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ソーサリー・マニアック!  作者: 川奈雅礼
第一章 異世界のSM志願者
2/22

1 変態鼻血は逃げ惑う

【第一回これまでの話を一行で振り返るコーナー】

マサキがおっぱいのために異世界へと旅立った!(違

 フワリとした酩酊感が全身を襲う。

 数瞬の「転送酔い」を味わったマサキは、片膝をついたまま、転送とは別の理由で痛む鼻頭を右手で押さえた。

「クソッ、セイディのヤツめ。思いっ切り顔面を蹴りやがって。ピンクとか似合わねぇぜ」

 どさくさでセイディの下着センスにケチをつけながら、マサキは鉛のように重くなった頭を持ち上げる。肌に絡みつく湿った空気と、鼻腔を刺激する花の香り。一体どこに転送されたのか、妙に視界が霞んでよく見えない。まだ転送酔いの影響が残っているのだろう……。

 取り敢えず前方に目を懲らしてみる。すると、至近距離にマサキを見つめる顔があった。

「ぬわぁ!」

 マサキはギョッとして、思わず間抜けな声をあげてしまった。

 爽やかなクラウドマッシュでまとめたグレーの髪。その前髪の下で、漆黒の瞳を宿した鋭い目がこちらを凝視している。

 見覚えのあるその顔を見て、マサキはすぐに胸を撫で下ろした。何のことはない、それは鏡に映っているマサキ自身の顔だった。少しだけ鼻血が出ているものの、これほどのイケメンはマサキ・フィールズをおいて他にいない。

「頭脳明晰にして眉目秀麗。おっぱいをこよなく愛する絶世の美男子。そう、すなわちオレ!」

 これで魔力不全さえなければ、今頃はグラン王立魔法学院で女子生徒たちに囲まれ、キャッキャウフフの青春を謳歌していたに違いない。

 そんな都合のよい妄想に溺れながらも、マサキが明晰だと自認する脳細胞は、決して現場の分析を怠らなかった。そして導き出した結論が「ここは浴室」である。

 花の香りは石鹸であり、視界が霞んでいるのは立ち込める湯気の所為だ。つまりマサキは、異世界の浴室に転送されたのである。

「まったく、とんでもない場所に来たもんだ。……って、あれ、ちょっと待てよ!」

 転送酔いから醒めたマサキは、もうひとつの重大な可能性に気づいて動きを止めた。

 石鹸の香りが漂い、大量の湯気が室内を満たしている。つまりそれは、この浴室が「使用中」であることを意味しているのではないか。

 そんなマサキの思考を嘲笑うかのように、そのとき背後でガタッと物音が響いた。恐る恐る振り返ると、浴室の窓を背に白いバスタブが鎮座しており、そこに下半身だけ湯に浸かる小柄な少女の姿があった。

 案の定、浴室は使用中だったのだ。闖入者としては逃げるべき状況といえる。しかしそこはマサキである、いっそ開き直って少女をしげしげと観察することにした。

「ふむふむ……」

 短く切り揃えた淡い青髪に、夕焼け空を写したような茜色の瞳。少女はマサキと目が合った瞬間、華奢な白い肩をビクリと震わせた。

 言うまでもないが、少女は生まれたままの一糸纏わぬ姿だった。おっぱい魔眼がなくても分かる小振りな胸を左手で隠し、振り上げた右手には湯桶という名の凶器を掲げている。先ほどマサキが聞いた物音は、少女が湯桶を「装備」したときの音だったのだ。

「あ、お邪魔してますけど」

 マサキは、母国ナイアスタークの公用語であるエクシア語を使い、取って付けたように挨拶した。その場違いも甚だしい陽気な挨拶に少女は目を剥き、大きく開いた口で一気に息を吸い込んだ。そして次の瞬間、

