☆メインストーリー1-5「緊急脱出」 ※挿絵有
滑り台のようなものに流されている!!
流しそうめんの麺になったような気分だ!
住研究所。
地下には格納庫がある。
さらに地下までは無数のパイプが繋がれていて
指令室から操作することで
滑り台のように安全に運ばれる。
だからあっという間に地下の指定された地点に運ばれるんだ!
サポート型AI、ノアの説明が流れる。
しかし俺は滑り台で絶叫しているため頭に入らない。
「あんた、男でしょうが!
何女みたいな悲鳴を上げてんのよ!」
手元からガミガミする声がする。
意図せず織姫をお姫様抱っこしていたようだ。
そんな男がその体勢で女のような悲鳴を上げている。
非常に混沌とした状況だ。
一瞬が何時間にも感じる。
しかし永遠というわけではなかった。
今腰のあたりにクッションが当たる感覚がした。
「とーちゃく!!
速攻!!
スミス号発信!!」
ノアの声が響く。
もうどんな状態か全然頭が付いていかない。
かろうじて分かるのはお姫様抱っこしたこの状態。
シートベルトのような物でぐるぐる巻きにされたことだ。
エンジンの轟音と共に強い重量がかかる。
独特な形をした機体の前に滑走路が展開された。
後部から大きな質量を持つ炎を吐き、機体は急加速する。
すぐに地下の天井が割れ、侵入者パンダ男が落ちてきた。
大剣を振り下ろし機体を両断しようとしたが寸前で外す。
そして10秒もしないうちに地上に出た。
近所の開けた公園からスミス号は天の川が見える夜空を飛び立つ。
これが外での光景ではあるがパニック状態の淘汰は気付いていない。
先ほどまで縛られていたがやっと解放された。
手元でもぞもぞ動く織姫が離れる。
シートベルトで二人ともグルグル巻きにされていたのだ。
それもありめちゃくちゃ暑かった。
目の前に広がるのはヘリコプターの内部のような風景。
生き残りは俺と織姫と操縦中のノアだけだろうか?
一瞬の不安。
しかし聞き覚えのある声が吹き飛ばした。
「人が真面目に戦ってた中。
おませをしてるでないぞ、那藤少年!」
視線を上げると左肩を抑えたじいさんが立っていた。
安堵から笑みを浮かべようとした。
しかしぞっとすることに気付く。
「じいさん、左腕が!」
「ああ、あいつ強かったわい。
死ぬかと思ったがわしら人類は肉体を奪われた。
元々死んでるようなものさ。
なにせ生身のように見えて偽物の体じゃからのう。
部品の取り換え感覚で直せる。
片腕でぽちを修正したしな!
しかも一瞬で。
よーしよし、わし褒めていいぞ!」
「ガウガウ!」
ぽちが俺の足にタックルしてよろめく。
なんてバイオレンスな犬なんだこいつは。
操縦席からノアの声が響いた。
「ぽちの回復はこのスミス号に備わっている機能。
アンドロイド自動修正プログラムでしょ?」
「勘のいいガキは嫌いじゃけ」
ノアの一言に毒を吐くじいさん。
まあ誰がやってくれたか今はいい。
皆が無事で本当に良かった。
「じゃあそろそろみんなも落ち着いてきたし、今後の方針。
それと状況を整理しましょ」
織姫は何かを飲みながら問いかける。
美味しそうな飲み物だ。
「何を飲んでるんだ?」
「カルーアミルク。
あんたも一応21歳になるんだし飲む?
お酒だけど」
「いや俺は遠慮しておくよ、16歳ってことにしてくれ。
整理がついてないけれど"21歳を認めること"それは奪われた5年を認めることになる気がしてな。
ってお前酒飲める歳とか、何歳だよ!?」
急に程よい痛みの腹パンが入った。
そうだな確かに女に聞く質問じゃないか。
よせばいいのにじいさんが便乗した。
「時というものは残酷のもの。
だってお前さん確か5年前も飲んでなかったかそれ?」
言わなくていい言葉なのは明確だった。
凄まじい速さでじいさんには腹蹴りが入る。
破天荒な奴だな。
しかしそうか。
俺は本来成人していておかしくないのか。
16歳までの記憶が正しければこの時代では18歳が成人。
そして飲酒可能年齢は20歳。
だがそれ以前に社会的責任能力が至っていないと感じた。
そこに至るまで精神年齢が追い付いていない。
体が伴っていても、年相応の精神を伴っていない。
ギャップがあるせいで気持ちの整理がつかないのだ。
情報すら曖昧だ。
じいさんはそんな曇った表情を察したようだ。
「ごほん、まずわしらの状況だな。
注目すべき事が幾つかある。
電脳王彦星、フェンリル、000(ゼロ)、謎のパンダ」
「わしらはこの5年間何をしてきたか?
