オオキンケイギクとの出遭い
黄色い花が、咲いている。
近所の公園へ、犬と散歩しに行ったら見つけた。
生い茂る雑草にまじって生えていて、特に人が植えた風ではない。
どことなく、シレッとした顔をしているように思えた。
そんな植物を、市役所は「見かけたら抜いてほしい」と広報していた。
名前はオオキンケイギク。
特定外来生物というやつらしい。
海外から持ち込んだはいいが、どんどん増えていって、いろいろと困ったことになる。だから抜いて、その場にさらし者にしてやってほしいのだと。
特定外来生物。テレビ番組などで見かける言葉だ。
池をおよぐ亀や魚、カエルにもそういうやつがいると見たことがある。
そいつらはまあ元気よく動いていたが、こんな花を咲かせる植物も同じくくりなのか。
しかも近所の公園に、シレッと生えているとは……。
でも、そこまでたくさん生えていただろうか?
そんな疑問は、5月の夕方。犬の散歩ついでに、公園へ立ち寄ったら解けた。
めちゃくちゃ生えていた。
南向きで日当たりのいい、公園の外周。
道路より少し盛り上げて作られた斜面。
いろんな雑草が生い茂っている草むらの中で。
もしゃあ……もしゃあ……と葉を出しまくっている。
一度覚えれば、そうそうほかの植物とは間違えない。
地際からまっすぐに、ほそいヘラのような葉が、何十本も伸びている。
色はやや薄緑といったところ。細かい毛が生えているのもある。
特徴的な形をした葉と同じところから、すっと伸びた花茎の先にうす黄色いつぼみがひとつ、ついている。
黄色い花びらが開くと、ちょっとヒメヒマワリに似ている。
そんな緑の塊が、そこかしこで群れ茂っている。
だが今は、葉だけの塊が多い。
まだまだ、つぼみや花の数は少ないようだ。
――案外きれいだよな、これ。抜いていいのかな。別に、そのままにしてもいいんじゃないか?
そんな思いを持ちつつも、とりあえず草をつかんで引っ張った。
これはだめだ……。
葉と花はまあいい。根が問題だ。
地面をぐぅっとつかんで離さない。
葉はさらし者にできても、根は元気だ。
地面から覗く根が言っている。
いいですよ、ここからまた生えますから、と。
まだ1メートル四方の平面しか見ていないのに、いったいどれだけあるのか。
とてもじゃないが抜き切れない。
だんだんと体が痛みと熱を持ってくる。
はじめはつかむ指、次は腕、そして肩。
しゃみこんだ腰がつらい。ひざが笑う。
西日がちりちりと肌を焼く。
ぬるい風に乗って羽虫が顔に突撃してくる。
草いきれと土の匂いが鼻を衝く。
なぜだ。なぜこんなことをしているのだ? そうだ、市役所が言っていたんだ。
確かにこいつらをそのままにはしておけない。抜かねばならない。
蕾がついた大きな塊をむしり取っても、根がびっしりと残る。
顔を横に向けてみれば、まだまだこれから伸びますね、と言っているやつらがいくつもいくつも目に入る。
やつらが雑草の茂みの中で、そよいでいる。
だめだ。こんなにもよく晴れた5月の日では。
機を改めなければならない。
もっと、こう……、雨が降って、地面にしみ込んだ後がいい。
汚れてよい手袋で、力の入るものがいい。
だがこれ以上は道具に頼らないでおこう。
やつらはこの場を動かない。この両の手で、抜き去ってやろう。
人間の力を、味わわせてやらねばならない。オオキンケイギクに、思い知らせてやらねばならない。
葉も、蕾も、花も、そして根も。すべて覚えた。
もはやその姿には禍々しささえ感じる。これが特定外来生物か。これが、我々の世界で静かに広がっているのか。
次は、勝つ。今日はこのくらいにしておいてやろう。そうだな、わが犬よ。
犬はせつなそうな顔をして私を見ていた。そうか、トイレに行きたいんだな――。
犬は無事、用を足しました。ごめんよ。