「ぎ、ぎょわあぁぁぁぁぁぁ!」

 少女は笑顔を浮かべるマサキに対して、実に個性的な悲鳴と、鋭く回転する湯桶で応えた。

「ぶへしっ!」

 セイディの蹴りで痛めていた鼻に今度は湯桶が直撃し、いよいよ鼻血が勢力を拡大する。

「いかん、このままではイケメンなオレがブサイクになってしまう。世界的な損失だ!」

 思わぬ危機に瀕したマサキは、大慌てで湯煙の立ち込める浴室を見まわした。

 もう一度ゲートを使って、いったん学院の屋上まで戻る腹積もりだった。リサの捜索を放棄するのではなく、あくまで態勢を立て直すための一時的な撤退だ。しかしいざゲートへ駆け込もうとすると、肝心のそれがどこにも見当たらなかった。

「え、ウソだろ、これって……?」

 そもそも浴室にゲートなどあるはずがない。

 本来ゲートとは、転送元と転送先にひとつずつ設置され、双方向の異世界転移を可能にする装置である。しかしリサの作製したLGMは転送元しか存在せず、一方通行のゲートだった。ひとたび使ったが最後、決して後戻りは許されないのだ。

「うぉい、どうすんだよこの状況!」

 所詮は個人が拵えたゲート。管理局のそれとリンクしているわけもなく、惨憺たる転送結果となった。マサキは退路の確保もままならず、少女の次なる攻撃に怯えるばかりだった。

「どうしました、リサ? 何やら騒がしいようですが」

 恐慌状態のマサキに追い討ちをかける形で、今度は浴室の外から高い女性の声が響いてきた。青髪少女の他にも人がいるようだ。

 マサキはこの窮状に狼狽しながらも、LGMの転送先が、異世界テラの島国「ジパング」であることを悟った。室外の女性が流暢なジパング語を発したからだ。人気異世界語ランキング堂々の一位に輝くジパング語は、魔法学院に通う生徒であれば誰もが習得済みの言語だった。

「……いや、そんなことより!」

 そう、今マサキが最も留意すべき点は、室外から投げかけられた声が、青髪少女を「リサ」と呼んだことである。

 マサキは手の甲で鼻血を拭うと、舐めまわすような視線で眼前の少女を観察した。

「な、何ぞ……」

 身の危険を感じたのか、少女は幼い声に動揺を滲ませると、今度は石鹸を「装備」した。

 しかしマサキはそれに構わず、ひたすら少女の顔を見ることに集中する。記憶にあるリサの髪型は、青髪ロングのストレートヘアだ。髪が短い上に濡れていたので印象こそ違ったが、目の前の少女は、よくよく見れば確かにリサ・ロットフォードその人だった。

「まさか、いきなり目当ての人物に接触できるとはな。捜索すらしてないぜ。はっは」

 何はともあれ僥倖である。マサキはさっそく、LGMの性能に関する苦情を言ってやろうと口を開きかけた。だが自分の為すべきことを思い出すと、クレームの衝動を引っ込めて本来の「仕事」に取りかかる。

「おいちょっと待て、おまえリサ・ロットフォードだろ? いいか、落ち着いてよく聞けよ。オレは、おまえの親友であるセイデ――」

「黙れ不埒者! 恥知らず! 変態鼻血! 死にたくなければ今すぐ去ねぇー!」

 マサキの言葉は、反響する少女の絶叫と容赦のない石鹸攻撃によって中断を余儀なくされた。

 当然といえば当然だろう。全裸の少女が、のんびり闖入者の話に耳を傾けるわけがない。

 天才少女と謳われるリサに関して、マサキは、もっと冷静で超然とした女性をイメージしていた。しかし全力で恥じらう様子やヒステリックに喚き散らす姿は、その童顔矮躯と相まって、まるで子供のようにさえ映った。セイディと同じ六期生ならマサキより年上のはずだが、とてもそうは見えなかった。

「ちょっとリサ、さっきから大声で何をしているのですか!」

 そうこうしているうちに、今度はマサキの背後でいきなりドアが開いた。

 そして浴室に姿を現したのは、リサとは対照的な大人びた印象の少女だった。

 湯上がりなのか、彼女は頭をすっぽりとタオルで覆い、ジパングの伝統衣装であるユカタを着ていた。落ち着いた藍色の生地には、可憐に舞う鮮やかな蝶の図柄。その楚々とした立ち姿と、左目尻の小さなホクロが魅力的だった。