それは仮想空間に転移するための準備である。
様々な目的を果たすためじゃけ。
電脳世界と人類を支配した電脳王彦星との決戦。
全人類精神凍結プログラム、『フェンリル』の停止。
お前さんが復活したら指揮を執ってもらいたかった。
彦星を満身創痍まで追い詰めた英雄じゃからの。
しかし意識を000(ゼロ)に奪われたのが痛かった。
その影響で記憶障害を起こし、今に至る。
先ほどの状況から分かると思う。
彦星にはすでに場所を特定されておる。
とんでもない強さのパンダにも狙われておる」
「あれは一体誰なんだ?」
記憶を失う前の俺は仮想空間でパンダの姿だったという。
じいさんは肩を竦めた。
「分からん、今までに無い敵だ。
だがお前さんの過去のアバター。
パンダのアバターと姿や戦い方が酷似している。
異常な反射神経と独特的な攻撃、現状で彦星並に脅威じゃな」
「絶望的じゃねえか……。
それよりも俺は英雄とかそんな重い役割なんて」
俺は委縮してしまった。
記憶喪失で自分という存在それを立てることすら必死なのに。
すると軽く背中をバチンと叩かれた。
「シャキっとなさい!
まずはそれだけでいい。
だって今出来ることがないんでしょ?」
「!」
表面上はムカつく言葉ではある。
しかし不思議とその一言で沸き立つものがあった。
記憶を失う前の自分は信頼されていたのだろう。
それなのに今は自分自身で精一杯である。
でもこれだけは言える。
どんなに思ってもこの状況は変わらない。
全てを失って0となっても、動かなきゃ0のままだ。
息を大きく吸うと親指を立ててこう言った。
「俺なら大丈夫だ!
言ったよな?
俺は失った記憶を取り戻したい。
じいさん。
都合の悪いことは、思いつく限り教えて欲しい。
立ち向かいたいんだ!」
じいさんの目がぱっと開いた。
照明が目に入り輝くように見えた。
「なんかお前さん、前よりも異様に明るくなったな。
まあここからは良いことだ。
000は人類にとってとんでもない脅威だった。
今は細かい話は置かせてくれ。
だが断言する。
お前さんのおかげでこれ以上にない味方になった。
しばらくは彦星も手を出せまい」
「000が味方?
どういう事だ?」
「あーそこは相変わらずじゃな。
頼むから鈍感が過ぎて、刺されないでおくれよ……。
ボートを流す演出は2000年初頭だけで十分じゃけ」
「脱線しない!!」
じいさんの小言に織姫が一喝した。
見た目の割に声に凄みがあるな。
じいさんは咳払いをすると続けた。
「お前さんが復活したんだ。
わしらは希望を見出せた。
それだけの話じゃよ。
仮想空間に関してはダイブを許可する。
というか早速行ってくれんか?
いつまでこの状況が続くか分からんしな。
メンバーは織姫、ぽち、お前さんじゃ」
見た目的に見ると頼りないようには見える。
心の中でそう呟いているとぽちが吠えた。
「ガウガウ!!」
「ヒョロガキ、足引っ張るなよだって」
「結構キザなんだな。
ああ、役に立てるように精一杯頑張るさ」
織姫の通訳に頷くと、ノアがため息をついて訂正した。
「適当に言わない!
正確な訳は
クハハハハ!!ク・ソ・ガ・キ☆」
「いやむしろどんな訳だよ!」
幸先あまりにも心配な冒険だ。
だが少なくとも
こいつらは信頼できると思う。
さて仮想空間か、VRMMO的な世界か?
それとも現実世界に近い世界か?
期待に満ち、ダイブに必要な機器を受け取る。
俺が16歳になるまでには存在していたはずだが、どうやらそこまでも記憶が曖昧だ。
確かに未知の冒険に恐怖感はある。
でもそれ以上に不思議と好奇心か。
武者振るいがしてきた。




