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2話 「女神」


『無いですよ』



「へ?」



おかしい、

この人が言っていることは嘘か?嘘なのか!?いや嘘だ!

いやそうだ、そうに違いない。

だって異世界に勇者として転移してきたんだぜ?なら普通それっぽい力なんてあるのが当たり前だろ?

異世界の少年としてたまたま召喚されならまだしも、俺勇者だぞ勇者

なら普通はそういう特別な力的なのあるだろ、普通は、普通なら…


『……残念ながら、あなたにはありません。特別な力も、チート能力も』


そ、そんな……う、嘘だ、嘘だろ!そんなの嘘だァ!



異世界転移の醍醐味である、転移時に手に入れた激強な力で無双する という夢を絶たれた勇輝には戸惑いが隠せない。



じゃ、じゃぁ、転移特典も、チート能力もない、魔法もろくに使えない俺は、一体……一体どうすればいいんですか!?


『お、落ち着いてください。ほら、異世界行ったけどチート能力なかった〜みたいな話しなら結構あるじゃないですか?ね?だから…ほら、元気だしてくださいよ』


「それとこれとは別ですよ!そりゃ物語を見る分には、そういう力がないのは魅力の一つですよ!だけど!いざ自分が異世界に行くとなるとそういう力は無きゃダメでしょ!」



絶望と戸惑いの最中にいる勇輝は、自分が口から声を出していることに気づかない。



『でも、ほら、そうだ仲間!仲間集めて一緒に旅をすればいいんですよ!そうすれば例え君が戦力にならなくても仲間が助けてくれるから…』


「ろくに戦えない戦闘素人の仲間になるやつなんて、いるわけないじゃないですか!

それに自分で魔法とか使うから楽しいんでしょ!?仲間に頼ってても意味無いんですよ!」


『だけど、まだ魔法が使えないと決まった訳じゃないでしょう?感覚さえ分かればできますよ!それに、異世界に行きたかった理由は戦うためだけじゃないですよね?』



確かに、勇輝が異世界に行きたいと思っていた理由は、戦うためだけでは無い。とんでもパワーで無双するのも異世界ものの魅力だが、それだけを望んでいるわけじゃない。

しかし、そのとんでもパワーがあるのと、ないのとじゃ、天と地ほどの差だ。



『あと!他のすごい才能が開花するかもしれませんよ!それに、ほら!その、もしかしたら…なんて言うか…あの、あれですよ、あれ』



突然モジモジしだした共有者だが、興奮冷めやらぬ勇輝にはそんなことは気にも留まらず、ハッキリ言わない共有者に無神経に質問をする。



あれってなんですか


『え?いや、ほら、あれですよ、あれ、異世界ものの主人公といえばあれになるじゃないですか』


だからなんですか「あれ」って!ハッキリ言ってくださいよ!


『えぇ〜嫌ですよ、この態度でこういう感じで誤魔化してるのは「そういう話なんだな」って察してくださいよぉ』


いや無理ですよ


「察しろ」と言われても、勇輝の考えていることは向こうに伝わるが、勇輝には共有者の考えることは全くわからず、何を言いたいのかさっぱりなので無理だ。


『えぇ……』


勇輝が察しようとしていないことがわかり、諦めた共有者が嫌々その言葉を口にしようとする



『ですから、その、な、なんて言うか……ハ、ハーレム…みたいな?』





その瞬間。思いもしなかったその言葉に、先程まで悲しみに暮れ、絶望に打ちひしがれていた勇輝の目が輝きを取り戻す。



確かに!そうだ!ハーレム!勇者なんだそれくらいの主人公補正ぐらいあってもおかしくない!そうだ、その手があった!勇者が、主人公がモテないはずがないんだ!



半ば自分に言い聞かせるように思う心の中の言葉は

、転移したのになんの力もないことへの諸々の気持ちを掠めさせた。



「この世界では魔法も使えず、転移特典もないと言うのなら!俺はこの世界でハーレムを築く!」



勇輝は声に出してそう高らかに宣言し、疎らな雲が浮かぶ青空を指さす。



『そ、そうですか、まぁ元気を取り戻してくれたなら良かったです』



若干引きつつある共有者はそう呟く。

そしてさっきまで清々しくなっていた勇輝の顔は、これからの妄想により不敵な笑みへと変わり、勇輝は静かに笑っている。



その数秒後、急に不敵な笑みを止めた勇輝はふと何かに気づく



そういえば、あなたの名前を聞いてませんでした


『そういえばそうでしたね』


いつまでもお互いに「あなた」で呼び会うのもあれですし、名前教えて貰えませんか?


『名前、ですか…』


はい、名前です。嫌ですか?


