1日目 始まりの日! -午後②-
6月12日 サブタイトルを設定
9月6日 一部台詞を変更
ガチャ、と大きな扉が開いた。それと同時にスマイルはソファーから立ち上がって跪いた。
「コール!早く!」
「!」
遅れてコールも跪く。大きな扉から入ってきたのは女王、ティファニーと侍女が二人だった。生まれてから一度も女王を見たことがなかったが、すぐ分かった。侍女二人はやや大きい袋と大量の紙をワゴンにのせて運んでいた。
「そんなそんな、跪かなくて大丈夫ですよっ!さ、ソファーにお掛けになって」
姿勢よく跪く二人を見てティファニーは手をブンブン振りながら言った。
「…ありがとうございます。失礼します」
ティファニーもニコニコしながらソファーに座った。とても可愛らしい。驚いたことに、そのティファニーの琥珀色の瞳に花が浮かんでいた。この瞳は多分、ティファニーにしか似合わわないだろう。
「本日はお忙しい中ありがとうございます。」
「いえ、こちらこそお招きいただきありがとうございます」
「では早速本題に入りますね。最近影の魔物の悪戯が一層に激しくなったと思いませんか?」
「はい…物を盗られたり畑を荒らされるなどとよく耳にします」
『影の魔物』。それは野生の魔物とは違って力が強く、全身が黒一色。魔王の妬みや嫉み、憎しみなどから生み出されていると国の調査団によって分析されたのは記憶に新しい。
「そこでなのですが、私の能力─予知─を使ったところ六年後の感謝祭の日に魔王と影の魔物がリリウム国を襲う…と」
この世では能力が使える人間が存在する。中には使えない人間もいる。また、便利な能力もあれば面倒な能力もある。
「六年後…その間に何か起こったりとかは」
「すみません、そこまでは分かりません…」
「それまでに魔王をぶっ倒せばいいってことだな」
コールが敬語も使わずに会話に突っ込んできた。相手はこの国を治める女王。あまりにも失礼すぎてスマイルはゾッとした。
「ぶっ倒す…って言うか、ちょこっと、ちょこっと懲らしめるぐらいで良いのでっ!死んじゃったりしたら可哀想なので…では、ルートの確認ですけど…」
ティファニーは大きな地図を机に広げながらそう言った。コールの無礼を怒ったり注意をしたりするなどせずにニコニコしながら話続けた。お人好しすぎる。
「スタートはお二人の村、ラモンダの村です。ここからトリフォリウムの村、ダフニーの村、サクラの村、マトリカリアの村、ロンギフォリアの村、ルベルブの村、テューダーローズの村を順々に回っていき、最終的にはオトギリの地に辿り着きます。お二人には魔王に立ち向かうために、仲間として指定の人物を集めていただきます。その指定の人物はお二人を含めずに八人。こちらの地図で私が八人の情報を浮かび出しますのでご安心ください!」
ティファニーは別の地図を取りだし、開けて見せた。その地図は机に広げた地図よりは小さかったが、それ以外は普通の地図と変わらなかった。
「…その、お二人はこの旅を受けていただけますか?」
「ああ、もちろん。で、それは普通の地図と変わらないが…どうやって浮かび出すんだ?」
「ふふふ、それは…魔法でですわっ!見ててくださいねっ」
ティファニーは地図を片手持ち、目を閉じる。すると大陸しか描かれていなかった地図に文字がじわじわと浮かび出てきた。
「これが魔法か…!初めて見た」
「ふふふっまだまだいきますよ!サラさん!」
「はい」
サラさんと呼ばれた侍女が大量の紙が乗ったワゴンを近くまで運んでくる。ティファニーは目を閉じて右手の人差し指をスイ、と動かしたかと思うと紙がまるで生きているかのようにワゴンからテーブルに移動した。
「文面はこれで良かったかしら」
紙を動かしたその指をクルクル回すと全ての紙に文字が浮かび出した。
「よし!これで良いわね!」
