『いや……でも、何とかなりますよ、勇者ですし』


ろくに戦える目処がない俺にどうしろと!?


『まぁ、とにかく頑張ってください。ほら終わったみたいですよ』



露骨に話をそらされたところで受付の人が戻ってきた。



「お待たせしました。では冒険者の登録が完了したので、こちらをどうぞ」


「あっ、はい」



受付の人から渡されたカードには、「イサキ・アマド」、「ランクE」とだけ書かれていて、パーティー名が書かれるであろうところは空欄になっている。もちろん裏面には何も書かれていない。



なんか……しょぼいですね…


『まぁ、まだ発行したばかりですから…ね?』



「冒険者カードの説明を致しましょうか?」


受けておいた方がいいですかね?


『さっきの説明がほとんどだと思うので大丈夫でしょう』


「いえ、大丈夫です」


「左様ですか。では、他にご要件はございますか?」


なんか他に受付でやっといた方がいいこととかあります?


『いえ、今は受付ですることは特には無いでしょう』



「いや、ありません。ありがとうございました」


「またご利用ください」


席を立って受付の人に会釈し、ギルド本部を出る。


━━━━━━━━━━━━━━━


そして今、勇輝は人気の無い路地裏にいる。



「これで俺も冒険者かぁ……なんか段々と実感が湧いてきたなぁ……。

よし、じゃぁ冒険者になったんで早速バトルのチュートリアルを…」


『いえ、ここは王都ですから周辺にモンスターなんてほとんどいませんよ。ですから、一度王都を離れましょうか』


離れるってどこに行くんですか?


『王都から南西の方にプロトスという町があります。そこに向かいましょう』


――もしかして、その町でなんかのイベントがあったりします?


『え!?い、いえ、特に何かある訳では無いですよ?ほら、ここらかも近いですし、ギルドもありますし、近くにはモンスターも湧くのでちょうどいいかな…と』


だいぶあからさまに隠そうとしているが……。うん、聞かなかったことにしよう。


『何も隠そうとなんかしてませんよ?』


はいはいわかってますよ。そんなことより早速行きましょうよ


『いえ、行くのは明日です。そろそろ日が暮れる頃ですから宿に向かいましょう』


そう言われ、空を見上げると日が落ちかけていた。

だいたい5時くらいだろうか。体感では転移したときから3時間程度しか経っていない。


てか、宿って言われても俺この世界のお金持ってないんですけど…


『わかっていますよ。ですから、宿はもう取ってあります。案内しますね』



……え?もう取ってあるの?






「思ってたよりも全然大きいですね」


『王都の宿ですから』


女神にナビゲーションされて着いたのが、今目の前にあるこの宿だ。4階建てで、ちょっとした屋敷くらいの大きさをしている。


「もしかしてそこそこいい宿だったりします?」


『そこそこいい宿ですね』


「これ入ったらどうすればいいんですか?」


『部屋の鍵はフロントに預けてあるので「305号室のアマドです」と名乗って、サインして鍵を貰ってください』


「わかりました」



宿に入り、エントランスのフロントで言われた通りに名乗ってサインをし、鍵を受け取って階段で3階に上がる。


「えっと……303…304…あ、ここか」



305と書かれたプレートが掛かっているドアの鍵を開け、部屋の中に入る。



「おぉすげえ!なんかホテルみたいな部屋ですね!」


『宿と言っても造りはほとんどホテルですからね』



部屋を一望すると、広さはそこそこある。玄関から入ってすぐ左の部屋にはトイレと洗面台があり、今勇輝が立つ部屋にはベッドが二つに間のタンス、クローゼットやテーブルを間に挟んだラウンジチェアが置いてある。



「うち旅行する時とかほとんど旅館なんでホテルとかあんまり行かないんですよ、だからホテルの部屋を見てるとなんかテンションが上がるんですよね!」



勇輝がウキウキした声ではしゃぎながらベッドにダイブし、ゴロゴロと寝っ転がる。



「しかも自分一人だけだし、余計にワクワクさんですよ!あ〜このベッドふかふかや〜」



勇輝がベッドを堪能していると『あ、そうだ』と、何かを思い出したように女神が話しかける。



『今日の夕食は1階のレストランで食べてください。それとそこのタンスの引き出しにこの国の通貨を入れておいたので、明日はそれを使ってください』


「え!?お金!?」


驚きながら引き出しを開けてみると、中には布でできた袋が入ってとり、袋を開けてみると銅貨が20枚に銀貨が10枚、金貨が5枚入っていた。



「銅貨に銀貨に金貨……」


『一応この国のお金の説明をしておきましょうか』


「こ、これって本物の金…なんですか?」


『まぁ100%金でできているわけではありませんが、ちゃんと金も入ってますよ。で、本題に入りますけど…』


『この国の通貨は安い方から、青銅貸、銅貨、銀貨、金貨、純金貸の5種類です。青銅貸10枚で銅貨1枚、銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚…』


「じゃぁ金貨10枚で純金貸1枚なんですね?」


『いえ、純金貸だけは1枚で金貨100枚分の価値があります』


そこは10枚で1枚じゃないのかよ


「なんで純金貸だけ100枚なんですか?」


『純金貸は100%金でできているので価値が高いんですよ』


「そうなんですか。この国の通貨ってそこまで複雑じゃないのでわかりやすいですね」


『えぇ、すぐに覚えられると思います』



説明が終わると通貨の入った袋を閉じ、タンスの上に置いてそのままベッドの上で仰向けに寝る。



「なんか……まだあんまり異世界に来たことが信じられないです」


『さっき冒険者になった実感は湧いてたんじゃ?』


「それはそれ、これはこれです」


『そうですか、でもまぁ最初はそんなもんですよ、突然のことですから』



目を瞑り、今日あったことを思い出す。

まずは、異世界に転移して早速、なんの力もないことで色々とあった。それに魔法も使えるかまだ危うい。マナを感じなければどうにもならなそうだし、なんとしてでもマナの感覚をつかみたいところだ。その後はギルドの本部に行き、冒険者登録をした。ここでは特に何も無かったが、この世界で日本語の言葉や文字が伝わることを知り、安心した。異世界の言語を覚えるとなると1ヶ月、いやもっとかかりそうなので本当に良かった。あとは…そうだな……あ、そういえば女神さんが「この国には八つの騎士団がある」みたいな話してたな……なんか重要なキーワードだったりすんのかな…



そんなことを考えているといつの間にか自分が空腹になってきていることに気がつく。


「そういえば前の世界で眠りにつく直前の時間は夜の1時くらいだったけど、この世界に来た時は昼過ぎだったよな……」


「もしかして俺朝から何も食べてないのと同じ状態ですか?「」


『一応体がいじられた時に空腹感などはこっちの世界に合わせられているはずなので、朝食と昼食は食べた時と同じ空腹感なっているはずです』


おぉ、なんか色々と都合がいいんですね。


体をいじられたという部分は気になるが、今のところ体に大した変化も異常もないので大丈夫だと思う。思いたい。



「あ、今日の夕食は1階のレストランで食べろって言ってましたけど、いつ行けばいいんですか?」


『今からすぐに行って大丈夫だと思いますよ』


「そうなんですか、じゃぁ早速行こうかな」



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