「え、あ、あなたは……」

 ユカタ少女は、いるはずのない闖入者を目の当たりにして驚き、その場に凍りついた。逃げるなら、まだ彼女の思考が停止している今しかない。

「ごめん!」

 マサキはユカタ少女を押し退けると、浴室のドアから強引に飛び出した。

 リサについては後まわしだ。取り敢えず、彼女の生存確認ができたことに満足するしかない。今は逃げなければ大変なことになる。ジパングという国には、痴漢はたとえ濡れ衣であっても、殆ど有罪になるという恐ろしい伝説があるのだ。

 それに、マサキの容疑は痴漢だけでは済まされない。

 正規の手続きを踏んで転送していないため、マサキはゲート管理局発行のパスポートを携行していなかった。痴漢に加えて不法転送。ここで捕まったら完全にアウトだった。

「ま、待ちなさい!」

 背後から、ユカタ少女の制止を促す声が飛んでくる。

 マサキはそれを無視すると、左手に見える玄関を突っ切って長い廊下へと身を躍らせた。

「うおっ、眩し……」

 そこは室内よりも明るかった。周囲を煌々と照らす人工の光は、デンキと呼ばれる、異世界テラ独自の技術だった。マサキが住むナイアスターク王国のような「魔導インフラ」ではない。何度かジパングを訪れているマサキだったが、この魔力を使わない光源を見るたびに、いつも小さな驚きを覚えるのだった。

「それにしても、ここは何の施設だ?」

 廊下の左右の壁を見やると、等間隔で同じ模様のドアが並んでいる。マサキは、大人数向けの宿泊施設だろうと当たりをつけた。これとよく似た建物が、ジパングの建築文化を多く取り入れたナイアスターク王国にも存在するのだ。

 とはいえ、祖父の遺してくれた家から魔法学院に通うマサキは、宿泊施設とは縁のない生活を送っていた。その物珍しさから、つい逃げる足を緩めて、キョロキョロと廊下の様子を観察してしまう。

「ちょっと見て、不審者がいるわよ」

 先刻のリサの悲鳴を聞きつけたのだろう、気がつくと人が集まり始めていた。いずれも少女ばかりで、示し合わせたようにユカタを着ている。花柄をあしらった明るい色が目立つ。

 集まった少女は全部で七人ほどだが、不思議なのは、その中に一人もジパング人が混じっていないことだった。ジパング人の特徴である「黒髪黒眼」が一人もいないのだ。なのに、ざわつく声はジパング語を紡ぎ、その格好は決まってユカタ姿だった。

「どうなってんだ、ここはジパングじゃないのか?」

 ユカタ少女たちはマサキを取り囲んでいたが、場違いな魔法学院の制服を見て警戒したのか、特に何かしてくる気配はなかった。

 逃げるのも忘れて、ホクホクとおっぱい魔眼で胸の大きさを測っていると、そこへ八人目の少女が姿を現した。マサキを見るなり大声で叫ぶ。

「ああーっ、男が侵入してるじゃないの!」

 その少女は、サラサラの長い金髪を首の後ろでひとつ結びにしていた。緑色に近い碧眼は、強い意志の力を宿しているように見える。湯浴み前なのか、一人だけユカタ姿ではなく水色のワンピースだった。その弱々しい胸の主張を一瞥すると、マサキは残念そうにおっぱい魔眼を閉ざした。

「この男子禁制の女子寮に堂々と忍び込むなんて。あんた、いい度胸してるじゃないの!」

 ――いや、堂々としてたら忍び込めないだろ。

 そう突っ込んでやりたいマサキだったが、いかんせん、今はそれどころではない状況だった。ここが女子寮だと分かった以上、もはや一刻の猶予もない。実情はどうあれ、マサキは傍から見れば痴漢も同然、完膚なきまでの犯罪者なのだ。窮地に立たされた今、逃げる以外の選択肢はなかった。

「覚悟しなさい、この下郎。取っ捕まえて、学園長に突き出してやるんだから!」

 サラサラ金髪の少女が、ブルージルコンの瞳に物騒な光を灯す。そして次の瞬間、マサキを捕まえようと問答無用で迫ってきた。かなり好戦的な性格のようだ。

「ヤ、ヤバッ!」

 マサキは条件反射的に走り出した。

 絶対に捕まるわけにはいかない!