『いえ、別に嫌な訳では無いです。そうですね……』


名を聞かれた天の声は、少し考え込む。


『うーん……』


悩む声が漏れたその後、『では』と自身の名を教えようと、自身をこう呼ぶように勇輝に言う。



『では、こう呼んでください』



改まった声から出たその名は






『「女神様」と、』








――何言ってるんですか?





少しためて名乗った割には、その答えは求めていた「名前」ではなかった。



『え?何って、女神って言ったんですよ』


いや、だから名前ですよ、名前。


『えぇ、ですから私のことは女神様と呼んで貰って構わな…』


いや、そうじゃなくて!あだ名とか呼び名とかじゃなくて名前ですよ!本名を教えてくださいって言ってるんです!それとも名前を教えるのは嫌だとかですか?


『いやそういう訳じゃありませんが、名前って言われても……』


困ったような声の後少し間が空き、名前を名乗らない理由を共有者が明かす。





『――無いですもん』




………無いんですか?


『えぇ、ですから、女神って呼んでもらって構いませんと言ってるんです。そう呼ばれると気分も良いですし』


名乗る名前が無いってのはわかったんですが……あなたって神なんですか?


『まぁそうですね、そんなもんですよ』


マジすか、女神様だったんですか。へぇー驚きましたよ


『反応が薄いですし、全然驚いてないじゃないですか、まぁそれはいいんですけど…』



なんて薄い返事をして名を聞いた後、もう1つ気になったことがあったことに勇輝は気づく。



あ、そうだ、あともうひとつ聞きたいんですけど…


『私が何故あなたを勇者として転移させたか、ですか?』


あ、はい、そうですね


考えていることが筒抜けなため、言う前に答えられてしまう。

勇輝はそんな体験なんてついさっきが初めてなので、違和感しかない。

そして女神は、『それはですね』と話を始める



『まぁ勇者として転移させたのは、もちろん魔王を倒してもらうためです』


あ、やっぱり?



勇者といえば魔王を倒す存在というイメージが強いが、この世界での勇者もそういうものらしい。



『はい、あとは何故転移させたのがあなただったのかでずが……』


それも気になる。なんで俺だったのか、

いや、でも誰でもよかったのかもしれない。ちょっと自意識過剰だっただろうか、いつもなってしまう悪い癖だ。


『いえ、まぁ無いといえば無いですけど、なるべく異世界に行きたそうな人の方がいいじゃないですか?なので、凄く行きたそうにしていたあなたにしたんです』


そうなんですか!毎日祈り続けたのが女神様に届いたってことなんですね!


『え?そうなんですか?』


えぇ!毎日寝る前に願ってましたよ!


『そ、そうなんですね…毎日、ね……それなら尚更良かったです』



若干引いている女神とは裏腹に、勇輝は今、「奇跡ってあるんだなぁ」なんて思いながらにっこりとした顔をで天を仰いでいる。



てか、なんで女神様?は俺についてきてる…って言った方がいいのか?まぁとにかく、なんで俺のとこいるんですか?なんか神だったら他にやることあったりしないんですか?


『え?まぁ無いことは無いですが…ほら、私が転移させましたから、わかないことは手取り足取り教えてあげるのは当たり前でしょう?』


そういうもんなんですか…


『そういうもんですよ、多分』



手取り足取り教えてくれるのはありがたい。何も知らないところで1人なのは不安になる。

しかし現地のことをよく知っていて、なんなら神らしいので、今後も色々と役に立ちそうな知識を教しえてくれるであろうこの女神様。

これからかなり頼ることになりそうだ。



そういえば、異世界のあれこれは教えて貰えるのはいいものの、今自分が何をすべきなのかをまだわかっていなかった。

と、言うことで質問です。


『はい、とりあえずギルド本部に行きましょう。そこで冒険者登録をしてください』


何をすればいいんですかって言おうとしたのに…そろそろこの感じも慣れなきゃなぁ…

って、ギルドですか?勇者なのに?


『はい、さっきも言いましたが、いきなりお城に行き勇者と名乗っても、門前払いされるだけで意味がありません。まずはギルドに行って冒険者登録をし、色々と実績を残してから向かわなくては、王様は会ってすらくれないでしょう。

何も成していない見ず知らずの人間が、いきなりお城に乗り込んで自らを勇者と名乗っても信憑性など皆無でしょう?ですから、王国からの支援みたいなのを望むのは今は難しいです』


確かにそれもそうですね、誰だよお前ってなるだけか…

まぁでも、冒険とかもしてみたかったので、とりあえずギルドに向かいたいんですが…


『ギルドはここから見て北東の方にあります。とりあえず大通り出て、商店街に行きましょう』


商店街ですか?


『はい。商店街です』


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