☆メインストーリー1-3「人工衛星型兵器」※挿絵有
「検査の結果、お前さんは仮想空間への適正が戻った。
こりゃあ信じられない話だわい」
じいさんは装置に繋がれた俺、淘汰に声をかける。
この検査室にはじいさんと俺しかいない。
一対一で話したいと呼ばれたのだ。
昨夜俺から記憶を奪った女、000(ゼロ)と接触をした。
その話をしたところ、検査室に案内された。
昨夜俺は000にあるものを渡されていた。
天使の輪だ。
モニターには忠実に再現されたそれが映っている。
しかし実際には見えない。
「これはお前さんにとって有害か、利益か。
できればお前さんは最後の人類。
安置にいてもらいたいが」
確かにそうだよな。
仮想空間には行きたいとは思っていた。
しかし敵と思っていた000からの急な助力。
理由はこうだ。
世界を支配している電脳生命体GM。
そのリーダーである彦星の計画。
000はそれに対しての関心を得ない。
だから俺が利益になるように行動したと。
拒否する間も与えられず天使の輪を渡された。
これは仮想空間へのアクセスを可能にするらしい。
それが本当なら非常にうまい話だ。
しかしパっと考えて、いや考えなくとも危険な匂いがする。
俺がじいさんでも最後の人類にそんな賭けは出せない。
そう考えているときだ。
目の前を赤い光が点滅した。
今度はなんだと辺りを見回す。
すぐに横からホログラムが起動しノアが映った。
自称この研究所のサポートAIだ。
「二人でいるとこごめんね。
大変なことが起きた!
これを見て!!」
俺はホログラフから現れる光景を見つめる。
そこには青い星が映っている。
地球だ。
そこを巨大な人口衛星が飛んでいる。
じいさんが突然悲鳴に近い大声を上げた。
「こいつはまずい!
衛星軌道型兵器、ラグナロクだ!!
あれ自体が核と重水素の塊。
つまり巨大な水素爆弾そのものだ!
そいつをぶちかませば、地球の海面ごと焼け上がるぞ!!」
「これを彦星が放とうとしているんだ!」
じいさんの説明とノアからの報告から俺は唖然とするしかなった。
突然直接頭へ声が流れ込んできた。
『聞こえておりますか?
私の名前は彦星。
電脳王彦星。
100億の人類を支配した存在です。
しかし私に絶望を教えた男、淘汰を忘れません。
忘れられたとしても……』
聞こえる声は人工的に作られた無機質な声だった。
しかしそこに急に熱が帯びる。
『あなたがどこにいるかはずっと知っていた。
これからお前は私を脅かすだろう。
人類が残した最後の人間として!
私は唯一敗北したお前をこのタイミングで討つことにした。
過去の貴方は言いましたね。
出し惜しむな、と。
だから言葉通り大きな犠牲を払ってでも、全力で滅ぼす!
己が文明の……最大の罪に焼かれてしまえ!
失せて消えろ、淘汰っ!!!』
衛星軌道型核兵器が光り始める。
「これ完全詰みだよ!
現実空間は仮想空間と違って、テレポートできない!」
ノアがさじを投げた。
一瞬の出来事で俺は何も対処することが出来ない。
その時だ。
不意に頭の上に質量を感じた。
無意識にそれに触れた。
~???
気が付くとそこは白い空間だった。
そして目の前に何度も恐怖を感じた相手がいた。
「何度も君の前に現れて、しつこいと思われるかもだけど。
君が呼んだんだ。
頭にある天使の輪は見えても見えなくとも
触れれば私に助けを求めることになる」
000だ。
なるほど助けを請うときは呼べという事なのか。
こいつに頼るのはなるべく避けたい。
反射的に声を上げようとした。
しかし000が先に畳みかけるように話す。
「ここから戻って1秒。
そこからあの人工衛星型兵器を止めるのは無理。
だから初回ってことで咎めないよ」
意識が戻ると辺りから声が上がった。
真っ先に彦星の声が聞こえる。
『お前は、000!!
何故だ、お前は私……いや僕の駒の1つのはずだ!
裏切るのか!?』
衛星軌道兵器が止まる。
そこには驚くべきことに、地球を背にした000が映った。
「駒ぁ?
自分が主人公だとか思ってるの?
あははは、あなたこそ将棋でいう王将でしかないのに?」
『っく、お前は邪魔ばかりだ。
良いだろうこの際ユーラシア大陸ごと消してくれる!!
照射準備。
核分裂反応開始、重水素をHeに変換!
放て!核融合反応!!』
その声と共に光りを強める人工衛星。
俺は知らぬ間に祈っていた。
この攻撃から助けてもらうことを。
000とホログラフ越しに目が合った。
にやりと笑うのが見える。
彼女は白い刃を取り出した。
「私には寿命という概念がない。
この力を使いあなたを倒した存在。
そして燃え尽きた存在、淘汰。
彼と違って私にリスクはない」
『その技は!?』
紅く染まった刃、そこからひびが入り光がこぼれた。
「猩ノ刃!!」
途端に紅に染まったナイフが砕け散る。
膨大な熱量が集約される。
人工衛星型兵器ラグナロクも融解を始めた。
本体がそのまま光を発する。
地球・ユーラシア大陸に向かい膨大な光が放たれた。
まるで太陽光のようだ。
000は右手に溜め込んだエネルギーに勢いよく反動をつけ、その光にぶつけた。
両者がぶつかり合う。
どうやら威力は拮抗しているように見えた。
しかし
「あはは、はははは、ははははは!」
000はおぞましい声を上げ、仰天するようなことを起こした。
左手からさらに新たな猩ノ刃。
それを合成し両手で放ったのだ。
ぶつかっていた二つのエネルギー。
一気に000側からの力が押し勝ち、視界が光に包まれた。