 そんな断固たる決意の下に全力疾走するも、マサキが向かった廊下の先は運悪く行き止まりになっていた。逆方向に駆け出せばよかったと後悔の念が込み上げる。だがそれは、もちろん後の祭りというものだった。

「仕方ない、こうなったら器物損壊罪も追加だな」

 廊下の突き当たりは完全な袋小路ではなく、ちょうど正面に嵌め殺しの窓があった。抽象画の描かれた高価そうなステンドグラスだが、開けられない以上は壊すしかない。

 マサキはフードポンチョの懐に手を入れると、旅立つ前にセイディから貰った魔力装填符を取り出した。念話用に頂戴したものだが、今は緊急時なので構っていられない。マサキは魔力装填符を胸元に押し当て、右の手のひらを前方へ突き出した。

「最小限の力で……火球アグニ!」

 それは、最もポピュラーな下位の火属性魔法だった。

 小さな火の玉が手のひらより飛び出し、前方のステンドグラスを粉々に打ち砕く。パリーンという音が廊下に響くと、マサキは頭を抱えたまま床を蹴り、躊躇なく窓外に身を躍らせた。そして華麗に着地――するつもりだったが、その目算は大きく外れた。

「ちょ、のわぁぁぁぁー!?」

 破壊した窓の先には地面がなかった。つまり、マサキが逃げまわっていた廊下は建物の一階部分ではなかったのだ。三階か四階といったところだろう。だが正確なところは分からない。落ちている最中ということもあるが、屋外はすっかり夜の帳に包まれて見通しが悪かった。

 不幸中の幸いだったのは、すぐ近くに大きな木が生えていたことだ。マサキは落ちる途中で、重なり合う枝葉に頭から突っ込んだ。バキバキッと派手な音を立て、枝が次々と折れていく。それがよい具合にクッションの役割を果たし、カスリ傷程度で事なきを得たのだった。

「痛てて……。まったく、人を捜しに来て命懸けの逃走とか、冗談じゃないぜ」

 尻による華麗ならざる着地を決めたマサキは、盛大に愚痴を零しながらも、鋭い視線を周囲に走らせた。

 女子寮の裏手には鬱蒼と茂る森が広がっており、夜空から射した淡い月影だけが、黒く塗り潰された木々に救いの光を差し伸べていた。マサキが着地した場所は、女子寮と森の間に横たわる、やや開けた空間だった。

「この森を利用しない手はないな」

 ただでさえ土地勘がない上に夜の森だ。月明かりがあるとはいえ、そこへ侵入するのは自殺行為といえる。だがマサキは、敢えてその危険を冒すことで追っ手を撒こうと考えた。

 さっそく森の中へと足を踏み出す。

 だが数歩進んだところで、マサキはふと立ち止まった。ここに及んで臆病風に吹かれた、というわけではない。リサの部屋が何階にあったのか、割れたステンドグラスを見て、それだけでも確認しておこうと思ったのだ。

 振り返って、女子寮の四角いシルエットを振り仰ごうとする。しかしマサキが視線を上げるよりも早く、バキバキッという聞き覚えのある音が頭上で響いた。そして一瞬の間も置かず、マサキの目の前にサラサラ金髪の少女が降ってきた。彼女は尻で着地しながら叫んだ。

「もう逃がさないわよ、この変質者!」

「うげっ、そう来るのかよ」

 とんでもないじゃじゃ馬娘だった。

 マサキは軽く舌打ちすると、部屋の確認を諦めて一散に走り出した。すぐに金髪じゃじゃ馬娘が追ってくる。ここまで接近を許してしまうと、たとえ森の中へ逃げても簡単には撒けないだろう。マサキはやむなく、もう一度だけ魔法を使うことにした。呪符カード「魔力装填符」を胸元に押し当て、迫り来る金髪じゃじゃ馬娘の足元に手のひらを向ける。

