戦闘の専門家Ⅱ
3話『戦闘の専門家Ⅱ』
龍介「この子たちが魔法少女・・・」
龍介は麗香の言葉の意味を理解できなかった。なぜなら魔法少女とは戦場を舞う戦士であると龍介は認識していたからである。確かに彼女たちの姿は可愛らしく可憐であったが、泥にまみれながら妖魔に立ち向かう姿と真剣な表情はまさしく勇敢な戦士そのものであった。しかしモニターに移されている彼女たちは、汚れのない綺麗な衣装に身を包み、観客にあふれんばかりの笑顔を向ける、龍介が持っていた魔法少女像とはかけ離れたものであった。そしてなによりも・・
麗香「あなたのいいたいことも分かりますわ。以前までの魔法少女たちは匿名で活動を行っていました。それに積極的に自分の素顔を見せようとはしませんでしたわ」
里美「だが彼女たちツインローズは違った。公に自分たちが魔法少女であることを宣言し、芸能界に進出したのだ」
龍介「ツインローズ・・・」
龍介は今一度モニターに映る魔法少女の姿を観察する。紅蓮の薔薇をモチーフにした美しい魔装を身にまとう長身の少女と、純白の薔薇をモチーフにした可憐な魔装を身にまとう小柄な少女。彼女たちこそ魔法少女ツインローズのクリムゾン&ホワイトであった。
麗香「芸能界に進出した彼女たちはその美しさと、魔法少女であるという話題性ですぐさまトップアイドルの仲間入りを果たしましたわ。そして莫大な富と名声を手に入れましたの」
龍介「なるほどな、彼女たちがアイドルとして成功したのは分かったが、それが町の被害とどうかかわるんだ」
里美「ああ、別に魔法少女がアイドルになったから被害が拡大したわけではない。この話には続きがある」
里美はひとつ間を置くと再び話始める。
里美「彼女たちは驚異的なスピードでアイドルの頂点に立った。歴史を塗り替えるほどの、な。そしてツインローズを契機に新たな魔法少女アイドルが次々と誕生し始めた。理由は簡単だ、魔法少女アイドルが金になるからだ。ほとんどの芸能事務所が新たな魔法少女アイドルをデビューさせるために力を注ぎ始めた。芸能事務所にとって魔法少女アイドルはまさに金のなる木なのだよ」
龍介「魔法少女アイドルが大勢誕生したのはわかりますが」
里美「まあ待て。魔法少女アイドルが数多く誕生したことが被害拡大の本質ではない。問題は魔法少女ランキングだ」
龍介「魔法少女ランキングですか」
里美「ああ。魔法少女アイドルが数多く誕生したことでメディアでも魔法少女が頻繁に特集されることになった。そして作られたのが魔法少女ランキングだ。言葉の通り魔法少女に順位付けを行い上位の者には莫大な富と名声が与えられる。問題なのは評価項目にある。アイドルとして必須の容姿や歌唱力、表現力の項目はもちろんのこと、この評価では戦闘時の美しさや演出、インパクトが項目として存在するのだ」
龍介「戦闘についての評価・・・」
龍介は被害がしている理由に気づいたのか、やりきれない顔で小さくつぶやく。
里美「魔法少女ランキングで上位に入賞すれば魔法少女は莫大な富と名声を得ることができる。そして魔法少女が所属する事務所もその恩恵を得ることができるのだ。だから彼らは魔法少女の戦闘を演出し始めた。より美しく、より破壊的で、そして感動的な演出を、な」
龍介「そういうことですか。金の匂いを嗅ぎつけた大人が魔法少女に群がり躍起になっていると」
里美「そういうことだ。自分たちの欲のために少女たちを利用し危険に晒している。そのことが私はゆるせないっ」
里美はやるせない表情で手のひらを強く握りしめる。
龍介「話は分かりました。魔法少女が戦うことで被害が拡大している。だから新しい部隊をということですか」
里美「簡単に言えばそういうことだ。最も魔法少女ランキングがなくともこの部隊はもともと作るつもりだったが・・」
龍介「魔法少女ランキングがなかったとしても、ですか」
里美「ああ。年端もいかぬ少女を戦わせて大人が守られているだけなんておかしいだろう。今もなお彼女たちは無償の愛で妖魔と戦ってくれている。恐怖を押し殺して・・・。だから私たち大人が戦わねばならない。大人としての責任を果たさねばならない。私たちが彼女たちを守らなければならないのだ」
里美は強く握った拳を震わせながら力強く語る。
里美「だからっ。力を貸してくれ。大切なものをまもるために、愛する故郷を守るために、そして彼女たち魔法少女を守るために。たのむっ」
里美が深々と頭を下げる。龍介、寧々、蓮人、麗香の4人は驚いた表情を見せた後、顔尾を見合わせて里美に返事を返す。
龍介「もちろんです。断る理由なんてありませんよ」
寧々「りょーかい。りゅうがやるならとうぜんわたしも」
蓮人「思うところがないわけじゃないですけど、少女たちに背負わせるには重すぎることだってことも分かります。だから、今度こそ守れるように俺もっ」
麗香「彼女たちに戦場は似合いませんわ。華やかなステージにいるべきですの」
里美「すまないな皆。よろしく頼む」
4人の了承を聞き里美はもう一度深く頭を下げた