自信満々に目を開き、左手の人差し指で離れた場所の窓を開けた。先ほどの右手の人差し指をスイスイスイ、と動かすと紙が紙飛行機の形になった。その操作をしている姿は、とても可憐でオーケストラの指揮者のようにも見えた。
「行ってらっしゃい!皆さんにしっかりお伝えするのよっ!」
人差し指を窓の方に動かすと紙飛行機が飛び、次々に外へ出ていった。スマイルとコールは何がなんやらという顔をしている。
「生きてるみたいだ…しかし、なぜ女王様は魔法が使えるのですか?」
「実は、私は予知というかなり強力な能力を持っていますが、その能力を一回使うと四か月間は使えないのです。そこで私は魔法を頑張って勉強し、身につけましたのっ!」
ティファニーは手をブンブン振って自慢げにそう言った。
((かわいいなぁ))
二人はティファニーを見てそう思い、癒された。または何かが浄化したような感覚だった。
「あっ、資金はこちらでご用意してありますのでご自由にお使いください。それと…」
ティファニーは侍女が運んできたワゴンに乗せてあった袋を取った。十袋はありそうだ。
「この袋をお持ちください。この袋も特殊でして…袋より大きな物を入れても大丈夫です。いろんな物を入れることができますし、取り出すこともできます。これも魔法がかかっていますの。ぜひ、お二人だけでなく皆さんにも。お腰につけると丁度いいと思いますわ」
と、言われても紐に小さな水晶があしらってあるぐらいでそこら辺の袋とは何も変わらなかった。しかし、先ほどの魔法を見たせいか魔法の袋なんだろうとすぐ飲み込めた。
「凄い…ありがとうございます」
「ええ。本日は以上です。お見送りいたしますわ!」
資金と地図を早速その袋に入れてみた。本当に入ってしまった。二人は感心しながらまた長い廊下を歩いていく。靴の音が遠い先まで響く。コールはまた天井を見上げている。
「失礼ですが、お二人にはどういったご関係で?」
「幼馴染みだな」
コールがスマイルの肩に腕を回した。慌てて腕を除けようとする。それを見てティファニーと二人の侍女が笑う。
「仲がよろしいのですね」
「ははは…すみません、騒がしくて」
「いえ、こういう会話好きなのでどうぞ続けてくださいな」
小話をしながら歩いているといつの間にか外に出ていた。長い廊下が一瞬で終わったように感じた。スマイルとコールはティファニーと侍女に一礼をし、家へと返る。
「緊張したな~。僕たちちゃんと出来るかな?…コール?」
「………」
コールは返事をしなかった。すぐ隣にいるのに声が聞こえないはずが無い。スマイルは心配になってコールの肩に手をのせた。
「コール?生きてる?」
「っ!?」
ビクッと肩を跳ねらせてこちらを見てきた。思いもしていなかった反応に驚き、手を引く。
「…ごめんね、もしかして緊張してた?」
コクン、と頷きだけを返してきた。真顔なのが地味に怖くてジワる。
「緊張してたわりには失礼な喋りで」
「けっ、敬語が分かんねぇんだよ!文句あるか!?」
「マジか。十七にして敬語が分からないのか…」
コールが顔を真っ赤にして反論した。スマイルはどうどう、とコールを宥める。その一部始終をティファニーと侍女は見ていた。ティファニーが何やらウズウズしている。
「…サラさん…セラさん…っっ最っ高じゃないですか!私の好みのカップルよ!」
「はい!幼馴染みっていうのがまた良いですよねー!」
「コール様が攻めかしら…!」
「気になりますわ…そこで役立つのがあの水晶!いつでもモニタリング出来ますわっ!」
キャッキャッ、と三人で手を繋いで盛り上がる。会話からしてその三人は腐女子だった。天然のBLを拝むために用意した勇者ではなく、本当に魔王を懲らしめるために用意した勇者だった。そこにBLを拝みたいという願望を付け足したようなものだ。魔王を懲らしめることも出来るし天然のBLも拝める。三人にとっては一石二鳥だ。スマイルとコールはもちろん、その事は知らない。