泥化クレイ!」

「な……ちょ、うわっと!」

 金髪じゃじゃ馬娘が、ワンピースの裾を翻して派手に転倒した。

 マサキは下位の土属性魔法を使って、一帯の地面を泥濘に変えたのだ。これで足の埋まったじゃじゃ馬娘は、もうこの場から動くことができない。彼女が泥と格闘している様子を横目に、マサキは悠然と森へ入ろうとする。

 そのとき背後から、マサキの耳に鋭い声が突き刺さった。

「さっき逃がさないって言ったでしょ、あんたも転びなさい!」

「へ……ちょ、ぬわった!」

 突然バランスを崩したマサキは、その場にスッテーンと尻もちをついてしまった。

 いつの間にか、足元には水溜まりのようなものが広がっている。マサキは首を傾げた。おかしい。こんな不自然な水溜まりは、ついさっきまでなかったはずだ。

「まさかオレの知らない魔法なのか? いや、でも魔力の流れる気配なんて感じなかったぞ」

 未知なる攻撃に動揺しながらも、マサキはすぐに立ち上がろうとする。しかし水は妙にヌルヌルしていて、見事なまでに滑りまくった。マサキは、少し腰を浮かせては何度も転倒を繰り返した。

「無駄よ。あたしの『すってんこローション』は、そんなへっぴり腰じゃ抜け出せないわ」

 泥にまみれた金髪じゃじゃ馬娘が、すっかり汚れた顔に不敵な笑みを貼りつけて勝ち誇った。

「何……すってんこ?」

 このヌルヌルした水のアイテム名だろう。ふざけた名前とは裏腹に、泥化の魔法と比べても引けを取らない効果だった。どうして彼女は、都合よくこんな物を持ち合わせていたのか。

「おっと、余計な詮索をしてる場合じゃないよな」

 アイテムのことはどうでもいい。今は逃げることが最優先だ。

 マサキは素早く気持ちを切り替えると、水溜まりから抜け出そうと立ち上がった。だが何度トライしても、尻もちばかりで一向に水の領域を抜けられない。

 焦燥感に駆られたマサキは、立つことを諦めて、またしても呪符カードに縋る道を選んだ。

飛翔エアロ!」

 それは上昇する大気を身に纏い、鳥のように虚空へと舞い上がる風属性の魔法だった。

 マサキは空へ逃げようとしたのだ。しかし最初こそ順調に浮いた身体は、徐々に浮力を失い落下を始めてしまう。これはどうしたことか。慌てて胸元の呪符カードを確認すると、表面に描かれた魔法樹の絵が滲んだインクのように崩れ、今にも消えそうになっていた。

「しまった!」

 呪符カードに封入された魔力が底を突いたのである。

 飛翔は、見た目ほどに難度の高い魔法ではない。だが激しい魔力の消費を伴うのだ。すでに火球と泥化を使ったあとでは、魔力切れは仕方のないことだった。

 マサキは、己の迂闊さを呪って唇を噛み締めた。

 魔法による脱出を断念し、再びヌルヌルした水の上で足掻いていると、やがて泥濘を執念で突破した金髪じゃじゃ馬娘が脇にやって来た。憤然たる面持ちでマサキを見下ろしてくる。

「よくも、このあたしを泥んこ美少女にしてくれたわね。約束通り学園長に突き出してやるんだから、覚悟しなさいよ!」

 脅し文句として使うほどだから、よほど恐ろしい学園長なのだろう。

 マサキは、髭面のオッサンが筋骨隆々の肉体で迫り来る地獄絵図を思い浮かべた。だがその恐怖の想像をすぐさま打ち消すと、震える唇で精一杯の強がりを吐いてみせるのだった。

「その学園長ってヤツは、オレを満足させられる巨乳の持ち主なんだろうな?」

【お詫び】

冒頭の「一行で振り返るコーナー」は、作者の技術不足のため第一回で終了とさせて頂きます(ぇ

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